目を射抜く
魔女の弟子たる人造英雄〈半端者〉。彼は今まさにその実力を満天下に示していた。劣化した神器……聖剣を担う聖騎士達という国家の要たる最精鋭達を全く寄せ付けていない。
「分裂、鋭化、収束しつつ拡散! 数が多いだけで、俺と樹槍に勝てると思うな!」
蔦が解れて四角を形作る。次いで増殖した蔓が紐を編み込んで強靭にした。さらにそこへ刃を生成。切れ味のある投網の完成である。
それを自身へと群がろうとする敵へと向かって放り投げれば、結果は大漁である。人界の英傑から四散した魚肉の塊へと聖騎士達は成り果てた。赤い雨を浴びながら、流石の〈半端者〉も疑問に思う。
「何だ……何かがおかしい……!?」
村人たちを皆殺しの目に遭わせた怒りで眩む目が一瞬開いた。殺到してくる聖騎士達を相手取りながらのために、思考は乱れる。鈍い頭が考えをまとめ上げるまでに、かなりの時間を要した。
樹槍を元の形に戻す。ただし、増した長さはそのままで。
巨大な棍棒と化した樹槍を回転させれば、面白いように聖剣使い達は吹き飛んでいく。
「こいつら……幾らなんでも弱すぎはしないか?」
それが第一の疑問だ。
繰り返しになるが、聖剣使い達は劣化した神器使いと言っていい。豪炎を生み出す神器から神威を受信するならば、聖剣は多少の炎を生み出すと言った具合に異能の行使もある程度可能になる。
だが、今相手にしている聖騎士達は力と数に任せて殺到する以外の選択肢を選ばない。確かに身体能力こそ人間離れしているが、それとて聖剣の力として標準の範疇だ。
変わったところと言えば、かつて追跡してきた聖騎士達同様に、体の損傷を一切気にかけないところであり……
そこで第二の疑問が生まれた。
「多い! おかしい。何もかもがおかしいぞ!?」
聖騎士達は人類の花形。選ばれた精鋭たち。
神器から力を受信するという形もあって、一つの神器に対して作られる聖剣の数は一定の制限がある。最上位の神器でも眷属が3桁を超えることは無いだろう。
だというのに幾ら蹴散らしても、戦闘が終わらない。
第三の疑問が〈半端者〉の脳に答えをもたらした。
コウカはここまで彼らの多くを死に至らしめ、そして挑発的な言動も幾らかしたのだ。だが、聖騎士達は聖剣を起動させてからというもの、一言も喋ってはいない。
痛みを感じず、喋りもしないエリートなどいるだろうか? つまりはこれこそが今相手取る神器と聖剣の特性。
「神経操作……いや、人体操作!? 幾らなんでも趣味が悪すぎる! 自分の部下を、人間を何だと思ってやがる!」
数が多いのも当然だ。恐らくはこの場の聖騎士達は聖騎士であって、聖騎士ではない。むしろ聖剣が本体。
聖剣を通じて神器使いに操作される、不格好な操り人形なのだ。
痛みを感じないのも、損傷して動けるのも、聖剣の使用者達の意思が考慮されていないからだ。例え行動不能に陥っても、その辺りの兵や何なら民間人にでも聖剣を使用させれば補充はあっさりと完了する。
『……許せはしない。我が主。我が半身』
「分かっているグロダモルン……俺も全く同じ意見だ」
外から人を操り、結果のために使い捨てる。それこそは魔女の創造物にとって憎む“運命”に似ていた。
「……! グロダモルン! 離れたところにいる聖剣を感知しろ!」
『? ……そうか!』
操り人形というのなら、多少不格好でも戦いを演じさせるために、司令塔が必要になる。いや司令塔のような上等な存在ではなく……文字通り神器使いの目になる者が必要だ。
『該当数4!』
「一番高いところにいるやつだ! 行くぞ……地を巡り根を伸ばせ! 我らの敵はそこにいる!」
地面に突き立てられる樹槍。そこを起点に地面が盛り上がり、移動を開始する。それが目指す先にはこの村でもっとも大きい建物。村長役の家屋がある。
盛り上がった土の動きが止まる。そこから一気に成長して、槍を天に向けるように木柱が生育した。
屋根の上に身をかがめていた騎士に、それが突き刺さった瞬間。全ての聖騎士達の動きが停止した。
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