第20話変な面接
5-20
自宅に帰ると母の眞悠子が、もう怒るを通り過ぎて失意の底だった。
「お金、借りてまであの美由紀って女に会いに行って、会社を首に成って、身寄りの無いお婆さんにお金を払って、お前程めでたい子供は居ないね、奥さん居なくて正解だよ、気が狂うよ」
「会社は首に成ったけれど、お金は使わなかったよ、返済直ぐにするよ」
「会社、首に成って、支払いどうするのよ」
「来週、辞表を出して、面接に直ぐに行くよ」
「何処に、面接に行くのよ、お前の歳で使ってくれる所無いだろう」
「お婆さんが、知り合いに頼んでくれたのだよ」
「九十過ぎた婆さんが?どうせ、三流企業だろう、ガードマンか?」諦めた様に言う。
「決まれば九州に行く事に成るかも知れないね」
「今更、九州に?あのお婆さんの思うつぼだわね」
「でも、働かないと、借金払えない」そう云いながらインターネットで調べ始める廣一。
「柏木興産って不動産の会社らしいよ、多分親戚かな?」
「町の不動産屋がお前の様な素人を雇わないよ」調べていた廣一が「何よ!これ?」と叫んだ。
「どうしたの?変な会社かい?」
「いいえ、大会社だよ、売り上げ二千億って書いて有るよ」驚いた様に言った。
「大会社で、ガードマンをするのかい」
「社長は柏木孝吉さんだって」
「じゃあ、あのお婆さんの遠い親戚の会社だね、ガードマンでも給料さえ貰えれば」
「そうだよ、この歳だから使って貰えるだけで感謝だ」
直ぐに電話を久代にする廣一「来週ならいつでも行けるよ、お婆さん」と伝える。
「そうかい、火曜日にするかい?」
「良いよ、終わったら、お婆さんに会いに行くからね」
「そうかい、そうかい、楽しみにしているよ、お前を見ていたら孝さんを思い出すよ」
「お爺さんだよね」
「本当に若い時にそっくりだった」懐かしそうに話す久代なのだ。
病院で由美に美由紀が「先日ね、あの、禿げ親父がお金を持って来て、幸宏さんと別れてくれと頼むのよ」
「何故?もう別れたのでしょう、柏木さんとは」
「私が、一千万持って来たら、考えると言ったのを本気にしたみたい、かき集めて来て五百万だって言うから、追い返してやったわ」
「まだ、好きなの?」
「勘違いしているのよ、お金も無い、禿げの年寄り、顔も悪い、最悪じゃん、私が幸宏との結婚を辞めてくれたら、五百万くれると言うから、愛はお金では買えないのよ、二度と来ないで、警察呼ぶわって、言ったら泣いて帰ったわ」
「本当に、貴女の事好きなのね、だから心配なのよ」
「何が心配なのよ、幸宏とはもう結婚するのよ、住む場所見つかれば入籍して、結婚式は友達呼んでさささやかに」
「でも、柏木さんにそこまで言わなくても、彼も柴田さんと貴女の結婚に疑問を感じたのよ」
「由美まで、大反対なの?」
「好きに成れないわ、柏木さんの方が数段上よ」
「由美は顔も見てないのに、デリヘルで遊ぶ男なんて最低よ」
「柴田さんも、私の主人も遊んで居るわよ、偶々貴女は柏木さんと会ったそれだけよ、中々デリヘルの女性に此処までしてくれないわ、柏木さんは美由紀をデリヘル嬢とは思ってないのよ、なのに貴女が拘って色眼鏡で見ているのよ、逆よ」
由美にそう言われて、初めて気が付く美由紀、自分が拘っている?自分の過去に確かに拘っていた。
廣一は会社に辞表を提出して、社長に挨拶に行くと「長い間ご苦労さんだったね、いつ、九州に行くの?」とにこにこして聞いた。
首に成ったのに、笑えない廣一は「明日、面接に行きます」
「そうか、頑張って仕事をしなさいよ、嫁さんも貰わないと、いかんな」
「は、はい」
意味のよく判らない会話で別れて、会社を後にした。
加藤が最後に「元気で」と肩を叩いた。
加藤には意味が判らない柏木の退職だったからだった。
翌日、廣一は九州に向かった。
母には一泊してくるかも知れないと話していた。
それは久代に会いに行けば、また引き留められると思うからなのだ。
柏木興産の本社ビルは博多の駅を降りると目の前に在った。
新幹線の改札口にあの有馬靖子が待っていた。
「いらっしゃいませ」と軽く会釈をした。
「お迎えに来て貰えるなんて、思っていませんでした」微笑みながら会釈をした。
「お婆様に出迎える様に言われまして」
「えー、お婆さんに忠実なのですね、ホームのヘルパーさんでは無いですよね」
「はい」
「事務員さん?」
「秘書です」
「秘書?誰の?」
「会長の秘書をしています」
「老人ホームの?」
「まあ、そうですね」そう言うと笑った笑顔が美由紀に似ている。
先日のホテルの出来事を思い出していた。
酷い言葉だったなあ。。。。。。。。
「行きましょうか?」
「お願いします」
靖子が先導して徒歩で僅かな距離を歩く、見上げる様なビル「こちらです」中に入ると、職員が靖子にお辞儀をしているのか?
自分にしているのか、判らないエレベーターに乗ると、靖子は最上階のボタンを押した。
「最上階ですか?」
「景色が良いですよ」
「はい、今日は景色を見る余裕は有りませんがね」と笑う廣一に微笑み返す靖子なのだ。
エレベーターを出ると、社長室に連れて行くと、ノックもしないでドアを開く靖子に驚く廣一に「どうぞ」と廣一を招き入れた。
入ると応接セットと窓の側に社長の大きな机、横の小部屋にはお茶を作る場所が有るのだろうか?靖子はそこに消えた。
しばらくして、ドアを誰かがノックする。
自分しか居ないので「どうぞ」と言うと、佐伯が入って来た。
「お立ちに成らないで、お座り下さい」と廣一に言う。
「何処に座れば?佐伯さんは何故?此処に?」
「社長のお手伝いに来ています」
「ああ、お婆さんの知り合い?社長さんなのですか?」
「はい、そうですよ」
「凄いですね、こんな大きな会社の社長さんと知り合いだなんて、面接を社長室でするなんて、私の様な年寄りの採用を丁寧ですね」話していると、靖子がコーヒーを持って出て来た。
応接のテーブルに並べて「お座り下さい」と言う。
「面接でコーヒーが出る何故?、凄いですね」と驚く廣一。
ソファに座ると同時にドアをノックする音、六十代の重役風の男性が、廣一にお辞儀をして、分厚いファイルを机に置いた。
「阿倍常務、コーヒーですか?」靖子が声を掛ける。
「恐縮ですね、社長婦人にコーヒーを入れて貰うなんて」と言うので、廣一が靖子は会長の秘書、社長夫人?
「常務、冗談でしょう、まだ何も決まっていませんのよ」そう言って笑う靖子。
佐伯が置かれたファイルを見ながら「人事名簿が無いか?」と尋ねた。
「はい、持って来ます」阿倍常務は再び部屋を出て行った。
「先程の男が阿倍常務で総務の責任者です」と佐伯が言う。
「はい、ところで、私の面接は何方が?」と怪訝な顔で聞く廣一に「社長の面接出来るのは株主位でしょう」そう言って笑った。
社長の面接?考えていたらドアがノックされて、若い女性が車椅子の久代を連れて入って来た。
「廣一、この部屋は気に入ったかい?」
「お婆さん、何を言っているの?」
「お前のお嫁さん候補まで用意したのに見向きもしない、有馬さんが悲しんでいたよ」
廣一は呆然と聞いて、何が何だか判らないからなのだ。
変な雰囲気に成って、廣一には夢でも見ている様な気分に成っていた。
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