ある会社の願い

 ある小さなビルのある小さな会社の社長は、トイレの個室がひとつしかなくて困っていた。

 社長はたいそう忙しく、会議の合間に個室が埋まっていると、次の会議まで我慢しなくてはならない。

 社長は友人のティー博士に相談を持ちかけた。

「個室が埋まらないトイレにして欲しいんだ」

「それはつまり、回転がはやいトイレというわけか」

「わからない。とにかく何でも良いから好きな時にトイレに入れるようにしてくれ」

「うむ。作ってみよう」


 翌日、ティー博士は発明品を持って会社にやってきた。

「これをつければトイレの回転がはやくなるぞ」

 博士はトイレの個室にタイマーを取り付けた。

「これでトイレに入った人は時間を気にするようになる」

 ティー博士の言ったとおり、個室に入る人が以前より早く出るようになった。

 しかし残念ながら、社長がトイレに行くと個室が埋まっているのだ。

「忙しくて時間が惜しいんだ。トイレに行く前に、トイレが空いてるか知りたいんだ」

「うむ。作ってみよう」


 翌日、ティー博士はまた発明品を持って会社にやってきた。

「これをつければ個室の空き状態が分かるぞ」

 博士は会社のフロアに赤と青のランプをつけた。赤いランプが個室に人がいることを示し、青いランプは個室が空室を示すという。

 ティー博士の言ったとおり、わざわざトイレにまで行かなくとも個室の空き状態が分かるようになった。

 しかし、トイレが空いてなくて我慢していた従業員も、トイレに行きやすくなり、今までよりも個室が埋まるようになってしまった。

「もっと、トイレが空いている時間を増やしてくれ」

 博士は困ってしまったが、

「うむ。作ってみよう」

 と言った。


 そして、翌日、博士は工事業者とともに会社にやってきた。

 コンカン、コンカンと工事を行い、博士は言った。

「よし。できたぞ」

 ティー博士は、トイレの個室に人が入っているが分かるようにし、仮に人が入ってもすぐに出ることが出来るすばらしいトイレを作ったのだ。

 それは会社のフロアの壁とトイレの壁を透明にして、いつでもトイレの中が分かるようにしたのだ。

 個室の壁ももちろん透明なので、誰がどのくらいトイレに入っているのかが一目瞭然だ。

 博士は言った。

「これで社長の好きな時間にトイレに入れますよ」


 こうしてこの会社のトイレはいつでも個室が空くようになった。

 今では社長含め、従業員は皆、ほかのフロアのトイレを使うようになったのだった。


 ほかのフロアの社長が言った。

「最近、トイレの個室が埋まっているんだ。どうにかしてくれないか」


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