悪魔に憑かれた俺は魔王軍の救世主となる!?

ノつき

不思議な事件

けたたましくなる目覚まし時計を止めて、目の前の天井を見上げる。

変な夢を見ていた。

口の中が粘ついている。汗で額に張り付いた髪をかき上げながら、ついさっきまで見ていた夢を思い出してみるが、すでに夢の残像は消えていた。

しばらく真っ白な天井を眺めながら、荒くなった呼吸を沈めていく。

 

「いま何時だ...」


ふと頭上の目覚まし時計に目をやると時刻はすでに10時を回っている。

目覚まし時計の設定を間違えていた。


「大遅刻かよ、昨日好きなアニメを見るために夜遅くまで起きていたせいだな...」

体が怠(だる)くてなかなか起き上がる気になれない。


鈴野涼弥(すずのりょうや)は、都会の高校に進学したために去年の春から一人暮らしをしている。

なので涼弥を起こしてくれる身内はいなく、毎朝が目覚まし時計頼りの生活だ。充電器に繋がれたままのスマホには、新着メッセージを知らせる通知が来ている。

アプリを起動してテキトーに返信した後、ようやく自分の体から薄い毛布を引き剥がして手短に身支度を整えた。


スマホが通知を知らせる音を鳴らす。

(連絡ついてよかったよ、とりあえず学校に来い)


連絡取れてよかったなんて、ずいぶん大げさに聞こえるかも知れないが、学校ではとある事件が起きていた。

家から駅まで歩いて20分、駅から駅まで30分、駅から学校まで5分、学校につく頃にはお昼休みになっていた。


「涼、大寝坊だな」


教室に入るなり、親友である桜木真人(さくらぎまさと)が声をかけてきた。


「目覚ましの時間間違えててさあ」


真人「お前、先生の所にはもう行ったのか」


「職員室前で会った」


真人「今日で15人目の生徒がいなくなった」


「やっぱりそのことか」


ここ1週間で昨日までのうちに涼弥のクラスの生徒12人が行方不明になっているのだ。

そして今朝から3人の生徒と連絡が取れていないらしい。


真人「昼食ってきたか」


「学校で食べようと思ってたからまだ」


真人「それじゃあ飯食いながら」


そこにもう一人の親友が来る、坂口宏太(さかぐちこうた)


宏太「おい涼、ただの寝坊でよかったよ」


「ああ、とりあえず飯食いながら詳しく聞かせて」


3人は購買でお弁当を買い保健室へ向かう。

保健室に入ると、膝を擦りむいた男子生徒に消毒液を湿らせたガーゼをあてがう先生の姿があった。


先生「あなたたちまた来たの、いいかげん教室で食べなさいよ」


涼弥たちがお昼を食べる場所はいつも保健室だった。

室内の静かな雰囲気と、窓から聞こえてくる活気ずいた声との間が、はっきりと分かれているこの場所が涼弥にはお気に入りだった。


真人「先生にもパン買ってきましたよ」


先生「あら、悪いわねえ」


ちょろいな、と言う真人の目


宏太「先生ってちょろいですね」


それを口で言ってしまう宏太


先生「ちょろいって何よ」


(消えてほしくないと思える日常)

先生が椅子に座った男子生徒の膝に絆創膏を貼っている。


「それで、誰がいなくなったんだよ」


真人「柏木と鈴木と立花」


柏木は女の子で、鈴木と立花は男だ。


宏太「やっぱり誰とも連絡取れないみたい」


生徒「ありがとうございました」


生徒の手当てが終わったようで、男子生徒は頭を下げると、そのまま校庭側のドアから喧噪(けんそいう)の中へ駆けていった。


宏太「さっきの生徒、先生の谷間覗いてましたよ」


先生「バカ言うのやめなさい、パンはどこ」


真人が袋からパンを取りだして差し出す。


真人「それと今日転校生も来た」


「男?」


宏太「男と女」


真人「うん」


「二人も?おかしくないか」


真人「だからおかしなことになってるってLIMEしたろ」


「さっき教室行った時には見当たらなかったけど」


宏太「なんか、昼になって急にどこか言ったみたいだね」


ここ1週間で15人もの生徒と連絡が取れなくなっているというおかしな現状に、先日警察も操作を始めたらしいが、手掛かりが掴めたのかどうかさえ涼弥達には知らされていない。


先生「あなた達のクラス、なんか大変みたいね」


宏太「他人事じゃないですよ、俺達も消えちゃうかもしれないんですからね」


先生「他人事じゃない」


真人「パン返してもらいます」


先生のかじりかけのパンを奪おうとする真人。


(相変わらず呑気だなあ、まあ俺たちに出来ることなんて何もないけど。事件が解決するか、クラスの全員が神隠しにあうかのどちらかしかないのだ。)


お昼を食べ終えると教室に向かった。



真人「おい涼、見て驚くなよ」


「何をだよ」


宏太「何って、転校してきた女の子だよ」


「え?なに、可愛いの」


真人「めっちゃ」


教室のドアの前まで来たが、自分の髪型が気になる


「ちっとトイレ行ってくる」


宏太「先に入ってるよ」


この学校のトイレは男女共に、4つの並んだ教室を挟むように端と端にある。

涼弥のクラスは最も端にあるのでトイレには近い。

男子トイレと女子トイレは並んでいて、涼弥が男子トイレの前まで来たところで女子トイレから一人の女子が出てきた。


(その瞬間、息を奪われた...可愛い、きっとテロップがあったら「千年に一人の美少女」なんて書いてあるのだろう)


黒くて長い髪が、白くて綺麗な肌を際立たせている。

数秒目が合っていたが、女の方が何事もなくそのまま通りすぎていった。

トイレに入って髪を整え直す涼弥

(くっそ、こんなボサボサな髪で会っちゃうなんて)


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