第14話反対の人々

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呆然と頬を押さえる由美、もう落ちる所迄落ちるしか無いのかもとその時思ったが、今思えばあの時でもまだ、間に合ったのだ。

由美は大きくため息をついたのだった。


廣一と美由紀の破局の影響で柴田と美由紀は以前以上に親密に成っていた。

何か運命共同体の様な気持ちが二人をより結びつけたのだ。

廣一からの収入が無くなった美由紀は以前よりも厳しい状態に成って、服も食べ物も質素に成った。

由美はこの時の美由紀を見て、もう狂っているとしか思えなかった。

一日二度の食事にサプリの生活、殆ど外食は無くなっていた。

頭の中は柴田との結婚だけを考えていたのかも、その柴田と会う時間も少なく成っていた。

バイトと疲れ、そしてお金が原因だった。


正月には久々に美由紀は実家に帰った。

由美の実家も漸く震災の傷も癒えていた。

山下の家から援助が有ったのも大きな支えに成っていたのだ。

美由紀の実家は由美の家から一キロ程離れた所で、小さな雑貨店を両親が営んでいた。

弟が役所に就職していたので生活は安定していたのだ。

震災の後遺症も少なく、最近では以前の客数に戻って雑貨店も赤字からトントンに採算が上向いていた。

父、須藤啓治五十八歳、母有紀子五十歳、弟啓一、二十五歳が、美由紀の家族だ。

「結婚したい人が出来たの、それで報告と許して貰おうと思って」

「それは、めでたい話しだ、正月から良い話だ」父の啓治が嬉しそうに言う。

「どんな人?病院の人?」

四人は炬燵に入りながら、おせち料理を食べながら美由紀の話しに耳を傾ける。

「病院の人では無いわ」

「薬関係の出入りの人だね」

「薬も扱っているけれど、色々よ」

「歳は?学歴は?」

「住まいは?」

「出身は?」

三人が次々と質問をするので美由紀が「歳は同い歳、高卒、出身は名古屋、仕事はMMSよ」

「何?そのMMSって?」母の有紀子が尋ねた。

「今、流行の新興産業よ」と美由紀が言うと「嘘だよ、詐欺の会社だ」と啓一が言って、部屋の空気が変わった。

「何が詐欺の会社よ、立派な外資の会社よ」

「嘘だよ、役所にも問い合わせとか苦情が沢山来て居るよ」

「そうなのかい、そりゃ駄目だよ、美由紀そんな人と結婚なんて駄目だよ」

「こら、啓一!嘘を言ったら駄目よ、お母さん達本気にするから」

そこに啓治が「役所に苦情が来る様な会社の人は駄目だな、諦めなさい」

「駄目よ、そんな人じゃあ無いわ、良い人よ」と美由紀が言うと「もう、姉貴お金無く成っているのだろう?」鋭い、弟啓一の言う通りだった。

「結婚したいのよ!」と炬燵から出て、もう帰る準備を始める美由紀、家族に反対されて、立場が無かったのだ。

「待ちなさいよ、昨日帰ったのにもう帰るの?」

母の有紀子が美由紀を止めるが、啓治も啓一も止めない。

「好きにさせなさい、詐欺師の妻に成る様な娘は要らない」と啓治が怒る。

「姉貴、目を覚ませよ、相手の家族に会ったのか?」と啓一が美由紀の心を抉る様な言葉を放つ、確かに柴田の家族にも会ってない、

二人で結婚の約束もしていない、唯、美由紀が決めていただけなのだ。


一方、廣一は寂しい正月を迎えていた。

「今年には美由紀さんと正月を迎えられると思ったのにね」母眞悠子が寂しそうに言うと「もう、別れたから、会わないよ」

「えー、嘘だろう?随分彼女に色々してあげただろう」

「仕方無いよ、年寄りだし、この顔では無理だよ」と元気の無い廣一に「お前が、蓄えを統べて使って美由紀さんに尽くしていた事、母さん知っていたのだよ、でもやがて結ばれると思っていたから、黙っていたのだよ」

「えー、知っていたの?」驚く廣一。

「お前が、三十年近く掛かって貯めたお金だ、何に使おうと私の言える事では無いけれどね、それは、余りに酷いのじゃあないの?」

「でも、この六年近くの間楽しかったから、でもね今付き合っている美由紀の彼、詐欺師の様な仕事なのだよ、だから心配で」

「お前は本当に馬鹿だね、捨てられたのにまだ女の心配をするのかい、呆れるよ」

「でも、心配なのだよ」母眞悠子は息子の態度に呆れるのだ。

廣一は来週東京に行ったら、病院に行ってみよう、どうしても柴田が気に成っていたのだ。

会ったら、何を言うのだ?それが判らないが、忠告の一言を言わないと納得出来なかったのだ。


第二週目に病院に行った廣一は入院病棟に向かった。

美由紀の姿を見つけた廣一、自分の職場を知らないと思っていた美由紀が凍り付いた。

急いで近づいて来て「何故?此処が判ったのよ」と怒る。

「前から知っていましたよ」

「今、話し出来ないから、夜会いましょう」美由紀は廣一を追い返す事しか考えて居なくて、頭がパニックに成っていた。

十一月に別れて二ヶ月振りに会ったのだが、闇の人間が表に出て来た事は恐怖の何ものでも無かったのだ。

一度切断したメールを廣一に送って(今夜、九時に貴方のホテルのロビーに行くわ、いつものホテルでしょう?)

(はい、待っています)

美由紀は今更何をしに来たのよ、もうこの病院では働けない。

いつ廣一が来るか判らないので、今夜は適当に話して時間稼ぎをして病院を変わろう、それが美由紀の結論だった。

夜に成って美由紀は自転車でホテルに向かう。

近いからタクシー代の節約なのだ。

「職場に来るなんて、最低ですね」

「メールも電話も出来ないから仕方が無いでしょう」

「もう、貴方とは終わったのよ、今更何を言われても戻れないわ」

「私は、戻って貰おうと来た訳では有りません」

「じゃあ、何よ」

「美由紀さんが今付き合っている人が、大丈夫かな?と心配に成ったので忠告に来ました」

「余計なお世話よ、貴方には関係ないわ、私の彼氏に何故?みんな、ケチをつけるの?」

「他にもいましたか?」

「そうよ、両親も、弟も友達もみんなよ、もー嫌よ、私の事放って置いてよ」と怒り出した。

「私もみなさんと同じで、貴女の事を愛しているのですよ、だから美由紀さんに不幸に成って貰いたくないから」

「貴方、自分の姿見た事有るの?禿げていて、不細工な体型で年寄り、そんな貴方が私の様な若くて綺麗な女の子と遊ぶにはお金しかないのよ」

「それは、知っていますよ、でも私は美由紀さんを愛してしまったのですよ」

「私には、貴方は金よ、それしか無いわ」

「それでも、心配で。。。」

「じゃあ、今一千万頂戴、そうすれば今からでも部屋に行くわ、お金だから」

「。。。。。。。」

「無理でしょう」

「もうお金は有りません、統べて使ってしまいました」

「それなら、大人しく帰る事よ、もう終わったのよ、愛情はお金では買えないのよ」

「はい」

「柴田さんとは愛情で結ばれているのよ、彼には色々してあげたいと思うのよ、私の総てを捧げられるの、それが愛なのよ」

「。。。。。。」

「貴方とは、たまたまデリヘルで知り合っただけなの、それが長かっただけなのよ」

「美由紀さん程の美人で手に職も有るから、何も柴田さんの様な男を。。。」

「貴方に柴田さんの何が判ると言うの?」と益々怒る美由紀。

「本当に愛情で結ばれているのでしょうか?私と美由紀さんの関係に近くないですか?」

「もういいー、聞きたくないわ、一度も女性に愛された事無いのでしょう?だから判らないのよ、とにかく一千万持って来たら考えるから」

そう言って無理矢理、笑った。

「無理の様ですね、柴田さんと別れるのは?」

「何度言わせるの、私達は愛し合っているのよ」そこまで言うとさっさと帰ろうとした。

「お金有れば、会うわよ」と捨て台詞を残して去って行った。

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