運命の破壊者

 運命とは良きものか、それとも悪しきものか?

 聖騎士に魔器使い、神器使いは言うに及ばず……その答えには天上へと登った神々でさえ答えられない。

 それはある種の魔力によく似ているが、決定的に違っている。それは時にあらゆるモノの行動を制限し、時にあらゆる行為を成功へと導く。

 そしてそれは神々にも例外なく効果を及ぼした。


 それを全面的に肯定できるものもいないだろうが、否定できるものもまたいない。全ての好事ですら運命の補助があって初めて約束されるのだから。


 しかし、長い時の果てにそれを疑う者が現れた。


/


 〈半端者〉は枝となり、葉となり、棘となって竜の頭蓋から“ソレ”を搾り取っていた。……少ない。竜種は単体としては強者の部類だが、縄張り意識が強いために余り世界に影響を与えない。受動的なのだ。

 こうした存在に運命が自身を分け与える量はさほど多くはないのである。運命にとって強弱は要素に過ぎない。


 翼竜の運命は余計な知識が混ざっていない分、純粋で味は良い。だがこれでは量が足りない。栄養にはなるが、切っ掛けへと成るには不足。


 〈半端者〉は熟考する。程度の低い運命を吸ったところで本来の姿へは至れない。必要なのは軛を破壊するほどの瞬間的、あるいは爆発的な量だ。蓄積では駄目なのだ。


 こうなれば己の形と魂が呪わしい。〈半端者〉はその性質ゆえに最も多くの運命へと関わるが、同時に最も浅い接触しか行わない。


 こうなると以前いた国での接触は惜しいものがある。アレを食らうことが出来たのならば一気に開花することができたが……己が形にそれを求めるのは難しかったのも事実だ。


 〈半端者〉は形と中身が揃い、調和して初めて完全になる。千載一遇の機会でも宿主が倒れてしまえば意味を成さない。ゆえにあの時の逃亡は正解であったといえるが……


 〈半端者〉は考える。未練がましく、いつまでも『あの時、ああしていれば』と。


 ――ウカ。


 魔器と使い手。比翼の羽根が揃った暁に至る完成形も所詮は〈半端者〉。新時代の……


 ――コウカ!


//


「コウカ!大丈夫?」

「……セネレか。ああ、問題ない」

「おーおー。翼竜の首に絡みついて頭刺すとかぶっ飛んでるなアンタ。派手にぶっ倒れたが大丈夫なのか?」


 視界に灰の少女と筋肉女が映る。

 どうやら翼竜を倒した後に、気を失っていたらしい。何か大事なことを聞いた気もするが……


「まぁいいや。食われてないってことは、白銀翼竜はアレで無事に死んでくれたのか?起き上がって来たりは?」

「あー、気持ちは分かるぜ。竜とかぐらいになると常識が通じなかったりするもんな。心臓ぶち抜いても普通に動いてきたりとか、あるある」

「……頭が痛くなる会話だ。二人共ドラゴンスレイヤーなら、そう言えや。無駄にハラハラさせやがって」


 憂鬱そうに登場した陰鬱な顔が会話に加わる。“蛇顎”だ。

 疲れ切った様子の顔は、体力的なものより心労を感じさせた。


 “蛇顎”の後ろには輝く銀の翼竜が横たわっており、二人のならず者が鱗を触ったりしては騒いでる。


「俺はドラゴンスレイヤーじゃない。翼竜ワイバーンとか地竜ワームを倒したことはあるが……エンシェントドラゴンの巣に行った時は逃げ回ってたからなぁ」

「普通の戦士にそんな経験はねぇよ」


 翼竜の中では最上位種に近い白銀翼竜を倒したのならば名乗れないこともないが……やはりドラゴンスレイヤー竜殺しという称号は特別だ。おいそれと名乗れば失笑を買うだろう。

 身内で考えても名乗れるのはサエンザぐらいのものだ。腹立たしいことに見た目も英雄らしい。


「あたしはあるけど、まだ若いやつだったからねぇ。看板にぶら下げてたりはしないさ」


 アマンダはそう言うと、翼竜の死体に腰掛けた。異常に似合っているが、脳を地面にぶち撒けた死骸は気味も臭いも悪い。

 斧女は神経も斧でできているのかもしれない。


「さて!こっからは商売だ。まずは今回の報酬だ!」

「おっと……耳が詰まった袋を投げられるのは初めてだ」

「……流石に頻繁にある人はいないと思うの……」


 とはいえ、金貨の塊のような存在である。次に“蛇顎”は羊皮紙と矢立を取り出して、スラスラっと書いて渡してくる。

 達筆すぎて断片的にしか読めないが、どうやら今回のぶんどり品の目録らしい。


「さて……次に、新しい商売の話をさせてくれ」

「……新しい?」


 セネレが可愛らしく小首を傾げると、“蛇顎”の顔が満面の笑みとなる。商売用の顔らしいが、大変不気味である。


「この白銀翼竜の死体の所有権を譲ってくれ。いや、なんなら売りさばくのを任せてくれ。お前らと俺らが金持ちの仲間入りするチャンスだ」



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