雨の中のきみ#50

「間宮さん、今頃どこで何してるのかな」

雨の日の朝。いつも間宮さんが煙草を吸っていた喫煙所でぼんやりと立ちすくむ。間宮さんが消えてからも雨の日の朝はここで時間をつぶすのが日課になっていた。特になにをするわけでもない。それはわたしにとってあまりいいことではないのかもしれないけれど、もうしばらくはここでこうして雨の音を聞いていたかった。

雨の音はいい。嫌なことを洗い流してくれる。でもそれと同時に雨音に紐づく思い出を強制的に引っ張り出してくる。

間宮さんの黒い髪とか、骨ばった手つきとか、穏やかな声とか、そういういろいろ。わたしが立ち直るまでにどれくらいの時間がかかるだろうか。もう少ししたら卒論の話とか、就活の話とかが出てくるから、そうなったら忙しくなって間宮さんのことを思い出す暇もなくなるかもしれない。たぶんそれでいいのだろう。いつまでも立ち止まっていたら間宮さんに心配をかけてしまう。

実のことを言えばあの日の帰宅後、わたしは家で散々泣いた。最後まで彼には迷惑をかけっぱなしで、守られてばかりで、わたしが彼にしてあげられたことなんて何もなかった。子供のころから少しは成長したと思っていたのに、全然成長していなかったらしい。でもそんなこと誰に言えるわけでもなくて、ただただ一人で自省することしかできない。

でもそれじゃだめだから。

きちんと立ち上がって一人で歩かないと間宮さんに顔向けできない。だから学校にもバイトにもちゃんと毎日通って普通の生活を心がけた。そうすることで悲しみを紛らわせていたということもあるのだけれど。

ある日わたしの家のポストに一枚の便せんが入っていた。そこには一言だけ言葉が残されていた。それを見て、わたしはどうしようもなく泣き崩れる。


『いつまでもきみとともに』


やがてわたしは大人になった。大学を卒業して就職して、相変わらず莉々とは月に何回か食事に行っているし、ゼミの友達とも年に何回か集まっている。

そこに足りないものは一つだけで、未だにそれを探してしまうこともある。街中を歩いていてよく似た人を見つけたら振り返ってしまうこともある。それでも前を向いて歩いていた。いつか誰かと結婚したら、座敷童の住む家に住みたい。わたしの子供に素敵な友達ができますように。

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