第17話 砂漠の主

「ギシャァァァァァアアア!」


大気を震わす大声をあげながら、突如大きな魔物が俺たちのすぐ真横に現れた。


「あれは・・・サンドワーム・・なのか?」


サンドワーム。砂中で生活している魔物で見た目は大きなミミズみたいなやつだ。目が退化していて、主に耳で音を聞き相手を探す。

標準的な大きさは2〜3メートル、大きくて5メートルくらいだろう。縄張りの近くを通った人や動物、時には魔物でさえ一飲みにしてしまう危ないやつだ。


「なぁ、メル殿、サンドワームって大きくて5メートルほどではなかったかな?」

「俺の知識だとそうなるな。」

「メル様が、不吉なことを言うからです。」

「・・・大きい。」

「なのです。」


悪かったよ!フラグなんて言葉初めて聞いたんだよ!

俺たちの目の前で、見下ろしているサンドワームは10メートルを優に越している。

見えていない部分を含めると15メートルくらいありそうだ。


「・・たまに・・大きくなる・・個体もいる。」

「それにしても大きすぎるだろう。 こんなに大きいのは初めて見たのだが。」

「長年見つからずに成長してきたんじゃないか?サンドワームとか、道中の見回りをしている騎士団とかに必ず討伐されるからな」

商人が通らなくなるとその町の経済も悪くなるらしいです。


「ギシャァァァァァ!キジャグシャ!」

俺たちが現実逃避をして喋っていると、急に怒ったかのように大口を開けて突進してくる。

つーか、最近ちょっと面倒ごと多くね?


「みんな!散れっ!」


あまりの大きさにびっくりして固まっていた商人や冒険者たちに声をかけると、さすがに彼らも年季のおかげか、なんとか巨大サンドワームの攻撃を避けた。

辺りには砂が飛び散り、進路状にあった馬車が一台粉砕されてしまった。


「あぁ!私の愛馬車がぁ!」


おっさん諦めろ。あいつ(馬車)はもう戻ってこないんだ。


「おい、野郎共!こいつからは逃げられねぇ!覚悟を決めろ!」

護衛に雇ったと思われる冒険者たちが声を出し鼓舞していた。

そして大きくUターンをしたサンドワームがこちらへ向かってまた突進を繰り返してくる。


ふふ、甘いな、巨大サンドワームといえど知能の低い魔物畜生だ、こちらには圧倒的火力のユティさんがいるのだ。こういう周りを気にしなくていい場面では最強と言っても過言ではない。


「ユティ!魔法でやっちまえ!」


「・・・うん。・・ファイヤボール!・・」


相変わらずファイヤボールとは思えないくらいの大きさの灼熱の火の玉がサンドワームに向かっていく。

ボゴォオオォン!

盛大な音と土煙をたて「ギシャァァァァァ!」・・・怒り狂ったサンドワームさんが出てきた。表皮には少し焦げた跡があるがまるで堪えていないようだ。育ちに育ったサンドワームの皮膚は分厚く、魔防も高いようだ。




「・・・っ!・・・効かない?」

ユティもびっくりしている。今までファイヤボール耐えられる敵がいなかったからな。ゴブリンとか、跡形もなく消し去るし。

「ぎゃぁ!」「うわぁっ!」

サンドワームは冒険者たちを蹴散らしながらこちらに近づいている。もう俺たちにロックオンしてるんじゃないかあいつ。



おっーと今、やばくね?と思ったかい?安心してくれユティは魔法のエキスパート。これを超える魔法だってある。初球のみんな使える(メル調べ)ファイヤボールであの威力だ。上級魔法や大魔法すら使えるユティ先生の敵ではないのだ。ふははは、サンドワームよ!お前の敗因は今日俺たちがいたことだ!

ユティは膨大な魔力を手に集めはじめ

「・・・・・我が魔力を生贄に・・・・全ての物を・・・凍らせん・・・・」


・・・そして、詠唱を始めた。


「ちょ、ちょちょ、ちょっとまて!どんだけ強力な魔法撃とうとしてんだ! 第一間に合わねぇだろ!すぐ目の前にあぁぁぁ!」


くそっ!俺のパーティに期待したのが馬鹿だった! 何でこの場面で詠唱が必要なものすごい魔法使おうとしてんだ!しかもユティだから詠唱もおっそいし!


うわぁぁぁあああ!死ぬ前にもっと冒険したかった!女の子侍らせてウハウハしたかった! お父さんお母さん、妹に弟よ、旅立つ不幸をお許しください・・・・





「ギシャグジャァァァァァ」


ユティと俺に向かってサンドワームが大きく口を開け飲み込もうとする。



「私を忘れてもらっては困るな。」

バゴッと鈍い音を立てて、サンドワームが少し横に逸れる。 シルフィが大剣で横っ面をひっぱたいたのだ。何その登場の仕方。かっこよすぎだろ。惚れるわ。姉御と呼んでいいですか。ほらユティもポケッとしてるし。


しかしシルフィの攻撃も、サンドワームのゴムのような皮膚は多少切れるが小さく、へこんだように見えた部位もすぐ戻る。なかなか厄介な魔物のようだ、シルフィの剣も通じず、ユティの魔法もか。


「おい、ユティ、上級とか、大魔法くらいでいいんだ、詠唱いる奴じゃなくていいからそれ打ってみてくれ。


「・・・使えない。 ・・・初級か神級だけ」


「え?」「・・・?」


ユティがコテンと首を傾げる。小動物のような愛らしさがあってお兄ちゃん甘やかしちゃうってそうじゃなくて!


「そ、それはどういう?」

「・・・初級か・・神級・・2択」


「はぁぁぁ!?何だそれ、極端すぎるだろ!」


ちなみに魔法は初級〜上級が一般的に知られており、上級まで使えたら凄腕と呼ばれる。

そしてその上が帝級、王級、神級

大魔法と呼ばれるのは帝級か王級くらいだろう。昔には使える人が多かったようだが今は使える人は数えるほどしかいない。神級などはおとぎ話くらいでしか出てこない。

その威力は神を冠するだけあって凄絶らしい。天も地も海も全てを割れていたり、永遠に地獄の業火が燃え続ける場所が、神級魔法の跡地ではないかと言われている。




「・・・・・ふぇぇ」

大声で怒ったら、ユティが涙目になった。

「おい、メル殿怒りすぎだぞ。ほら、ユティ殿は悪くないぞ、ヨシヨシ」

「わ、悪かったよ、俺も冷静にならないとな。」

何とかユティあやしていると、サンドワームが起き上がる。他の冒険者たちもいろいろ試しているようだが、奴が大きすぎて有効打が入っていない。


「ギャァァ、グェッ」


冒険者が鬱陶しかったのか、巨大サンドワームが酸を吐いてきた。


「うわぁぁぁあああ!気をつけろ、鎧が溶けるぞ!」

「何だこの酸!ミスリルの特徴品だぞ、俺の盾は!」


たった一度の攻撃で阿鼻叫喚の地獄絵図となった。これはさすがに厳しいか?


「メル殿どうする?これではラチがあかないぞ」

「・・神級魔法・・・うつ?」

「それは俺たちも死ぬのでやめてください」


しかし、どうするか、これでは全滅だ。いっそのことユティに打ってもらった方が生き延びれるかもしれない。

冒険者は逃げ惑い、俺が頭を悩ませていると


「案が浮かぶまで私が時間を稼ごう、他の冒険者ではやられてしまうだろう。たとえこの身が果てようとも救ってみせる!」




シルフィが走り出した途端、サンドワームの頭に矢が飛んでどんどん刺さる。




「ギジャァァ! ギャァァァオオ」



ドスン。

俺たちが苦戦した巨大サンドワームが事切れて倒れる。



「遅くなって申し訳ありません。毒の調合に手間取ってしまいまして。あの巨体だと生半可な毒では死にませんからね。」


シルフィがうつむきながら、こちらへ帰ってくる。気合十分に走り出した手前、戻ってくるのが恥ずかしいのだろう。


「どうしました?シルフィ様、ご気分でも悪いのでしょうか?」


そしてうちのメイドは追い討ちをかける。


「いや、、別に、倒せることに、越したことはない・・」

両手で顔を隠してプルプルふるえている。


それにしても、あの巨体が即死する毒ってどんなのを作ったんだ?しかもどこに弓と毒を隠し持ってたのか・・・俺のパーティで一番謎なのは間違いなくマリアだな。


「いやぁ、助かったよ!お客さん!あんたら強いんだねえ!」

いや、うちのメイドがおかしいだけです。普通全滅してます。




「では先を急ぎましょう。この先も襲われないとは限りませんので。」






===閑話===


メル「ユティ魔法は誰に習ったんだ?」

ユティ「・・・じーじと・・・パパ」

メル「そ、その神級魔法も・・か?」

ユティ「・・・? ・・もち・・ろん」

メル(あぁ………こいつもやばそうな気がする)



























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