不死の戦い方
劣勢、劣勢、劣勢。
立て直しは失敗し続け、傷を負うのは俺ばかり。敗北に至らないのは、樹槍の特性である再生力強化による恩恵に過ぎない。一人の魔槍使いとして、俺はサリオンに対して明らかに劣っていた。
それでも、精神的に立て直すことができれば勝機はまだある。サリオンの額には汗が玉と浮かんでいる。対してこちらは無限の活力がある。
肉を金属が抉っていく感触……大丈夫だ。慣れている。肉体の欠損は樹槍が補う以上、先に力尽きるのはサリオンだ。
要は根性比べ。その点に関して言えば、魔女の訓練を生き抜いた俺に分があることは疑いない。
「――!?」
だからこれは完全に予想外だった。
突然に襲いかかってきた喉への圧迫感。首を絞められている。強靭な握力で握りつぶそうとしている手は……俺の手だ。
「ようやく効き目が表れたようだな。同じ神器使いというだけではない……貴様のその肉体は一体どうなっている? これだけ神槍を接触させて一部分しか操れないとは、本当に人間か?」
数合打ち合うと肺の中が空になり、俺は膝をついて敵を見上げる。
手応えも奇妙だ、と呟いたサリオンは余裕の顔でこちらを見下ろしている。一方、俺は自分の握力の強さに驚き、そして体の一部分でも他者のモノになれば全身がろくに動かない事を知った。
もっとも、そんな体験をするのは神槍を相手取った者だけだろうが……
「さて、終わりだ。さらば、間男」
「……っざけっ!」
ふっざけっるな! 声にならない声が脳内で
優雅に布で汗を拭いてから、トドメを刺そうとするサリオン。そして事態を知らずに笑い踊る貴族という名の道化ども。
無性に腹が立つ。この連中の勝手な思い込みをぶち壊して、目に物見せてやる。
時間がゆっくりと感じられる。こちらを更に馬鹿にするためか、締めている俺の手ごと喉を貫いて、延髄を破壊する気だ。
手の肉に槍の穂先が入ってきて、かき分ける感触。喉に熱いものが流し込まれるように思うのは、逆流した血か、それとも痛みか。後ろ首にまで到達すると、もう何も感じなかった。
視界に映るのは勝利を確信した者の、静かな顔。この状態の俺に対しても油断しない。いわゆる残心というやつだろうが……
「で、それがどうかしたのか?」
「――?!?」
ああ、その顔が見たかった。驚愕に歪む顔……そうでもなければやってられない。なにせ痛いことは痛いのだ。痛すぎてもう熱いとか冷たいとか感じるが。
首に槍を貫かれたまま、立ち上がり、前に一歩踏み出す。さらに槍が食い込んだが、どうせ貫通しているのだから、どうでもいいだろう?
「――っこの死に損ないっ!」
「びひゅえ」
それでも咄嗟に槍を横に振って、こちらの首皮を引きちぎるのは大したものだが……残念無念、慣れている。
「アヒャヒュエ……久しぶりだなぁ、首が取れそうなのは。ガルムを相手にした時、同胞に盾にされた時以来か。しかし、無難に脳を狙うべきだったな。それで死ぬかは俺も知らないが!」
英雄らしくはないが、やはりこういった小悪党ぶりは気分がいい。樹槍の再生力を活かす場合、最も適した方法を取る。
つまりは、幾ら槍で貫かれようが前に出続ける。
サリオンの槍は動揺しながらも正確だ。こちらを穴だらけにしてくるが、一切構わない。試したことがない頭部の完全切断だけ防げればいい。
痛みがひどすぎて、どのみち前に出るぐらいしか頭は働かないが、結果として今度はサリオンが追い込まれる形になる。
足を操られて、転ばされる。頭蓋が割れる勢いでこちらから床に頭を叩きつけて、跳ね上がって姿勢を元に戻した。
腕を操られて、自分の目をえぐらされた。両目同時でなければさして問題はない。
「こっ、このバケモノがぁ!」
「お互い様だろ」
対等の勝負は続いていたが、神槍の使い手は心を折られつつあった。
そんな俺をジネットが痛ましげに見ていた。その視線の方が肉体を抉られるより、辛かった。爽快に勝つというのは俺には難しいらしい…
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