水洗戦隊トイレン・ジャー VS 毒ショーグン

「ぬははは! さあ、読め。思う存分、読書をするが良い!」

 ここは毒ショーグン率いる悪の組織「コシツ・ナイン」の秘密基地。

 巨大なドーム状になっているメインの地下空間から細い洞穴を奥に進んでいく。

 壁面には、以前便器や洗面所だった陶器の欠片が、地層のように薄汚れた層を成し積み重なっている。

 突き当たりには鉄格子が嵌め込められた小さな個室があった。

 中央には洋式便器が置いてあり、そこには足を拘束された洋式レッドが座っていた。

 洋式レッドは抵抗する様子もなく、便座に座りながら、ただただ夢中に本を読んでいる。

 洋式便器にはいくつもの複雑な配線がされており、その線は配管にまとまられ、細い洞穴を通じてメイン空間へと延びていた。


「そうだ。愚かな洋式レッドよッ! トイレ読書を楽しむのだッ!」

 メイン空間の中央には巨大な水晶玉が配置されており、青白く輝いていた。……そう、まるでトイレにおくだけのブルーの洗浄剤のように。

 洋式レッドが幽閉されている個室から延びる配管はそこに接続されていた。

「流石は洋式レッド。良いパワーだ……」

 毒ショーグンは水晶玉を見上げながら、不敵に笑った。

「ぬははは! 今日も世界中の個室を奪ってやれッ!」

 毒ショーグンがゴツゴツした茶色い腕を振り上げる。

「コシツジャックでブルーの力をもっと蓄えるのだッ!」

「ピーッッ!」

「いけ! スマ・ホー!」

 コシツ・ナイン戦闘員のスマ・ホー達が、掛け声と共に一斉に外に出て行った。



 一方、その頃。トイレン・ジャー秘密基地では……。

「クソ。レッドはどこにいるんだ!」

 和式ブルーが会議室のテーブルを激しく叩きながら叫ぶ。会議室の椅子はもちろん便座である。

「コシツ・ナインのアジトさえ分かれば……」

 おまるピンクが便器に座りながら足を組みなおす。

 小便キイロが立ち上がり一歩前に出た。

「スマ・ホーのコシツジャックも最近活発だしな……」

 コシツジャック。それはスマ・ホー達が、公衆トイレ、駅のトイレ、商業施設などのトイレの個室で読書をしたり、スマホをいじったりして、不必要に長時間、個室を占拠する行為のことである。

「祭りはパワー、パワーは祭り……。洋式レッドのパワーがスマ・ホー達に使われているのかもしれんな」

 仮設グリーンが柄にもなく静かにつぶやく。

「レッド、どうか無事で……」

 おまるピンクが頬杖をついた。


 突然、勢いよく会議室の扉が開けられた。

「トイレン・ジャーのみんな。ついに完成したわ!」

 入ってきたのは薄い青色の作業服で身をまとった、清掃員と呼ばれるトイレン・ジャーの活動をサポートするメンバーだ。

「できたのか!」

 小便キイロが一歩前に、清掃員の元に行く。

「なんとか、ね。これよ!」

 清掃員は手に茶色の長細い排泄物を持っていた。

「そ、それって、うん……」

「そう。UNKソナー量産型よ」

「UNKソナー量産型……」

 トイレン・ジャーが口々に言う。

「そう。ほら、みてみて。大丈夫、本物じゃないわ。外見はっぽく似せて作ってるだけ。UNKソナーは水中に存在する微弱な音波……ううん、ごめんなさい、微弱なウン波を元に探査を行う潜水艦のようなものなの」

「ウン波ってのは何なんだ?」

「ウン波はウン波よ。排泄物から発せられる周波よ。このUNKソナー量産型を大量に下水道に放つわ。UNKソナーはそれぞれ下水道を潜水して進んでいく。レッドがもしどこかのトイレで排泄していれば、そのうち微弱なウン波をキャッチできるはず。それを辿って最終的にはレッドの居場所を突き止めるってわけ」

「なるほど……」

「レッド、もう少しよ。頑張って……」



「ぬははは! もっと読め。もっと遊べ。トイレ読書やトイレスマホで公共トイレを占拠してしまえっ!」

 毒ショーグンは大型モニタに映るスマ・ホー達の悪行を見ながら高らかに笑った。

 と、その時だった。どこからか声がした。

「――世の中にはトイレを必要としている人がたくさんいる。必要としている人がトイレを使えない、必要としている人が悲しい顔をする……。そんな世界にはしたくない。トイレを、個室を、奪うヤツはオレらが許さないッ! いくぞ! 水洗戦隊トイレン・ジャー!」

 掛け声と共に突如、四人の戦士が洞窟に現われた。

「気合い十分。和式ブルー!」

「一歩前へ、小便キイロ!」

「優しく教えてあ・げ・る♪ おまるピンク!」

「祭りが俺を呼んでいるぜ。仮設グリーン!」

 各々が決めゼリフを言い、戦闘ポーズを取った。

「ぬぬぬぬ。出たな! トイレン・ジャー!」

「ピィーッッッ」

 毒ショーグンの前に大量のスマ・ホー隊員が現われる。


「おまるピンク! レッドはあっちだ。任せた!」

「分かったわ!」

 おまるピンクが洞穴に向かって走る。

「ピィーッ!」

 スマ・ホーがおまるピンクに向かって走り出す。

「お前の相手はこっちだ。行くぞッ、小便キイロ、仮設グリーン!」

「おう!」

「水洗ジャァァァァァー……キッークッ!」

「ピィーッッッッ!」

「スマ・ホー! 行けッ! 行けッ!」

 洞窟内は激しい戦闘が繰り広げられる。



「レッド!」

 その頃、おまるピンクは洋式レッドが幽閉されている個室前に来ていた。

「クッ。開かないわ」

 洋式レッドは取り憑かれたようにトイレ読書に夢中だった。このままではレッドの命が危ない。

「レッド。もう少しよ。待ってて」

 おまるピンクは腰に装備した銃を取り出す。

「行くわよ! トイトレーザー!」

 鉄格子が一気に溶けた。そのままおまるピンクは洋式レッドの足枷にもレーザーを当て、鎖も溶かす。

「レッド、しっかりして。レッド」

 洋式レッドの頬を数回叩き、抱きかかえるように便座から洋式レッドを降ろした。

 洋式便器の中にはUNKソナー量産型がひとつ、ぷかぷか浮いていた。それは一見すると、まさににしか見えないが、紛れもなくUNKソナーである。

「……はっ! こ、ここは! ピンク、ここは一体?」

「レッド、良かった。みんなが、世界が危ないの」



「ピィ、ピィッ! ピィーーッ!」

「ぬぬ。ブルー水晶の力が弱まっただとッ」

「ピィ!」

 洞窟中央にある水晶玉の青白い光の輝きが弱くなっている。

「ブルーの力が。ブルーが、ブルー……レッド。もしやレッドが逃げたのかッ」

「毒ショーグン、残念だったわね」

 そこにはおまるピンクともう一人の戦士が立っていた。

「心と尻に温もりを、洋式レッド、ここに帰還!」

「レッド!」

 水洗戦隊トイレン・ジャー、ここに集結である。

「この世にトイレがある限り、オレらはトイレの治安を守る!」

 五人揃った戦士達はスマ・ホーを一気に片づける。


「ぬぬぬ。こうなったら仕方がない……ッ」

 毒ショーグンは水晶玉に触れ、パワーを自らの身体に注ぎ込む。

 すると、地響きが起こり、洞窟が崩れ始めた。

「危ない! ここは崩れ落ちるぞ」

「ひとまず、逃げるわよ」

 大きな岩が落ちてくる。

「ぬは、ぬはははは!」

 毒ショーグンはみるみる巨大化していき、やがて洞窟の天井をも突き抜けた。

「見よッ、これがコシツジャックの力だ!」

 毒ショーグンが採掘場の岩場から現われる。ズドンと大きな音を立てて、トイレン・ジャーの目の前に毒ショーグンの足が降りてきた。

「クッ! レッド、どうする?」

「よっしゃあ、超陶器ロボ発動だ!」

 洋式レッドの掛け声でどこからともなくやってきた五つの部品が合体し、あっという間に巨大ロボットが目の前に現われた。

 五人は操縦席に座っている。座席はもちろん便座だ。

「よし、みんな! 一気に片づけよう!」

「オウッ!」

「毒ショーグン、さらばだ!」

 超陶器ロボと毒ショーグンの激しい戦闘が繰り広げられる。

 パンチを食らう度に激しい火花が散る。

「レッド! 必殺技を使うぞ!」

「よっしゃあ!」

 超陶器ロボは背中から大きなバズーカを取り出した。そして肩に乗せるように構え、毒ショーグンに標準を定める。

「毒ショーグン。これで終わりだ! 必殺! ユニットバスーカ砲、発射ッ!!」

 放たれた一発は毒ショーグンに的中し、貫通した。

「ぬッ……はぁッ!!」

「この世にトイレがある限り、トイレの治安はオレらが守る」

 毒ショーグンは苦痛な顔で胸を押さえ静止していたが、すぐに豪快に爆発して跡形もなく消えていった。


 こうして毒ショーグン率いる悪の組織「コシツ・ナイン」は滅びたのだった。

 そして街のトイレの安全は守られたのだ。トイレン・ジャーがいる限り、トイレの治安は守られる。

 今日もどこかでトイレで助けを求めている。

 ゆけ、水洗戦隊トイレン・ジャー。


おしまい


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