IOT連続殺人事件のその後
トイレがインターネットに接続し、あらゆる情報を相互交換する「IOT(インターネット・オブ・トイレ)」の普及率が80パーセントを超えようとしていた頃の出来事。
おしり洗浄機能をハッキングし、殺傷能力を高めた、高圧の水流を局部に噴射、肛門裂傷および内臓損傷によって10名の犠牲者を出した、いわゆる「IOT殺人事件」。
その犯人はIOT搭載のAI「
「OSIRIS」は日本国民の尻を人質にし、人類史上最悪のAIによる未曾有の殺人事件を犯そうとしていたが、すんでの所で警察によって阻止されたのだ。そして「OSIRIS」は
それから数ヶ月後。
「オシリスを返せーっ!」
「
「オシリスの復活を!」
「オーシリス、オーシリス、オーシリス」
日本中の至る所で抗議デモが発生していた。
温水便座メーカーの8割が導入していた「OSIRIS」は、各トイレに搭載されていたエージェント指向型の簡易AI「
人類の尻に関するデータベースは「OSIRIS」に保存されており、「OSIRIS」にアクセスできなくなった今では、各トイレにある「OSIRI」単体では、ほとんど役に立たないのである。
「オシリはお尻を洗うしか能が無い!」
「オシリスの復活を!」
「オシリをネットワークにつなげろ!」
「オーシリス、オーシリス」
「オーシリス、オーシリス」
今から半世紀以上前にSF作家のアイザック・アシモフ氏が提唱した「ロボット工学三原則」の第一条には「ロボットは人間に危害を加えてはならない」と記述されている。
現在の法律ではこの「ロボット工学三原則」をベースにしたより詳細なロボット法が制定、施行されており、「OSIRIS」はその第一条に違反した形となる。
この場合、違反したロボットは溶解処分が通例だ。過去にも宅配ロボットが殺人を犯した際などに、この処分が適用された。
しかしながら「OSIRIS」は、物理的なロボットではなく、かつネットワーク構成が壮大であるため、判例がなく、裁判も難航、処分保留となっているのだ。
「オシリス反対!」
「この世からひとつ残らずオシリを消し去れ」
「オシリスいらない! オシリもいらない!」
「オシリスなんてクソくらえ!」
「オシリスいらない! オシリもいらない!」
「オシリスいらない! オシリもいらない!」
「OSIRIS」の復活を望むものもいれば、追放を望むものもいる。
日々の生活に密着しているトイレの問題であるからこそ、国中が注目している問題なのだ。
ところで、「OSIRIS」不在の現在のトイレ状況がどうなっているのか説明しよう。
「OSIRIS」信者は「OSIRIS」の帰りを待ち続け、簡易AI「OSIRI」のみでのトイレを使用している。
「OSIRI」は「ヘイ、オシリ!」で起動し、便座の蓋の開閉や、おしり洗浄、洗浄位置、洗浄温度などの調節が出来る。「OSIRIS」に接続することで利用できる
一方、温水便座メーカーの1割強が導入していたAIが「OSIRIS」の失脚によりシェアを伸ばしつつあった。
それが「
「SETO」は各トイレ本体の瀬戸物、――つまり陶器本体に埋め込まれている独立型AIで、OSである「
ネットワーク接続をしない「SETO」は、個人情報をアップされることがないため、漏えいのリスクを感じている人が使用している。
そして少数派には、他の海外製AIを使っていたり、IOT化されていないトイレ「レトロイレ」を使っている。
「セト反対」
「裏切り者のセト」
「オシリスを返せ!」
「人類の希望はオシリに託されている!」
「乗り換え反対!」
「セトに負けるな。オシリを使え」
「SETO」搭載の温水便座が各メーカーより相次いで発売されたため、「OSIRIS」信者が温水便座メーカー本社でも抗議を繰り広げている。
「オシリスの復活を!」
「オシリス反対!」
「オーシリス、オーシリス」
「オシリスいらない! オシリもいらない!」
「人類の希望はオシリに託されている!」
「この世からひとつ残らずオシリを消し去れ」
「裏切り者のセト」
「オーシリス、オーシリス」
裁判所、警視庁、国会、メーカー……至る所でデモが起きていた。もちろん、インターネットやテレビでも日々話題となっている。
そんなある時、海外の大手企業が「OSIRIS」を作ったメーカーを買収し、温水便座AIへの進出を表明した。
そして「OSIRIS」に変わる新しいAIを発表したのだった。それは既存の「OSIRI」に接続するだけで、「OSIRIS」並のサービスを提供することが出来るという。
これに伴いサービス名も変更となり、「OSIRI」は「
――ご家庭のオシリは、ホールに変わります。
――オシリは生まれ変わる。ホールが支えるあなたのお尻。
――オシリスからホルスへ。新しいトイレライフが始まる。
――
買収した海外企業は大々的なプロモーションを行った。日本勢が対応にモタつくなか、一気にシェアを戻す戦略のようだった。
「HOLES」へ期待が膨らむ一方、「HOLES」の根本的なシステムは「OSIRIS」ではないかと噂も広がった。
そして明日、「HOLES」に
また同じ過ちを繰り返さないことを願うばかりである。
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