この子と彼の心の交流
はしらい
第1話 うちに来るかい?
冷たい雫が傘を伝って目の前にしとしとと滴り落ちる。
あまり降ってない様に見えて、油断して傘無しで帰ろうとすれば全身びしょ濡れ決定の厄介な小糠雨、季節はもうすぐ春だってのに少し肌寒い位の気温、気分が落ち込みそうになるが、今日の仕事も無事に乗り越えたのだ、テンションを上げていこう!
などと思っていた矢先、テンションの下がる光景を目にしてしまい若干落ち込んだ。
[拾って下さい]
そんな張り紙のある小さな段ボールに黒い傘が屋根を作っているが、わざわざ雨の日に捨てるなと言ってやりたい。
未だに傘の下からは「ミーミー」と甲高い鳴き声が聞こえて来る、鳴き声からして仔猫だろうか?
無責任だが興味本意で傘を退かしてみる。
「ミーミー」
「………」
「ミーミー」
「………?」
「ミー…ミ? ピギュ?」
「は?」
少し青みがかったわらび餅みたいな不定形のモノが毛まみれの新聞紙にくるまっていた。
猫はおらず、荒れた様子もない事から寒さに凍えたそれが、引き取られた猫の入っていた段ボールで暖をとろうとしていたと考えられる。
「ピギュ? ピ………ミーミー」
あぁ、わかった、わかってしまった、この子は仔猫の真似をしているんだ、きっと仔猫が誰かに抱かれて連れられて行くのを見ていたのだ、仔猫が羨ましかったのか、自分も仔猫の真似をして連れて行ってくれる人を待っているのだ。
「ミーミー」
健気に鳴き声をあげ続けるこの子を、俺はどうしても放っておけなかった。
「なぁ。」
「ピギュ?」
「うちに来るかい?」
「ピギュッ!? ピ?」
「なんとなく何が言いたいのかわかるけど本当だよ、それにしても言葉の意味がわかるのか、お利口だね。」
「ピギュ!」
「じゃあ、帰ろうか、俺達の家に。」
俺はスーツが濡れるのも構わずにこの子を段ボールごと持ち上げた。
「ピギュ!」
「ははっ、じゃあ行こうか。」
何だか落ち込みかけていた気分はいつの間にか少しだけ暖かい気持ちになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます