姉妹Aと彼の罪と罰

二沢双葉

妹A

大丈夫

 一瞬、音が反響してなくなった気がした。

「こんにちは、――先輩」

 その感覚がしたのも一瞬ですぐに元に戻ったが。

「緋音先輩、大丈夫ですか?」

 少し答えに困った。

 これが初めてというわけでもないのに、彼に対して明確な返答をすることに躊躇した。

「……うん、大丈夫」

「顔色が悪いですよ。保健室行きますか?」

「はは……大丈夫だって」

 心配そうにした表情がこちらを窺っているのに乾いた笑いが自然にもれた。

 無意識に長い髪の毛先を指が弄ぶ。

「早く教室に帰らないと、次の授業始まるよ」

 いつものように目を細めて薄らと微笑んだ。

 きっと大丈夫、私は私だから。

 自分自身が一番分かってるんだから、疑わなくても大丈夫。

 大丈夫。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る