こたつ
「お姉ちゃん、場所取りすぎー」
「そんなことないよ、あんただって布団持ってきすぎ」
「だって、寒いんだもーん」
そう言って妹はグイッとこたつ布団をさらに引っ張った。すっぽりとこたつの中に身体を収めている。亀か。
「あんた、こんなとこで寝てないで勉強しなよ」
「えー。なんでよー」
正月。わたしは実家に帰ってきた。妹は高校二年生。わたしは大学二年生。お互い受験生でも就活生でもない気楽な身分だ。
妹は寝ながらスマートフォンをいじっている。
「お姉ちゃんこそ、こんなとこでテレビ見てないでどっか行きなよ」
テレビではお笑い芸人による漫才が流れている。みかんを食べながらテレビを見る。芸人のツッコミに大いに笑う。ああ、なんて幸せな時間なんだ。
「ふっ。あははは。このコンビおもしろーい」
何組かの芸人のネタが終わるとCMに入った。
「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん」
「なに?」
「テレビ見てる時に悪いんだけどさー」
「いいよ別に。CMだし」
「じゃあさ、あたしの代わりにトイレ行ってきてー」
妹はこたつの中から頭とスマートフォンだけ出している。
「は? 意味分かんない。ムリ」
「えー。さむいー。動きたくないー」
「うっさいなぁ。いいよじゃあ。わたしも行きたかったし、あんたの代わりにいったげる」
「やったー」
「あんたの分は出せないけどね」
「えー。けちー。おにー。あくまー」
「当たり前じゃん」
そう言ってわたしは居間を出た。暖房のついていない廊下はひんやりと寒く、素足で歩くと冷たさが直に伝わってくる。
トイレで用を済まし居間に戻ると、テレビ番組が再開されていた。わたしはこたつに入り再びテレビを観る。
あまり面白くないコンビだ。
「あんた、トイレ行かなくていいの?」
「んー。出たくないー」
「ほんと、めんどくさがりよね」
テレビを観ながら妹と会話をする。
「そういやあんた、漏らしたことあるよね」
「え? ないよ!」
「ほら、小学校の時――」
「あれは大丈夫だったの。お姉ちゃんしつこいよー」
下校中にトイレに行きたくなったらしく、小学生の足で二十分かかる通学路を駆け足で家に帰ってきたらしい。先に家に帰っていたわたしは何事かと思ったのだけど、妹はそのまま猛ダッシュでトイレに駆け込んでいった。その時の苦悩に満ちた妹の顔。あれは漏らした。
「ふふ」
「何笑ってんのよー。ほんと大丈夫だったんだからね」
「テレビよ。お笑いに笑ったの」
妹は何か納得してなさそうな表情をしたが、直後、「さ。そろそろトイレ行こうかなー」と言い、こたつから身体を出してのそりと立ち上がった。
「いってらっしゃーい」
私はお笑い芸人のネタに笑いながら言う。
「お姉ちゃんのいじわる」
妹は小声でつぶやきながらトイレに出て行った。
今日も我が家は平和である。
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