幸福を知らなければ悲しみは感じない。

櫻庭 春彦

第1話

ひとりの飢えた少年がいました。

愛にも、食べ物にも。

まだ両親が生きていたころは、裕福とは言わずとも一般的な

いわゆる”幸福”な家庭に住んでいました。

――いつからだろう、歯車がきしみ始めたのは。

少年は寂しさを紛らわすために罪を―実感もないまま―重ねていきました。

「この泥棒猫がっ」

野太い声が市場いっぱいに響き渡りました。

数日前にアジトはうばわれてしまったので、少年はずっと遠くまで逃げました。

いつの間にか森の中に入ってきてしまっていました。

もう日も暮れ始めていました。


グルルル

飢えた獣の声が森によく響きます。

(くそっ こっちくんなよ…)

願いむなしく非力な少年は飢えた獣に見つかってしまいました。

いつもの威勢も消え失せ、腰の抜けてしまった少年は逃げる事もかなわず

襲われてしまいました。

刹那、閃光が走り少年は金色の美しい鳥をみとめました。

少年は、ながれる意識に身をまかせました。

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