第4話 血眼者と、人と。

 血眼者(けつがんしゃ)。

 真紅の瞳を持っていること以外には、これといった特徴がない生き物である。

 人間。動物。鳥。昆虫。ありとあらゆる地上の生物の姿を模倣したそれは、ひとつの習性を持って人々の前に姿を現した。

 それは、人間が生んだ文明社会を嫌うということだ。

 血眼者は人間が集う場所を見つけては襲い、破壊を繰り返した。

 それだけに留まらず、不思議な能力を持つ彼らは、破壊した土地の逆再生を行った。

 逆再生──土地の原生化、とも呼ぶべきか。

 平らな土地に樹木を。植物を。育て、文明社会の痕跡を根絶する行為を取ったのである。

 血眼者に襲撃された都市は、国は、土地を逆再生され、滅亡してしまった。

 残されたのは、ただただ広いばかりの未開拓の大地ばかりだ。

 丁度、此処──ロネが今いる土地のように。

「此処は元々、カウパという都市だった場所なんだな」

 山積みになった生活用品の中から地図を取り出して広げるクレテラ。

 幾つもの地名が記されている紙面をついと指でなぞり、続ける。

「血眼者の襲撃が、都市を樹海に変えてしまったんだな」

「元は綺麗な運河都市だったよ。今はもう見る影もないがね」

 アノンは地図に向けた目を若干遠くした。かつての都市の様子を思い出しているのだろう。

 彼は椅子に深く腰掛け直し、一呼吸置いて、言った。

「此処を再び都市として機能させるのがクレテラの計画らしい」

 樹海を開拓し、人が住める街を作る。

 それが、クレテラが打ち出した計画だった。

 当然、それには大勢の協力者が必要となる。

 その協力者として選ばれたのが、ロネを始めとするこの地に集った人間たちなのだ、とクレテラは言った。

「そう。これは人と血眼者との戦いなんだな。どちらが地上の覇者となるかの。命を懸けた……戦いなんだな」

「血眼者は文明のにおいがする場所に好んで現れる。開拓が進めば、自然と狩りもしやすくなるだろう」

「……狩り」

 ロネの視線がアノンの剣へと向いた。

「ぼくたちが、血眼者と戦うの?」

「正確に言うと、血眼者と戦うのは俺だ。武器を扱えるのが俺だけだからな」

 アノンは傍らの剣を手に取り、横に構えた。

 何の変哲もないただの剣に見えるこれが、実は血眼者と人とが対等に渡り合える唯一無二の手段だということを、ロネはまだ知らない。

「あんたたちは開拓者として、街を興すんだ。井戸を引き、畑を耕し、家を建てる──それが、俺が血眼者と戦うための力になる。

 戦うために街を作れ。それがあんたたちに課せられた役割だ」

「あんたたちって、ぼくの他にも誰かいるの?」

「そうなんだな。紹介しないといけないんだな」

 クレテラは地図を片付けて、ゆっくりとその場に立ち上がった。

 天幕の入口に掛けられていたカーテンを横にくつろげて、彼は微笑した。

「外においで。皆に君のことを話すから」

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