ゲーム刑務所の席替えで外出許可を!!!

ちびまるフォイ

ゲーム刑務所の囚人。

目を開けると刑務所の廊下を歩いていた。

いったいどうやってここまで来たのかもう思い出せない。


「さぁ、独房に入れ。同じ房の人間はお前のパートナーだから仲良くな」


「はぁ」


たしか俺はゲーム刑務所に捕まったと覚えている。

いったいどこがゲーム刑務所なのか。


独房に入ると、同じ受刑者の男が不愉快そうにこちらを見ていた。


「よろしく……」


「…………」


会話はない。

しばらくしてゲーム刑務所のゆえんがわかった。


「では、今日の日常刑務活動を行う!」


独房にはVRヘッドギアが渡される。

どこかで見たようなデザインの気がする。


「ゲームは現実以上に人の性格を映し出す鏡だ。

 ここでの刑務活動が今後の生活に影響すること、肝に銘じておけ」


同じ独房のパートナーとゲームがはじまった。

ゲームの中ではお互いに協力しながらモンスターを倒して世界を平和にしていく。


俺は昔からゲームが得意で、運動神経もよかった。


「ははは! こんなの簡単だ!」


ばっさばっさと敵を倒し、刑務所での評価はきっとよくなるだろう。

刑務活動の成績がよければきっと外へも出られるはず。


「刑務活動、おわり!!」


ヘッドギアを外して成績が発表されると、予想を下回る成績に言葉をなくした。


「あれ!? な、なんで!?」


「お前、パートナーのことを忘れていただろう?

 ゲームがうまいからと言っても1人分の成績じゃこんなもんだ」


同じ独房のパートナーはゲームが下手だった。

俺の足をひっぱるばかりでは、これじゃいい成績は出ない。


お互いの信頼関係がどうのこうのの話ではなく、

ゲームの才能というものがそもそも欠落しているのだ。


「くそっ……これじゃ成績出せないじゃないか」


思っていても、お互いに言葉を交わさないので不満を伝えることもできない。

このままではずっと悪い待遇のままだ。


そんな苦行の日々が続いた。


「ようし、そろそろ独房の席替えをおこなう!!」


「きたぁぁぁぁ!!!」


またとないチャンスがやってきた。

パートナーを入れ替える席替えのチャンス。


これでゲームの上手い人間と同じ独房になれば、きっと成績があがる。


席替えが済まされると俺の独房には……。


「よろしくね、私は囚人番号105よ」


「お、お、お、女ぁ!?」


こんな刑務所あっていいのか!?


女パートナーが同じ独房になったことを心から喜んだ。

そのうち恋にでも落ちてキスのひとつでもできるかもしれない。


「では、本日の刑務活動をはじめる!」


全員にヘッドギアが渡されてゲームの刑務活動をはじめる。

ここでいいところを見せて……。


「ちょっとなにやってんの。足ひっぱらないで」


「ご、ごめん! こんなはずじゃ……」


席替え後の成績は散々なものだった。

あれだけよかったゲームの成績が自分でも驚くほどに落ちていた。


刑務活動を終えると独房の雰囲気は険悪そのものだった。


「……もっとうまい人かと思ってた」


「す、すみません……」


なんでこうなった。

俺の神がかり的なゲームの腕前でかっこよく振舞うはずだったのに。

それなのに……。


「いや、待てよ。もしかして、これが原因なのか……?」


前までは男がパートナーだったのでかっこつけることもなく、

ただ純粋にモンスターを倒すことに集中していた。


それが今はどうだ。


同じ独房の女パートナーがいることで集中できなくなっている。

つい、意識がそちらに向いて緊張感を欠いている。


「いったいどうすれば緊張感をもってゲームできるのか……。

 緊張感さえ取り戻せれば、きっと成績もあがるはずだ!」


しかし受刑者という立場上、道具もなにも持たない。

どうすればいい。どうすれば緊張感を……。


「そ、そうだ!! これなら緊張感を持ち続けられるぞ!」


アイデアが思いついたところで、次の刑務活動がはじまる。


「さぁ、ヘッドギアが届いたやつから刑務活動をはじめろ!」


「今度は足引っ張らないでよ」


「あ、ちょっとトイレ。先にプレイしておいてくれ」


女パートナーが先にヘッドギアを付けたのを確認してから服を脱ぐ。

まさかの全裸プレイに恐ろしいほどの緊張感。


「これだ! これこそ求めていた緊張感!! ふおおおお!!」


圧倒的な緊張感で俺の刑務活動は過去最高の成績をおさめた。

刑務活動が終わる直前には誰よりもはやくログアウトして服を着る。


この緊張感もまた、ゲーム刑務所のエースたらしめる大事な要素だった。


「すごいわ! 見ちがえるほどの成績ね! なにをしたの!?」


「ま、まぁ……企業秘密……?」


ゲーム刑務活動の成績もぐんぐん上がっていき、ついに外出許可が取れた。


「おめでとう、よくぞ素晴らしい成績を収めたな。

 君ほどのゲーム成績を収めたのなら外出許可を与えよう」


「ありがとうございます!」


刑務活動成績上位者には外出許可がもらえる。

どうして今まで誰も外出したがらないのか不思議でならない。


「では、外出をお願いします!!」


「わかった。では外出させる。くれぐれも戻ってくるように」


「は?」


牢獄を出してもらい看守室へと通された。

看守室には外に出る扉がどこにもない。


「あの、ドアもないのにどうやって外へ出るんですか?」


「それは……」







ヘッドギアが外されると、汚い牢獄の天井が見えた。


大量の囚人がベッドに寝かされてヘッドギアをつけていた。

俺もこの中のひとりだった。


「外って……そんな……」


ゲーム刑務所にどうやってきたのか。

忘れていたんじゃない。

きっと無意識に思い出すことを拒んでいたんだ。


「外は……もういいです……戻してください」


俺はヘッドギアをつけてゲーム刑務所の中に戻った。

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