第16話ネットワークビジネス

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新幹線の中で美由紀は、家族の人は良い人だったわ、家は金持ちではないけれど、由美に良い人達だったと報告して、今までの不安を消さないと、と思いながら帰った。


廣一はお金も無い、でも美由紀が気に成る。

来月の東京に行った時、一度柴田幸宏に会ってみよう、本当に美由紀を幸せにしてくれる男なのか?この目で確かめてみよう、自分で納得出来れば、本当に喜んで祝福しようと結論づけた。

お金も無いし、もう美由紀の気持ちが戻らない事を先日のホテルで判ったから、でも恋しい廣一なのだ。

母眞悠子はそんな廣一を哀れな息子だと思う以外何もする事が無かった。


そんな事を考えていた昼下がり、変な電話が掛かって来た。

「つかぬ事をお聞きしますが?」

「はい、何でしょう?」

「柏木孝治さんの、自宅でしょうか?」

「はい、そうですが?」

「ご主人は九州の方でしょうか?」

「そうですが、何か?」

「ご主人はお仕事ですよね、どちらにお勤めでしょうか?」

「失礼ですけれど、どちら様でしょうか?」

「佐伯と申します、ご主人の会社の電話番号教えて貰えませんか?」

「お友達の方でしょうか?」

「は、はい」

「もう、仕事はしていませんわ」

「あっ、そうでしたね、年金暮らしですか?子供さんは何人いらっしゃいますか?」

「一人ですが?本当にお友達の方ですか?」

「今、ご主人いらっしゃいますか?」

「はい、おりますが」

「変わって、頂けませんか?」

「電話には出られませんよ」

「何か手が離せない事でも?とても大事な事なのですが?」

「無理ですわ、位牌ですから」

「えーーー、ようやく探したのに」と残念そうな声が聞えた。

「何か?ご用?」

「良いです、また」で電話が切れた。

何なの?今の電話?主人の友達?声が若いから違うわね、眞悠子は理解不能の電話に驚くのだ。

孝治の借金?隠し子?もう亡くなってから年数が経過し過ぎている。

どちらも違う何?気持悪いわね、廣一が帰るとその電話の話をすると「親父の実家でトラブルかも知れないね」と言った。

「そうなのね、弟が一人居たから、保証人でも頼もうとしたのかな?」

「親父の実家って何をしていたの?」

「農業だと思うわよ、子供の時、稲刈り、田植えが大変だったとお父さん話していたから」

「農家か!気楽で良いかも、親父は弟と二人?」

「そうだと、思うわ、私一度も行った事無いのよ」

「何故?」

「お父様に反対されて、いたから結局勘当だったのよ」

「お母さんの実家も行った事無いね」

「もう無いから、私叔父さんの家で育ったのよ、お母さんが私を連れて実家に帰ったからね、でもお母さん私が高校の時に亡くなって、祖父母と叔父さんに育てて貰ったの、でも祖父母が亡くなって私も働ける歳に成って居たから、家を出たのよ!それでお父さんと知り合ったのよ」

「成る程、それで親父の両親が反対したのか」

「格式が高い家だったのかも知れないわね、昔の農家だからね、お父さん実家の事は何も言わなかったからね」

「弟さんの保証人かな?両親は今、生きて居たら九十歳を超えて居るからね」

「そうね、葬式とかなら、いきなり言うわね」

二人には電話の主が弟の知り合いで結論づけていた。


柴田幸宏の両親は結婚が決まったら、三百万お祝いを出すと約束して、今後はMMSを辞めない場合は名古屋に来ない事を条件にしていて、それ程困っていたのだ。

翌月、廣一は東京の柴田のアパートに勇気を持って訪れた。

チャイムも無い、外に臭いそうな男の匂いがその扉からする。

「トントン」中から、寒そうな感じで男が出て来て「あんた、誰?」とぶっきらぼうに言った。

「村田と言いますが、柴田さんいらっしゃいますか?」

「柴田?おっさん、借金取りか?」

「違いますが、用事が有りまして」

「借金取りじゃあ無いなら、教えても良いか」

「違いますから」

「幸宏は今の時間は移動中だ、七時に成ったら、五反田の駅の近くのキャバクラの呼び込みしているよ(ドリーム)だったかな」

「ありがとうございます」

廣一は息をするのも大変な程の匂いに耐えて扉を閉めると、アパートから離れて大きく深呼吸をした。

耐えられない匂いだ!そう思いながら、五反田方面に向かう、そうだ、病院にもう一度行ってみよう、何か変化が有るかも知れないと微かな期待で、廣一は病院に向かった。

しかし姿が見えないので、ウロウロしていたら「何方かお探しでしょうか?」と看護師の小池が尋ねた。

「今日は、須藤さんは?」

「夜勤明けでお休みです、何か伝言でも?」

「いいえ、また来ます」

「明日も休みですよ」

「有難うございます」と廣一はエレベーターの方に向かった。

小池に由美が「何方?」

「美由紀さんのお父さんかな?」

「どんな感じの人?」

「六十歳位かな?禿げて、ピカピカだった」

「あっ」由美は廣一だと閃いた。

慌てて追い掛けるが、寸前でタクシーに乗り込んでしまった。。。。。。。。。。


あの時話せていたら、由美は最後のチャンスだったのよねと思い出していた。

美由紀の不幸を防げる最後の機会だったのだ。。。。。


夜に成って五反田のキャバクラ(ドリーム、ドリーム)に行くと、今から開店なのか、忙しく女性が入店している。

柴田が見えないので「すみません、こちらに、柴田さんって男性働いて居ませんか?」

「借金取り?」

「違いますが」

「今夜は女と会うから、遅いと連絡が有ったから九時以降か、もっと遅いか判らん」

「連絡先判りますか、彼の親父の用事で来ましたので」

「そうなの?待って携帯に入って居るから」そう言いながら番号を教えてくれた。

「少し飲んで行かない?」

廣一は、無駄なお金は使いたく無かったが、柴田の噂を聞けると思って「そうですね、少し飲んでいきますかね」

「話が判るお兄さんだ、流石だね」と言いながら案内した。

「指名とか、好きなタイプの女いますか?」

「柴田君の事を知っている人が良いな」

「おおー、それなら(ゆか)さんだ」座ると(ゆか)が直ぐにやって来て、細身の長身の女性だ。

「叔父さん柴田さんの知り合い?」

「まあね、地元のね」

「じゃあ、名古屋の方ね」

「そうだよ」

早速彼の出身が名古屋だと知った。

「此処での仕事とか、彼女はどう?」

「叔父さん探偵?」

「お父さんの友達だよ、東京に行ったら見てきてくれと言われてね、近々結婚とかでね」

「ああ、結婚ね、看護師さんでしょう、そこの病院の」

「そうそう、それで親父が心配に成ってね」

「幸宏、上手くするよ、安心よ」

「どう言う意味?」

「上手に巻き上げるって意味よ」

「じゃあ、結婚とは名だけで、紐かな?」

「いつも、そうよ、私が知っているだけでも三人は居たわ」

「上手なのだね」

「上手と云うより、怠け者ね、ネットワークビジネスとか言っているけれど、結局ネズミでしょう、所詮人に働かせて食べる訳でしょう」

廣一は美由紀が完全に騙されていると確信をしたのだ。

携帯の番号さえ、手に入ればいつでも連絡出来る。

廣一は成果が有ったと喜んで帰って来たのだ。


帰ると母が「先日の佐伯さんって変な人がまた電話を掛けて着たのだよ」

「今度は何を聞いたの?」

「柏木廣一さんは、孝治さんの息子さんですか?だって」

「はい、と答えたのだろう」

「勿論、答えたよ、そうしたら、ご兄弟は?と聞かれたのよ、一人っ子ですと答えたら」

「何て、言ったの?」

「近日中に息子さんにお目に掛かりに行きます」

「何?それって借金取り?美由紀の差し金?」

二人は全く心辺りのない電話に怪訝な顔だった。

柴田は(ゆか)から三日後に廣一の話を聞いたが、親父が調べていると思った。

三百万貰うまでは大人しくしていなければ、貰えないと思うのだ。


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