Episode 29 最後の戦い

29-1.本領発揮

「計画を早めたい。今度で終わりにしよう」

 予想はしていたから綾小路高次は驚かなかった。

「おまえさんが言うなら」

「そうだな」

 一ノ瀬誠も静かに頷いた。




「片瀬! 森村! 池崎!」

 委員会に行こうと連れ立って歩いていた三人に、生徒会副会長本多崇が追いすがってきた。紙切れを握りしめた手がぶるぶると震え、見たこともないくらい真っ青な顔をしている。

「なんだ、どうした?」

 尋常ではない様子に泰然自若をもってする片瀬修一もさすがに表情を変える。


「これ、これ……」

 くちゃくちゃになった紙を開いて見る。二枚の小さな用紙。

『生徒会長候補届出書』には本多崇の名前。

『開票立会人届出書』には片瀬修一の名前。


「なんじゃこりゃ」

「馬鹿! どういうつもりさ」

 顔色を変える片瀬と拓己に混乱の極致の表情で本多は必死に首を横に振る。

「知らな……、生徒会室に行ったら……置かれてあって、もう、どういうことだか……」


「そんなの一目瞭然じゃない」

 びくっとその場にいた全員がすくみ上る。

 三大巨頭の登場にその場が騒然となる。

「本多くんたらカワイイ顔してやってくれたね。こういうの、なんて言えばいいかな」

「飼い犬に手を噛まれる、かな」

 にこにこと現生徒会長一ノ瀬誠が言う。

 本多の顔色がいっそう白くなる。


「片瀬くんもひどいな。そんな考えがあったのなら言ってくれればよかったのに。なんの相談もなく出し抜こうとするなんて」

 片瀬はなにも言わずに黙っている。


 正人は我慢できずに口を開いた。

「そんなの、何かの間違い……」

「間違い?」

 くっと口角を上げて美登利は微笑む。

「なにが間違いだって言うの? 私たちから政権を奪おうって言うのでしょう? なにが間違いなの?」


 いつのまにか廊下に人だかりができていた。

 体育部長安西史弘や文化部長澤村祐也も遠巻きに様子を見ている。


「いざ届けを出そうと思ったら怖くなった? 情けないなあ、せっかく胸を貸してあげてもいいかなって思ったのに」

 これ以上のない憎たらしい表情で笑う美登利を正人はじっと見つめる。

「負けを認めるなら今すぐここで謝ったら? 分不相応にごめんなさいって。そしたらもうしばらく、面倒見てあげてもいいよ」


(煽る、煽る)

(楽しそうだな)

(本領発揮)

 胸中でつぶやく三年生をよそに二年生たちは凍りついて立ち尽くしている。


 唯一嚙みついてくるだろうと思われた池崎正人は黙ったままこぶしを握り、本多崇を振り返った。

「行こう」

「え?」

「それ持って受付に行くんだ! おまえが立候補するんだよ」

「そんな……」

「片瀬! 早く一緒に行けよ」

 まだうろたえている本多の腕を取り、片瀬は無言で廊下を歩いて行った。


 残った正人はぎっと正面から三大巨頭を睨みつける。

 まわりの誰もが息をのむ。

「お望み通り、戦ってやる! 政権奪取だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る