6-3.よからぬことが始まる気配
正人はむっと唇を尖らせた。
「ガキが遊びに来るところじゃねえぞ。さっさと帰れ」
「失礼な人ね、レディーに対する口のきき方も知らないなんて男じゃないわ」
「誰がレディーだ」
子ども相手にむきになっていると、小暮綾香と須藤恵がやってきた。
「だあれ? その子」
「知らねえよ。勝手に入ってきたみたいなんだ」
恵が膝を屈めて彼女に問う。
「なんの御用? お兄さんかお姉さんがいるのかな?」
「わたしは高次に会いに来たの。高次はどこ?」
「たかつぐ?」
「そうよ。綾小路高次。高次のところへ連れていって」
風紀委員会室に行ってみたが綾小路は留守だった。仕方がないので次に彼が居そうな中央委員会室に向かう。
「今度はどこに行くの?」
手をつないでいる恵に紗綾が問いかける。
「中川先輩のところだよ。そこに綾小路さんがいなくても捜してもらえるだろうし」
「美登利のことね」
「わあ、先輩とも知り合いなんだ」
「お友だちよ。わたしは美登利みたいになりたくて髪を伸ばしたの」
「わかるよ。中川先輩すてきだもん」
はあ、と奇しくも同時にため息をついて、正人と綾香は顔を見合わせる。
「悪いな、付き合わせて」
「別に。池崎くん女の子の扱い下手そうだし」
前にも誰かに同じことを言われたような。
「あらまあ、紗綾ちゃん」
「美登利」
あいにくここにも綾小路はいなかったが、金目鯛せんべいやらのっぽパンやら温泉饅頭やらを食していた面々が珍客を出迎えた。
「どうやってここまで来たの?」
「川久保のくるまでよ。駐車場で待ってくれてるわ」
「それはそれは」
坂野今日子が淹れてくれたお茶を紗綾は上品に飲む。
それを見ながら何か考えているふうだった中川美登利が船岡和美に何か囁くのを正人は目撃してしまった。
和美はにやりと笑って部屋を出ていく。
当の美登利も、今日子に何か言いつけてから慌し気に出ていった。
何かよからぬことが始まる気配を肌で感じて正人はぞっとする。
――あなたが私を止めて。
言われたことを思い出し、正人は少なからず動揺する。追いかけた方がいいのだろうか。
皆の方に視線を向ける。紗綾を取り囲んでわいわいお菓子を食べている拓己たちの向こうから、一ノ瀬誠が正人を見ていた。
目が合う。誠はにこっと笑う。
なにを考えているのかはわからない。わからないが、彼がのんびりしているのなら、そうヒドイことは起こらないのではないか。
そんなふうに結論付けて正人は気持ちを落ち着かせる。
そんな正人の隣から小暮綾香が饅頭を差し出した。小ぶりの饅頭を正人は丸ごと口に入れる。
りすのように頬を膨らませた正人の顔を見て綾香がぷっとふき出した。
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