物好き…

紀之介

どんな御用ですか?

「ここって、幽霊を見たい 物好きな人が集まる部屋なんでしょ?」


 開いていたドアから入ってきた見知らぬ女性の問いかけに、大学の心霊研究会員である葉月さんが 苦笑します。


「…まあ、物好きなのは、否定はしませんけどね」


「私、お菊っていうんだけど…」


 いきなり、自己紹介を始めた女性を、葉月さんは しげしげと見ました。


「─ どんな御用ですか?」


 お菊さんが、満面の笑みを浮かべます。


「…幽霊が出る場所があるんで、教えてあげようと思って、来てあげたんだけど」


 訝しげな表情を浮かべる葉月さん。


「…そんな場所、あるんですか?」


「うん。私が出てる場所なんだけどね」


「─ え?」


「笹本公園の、井戸の跡知ってる?」


「…北側の、金網で囲まれてるところですよね」


「そう。そこに、丑三つ時近くに来てみてよ!」


----------


「…嬉しいな! ちゃんと来てくれたんだね」


 街灯のお陰で、それなりに明るい夜中の公園。


 井戸まで数メートルの辺りに 立ってたお菊さんが、嬉しそうに微笑みます。


 抱きつかんばかりの彼女に、近づく葉月さん。


「ほ、本当に…幽霊さん なんですか?」


「化けて出ても…最近は、見てくれる人がいなくて つまらなかったんだよねぇ」


「…解るような、解らないような」


「だから、色々な人に 声を掛けてみてたの!」


「─ 営業みたいな事…してるんですね」


「ちゃんと来てくれたのは…あなたが初めて!!」


 葉月さんは、今更ながら、幽霊に勧誘されて 出向いた自分の迂闊さに思い至ります。


 そんな彼女に気付く素振りも見せず、お菊さんはテンションを上げました。


「ぼちぼち丑三つ時だから、ちゃんと見てね。」


「…はい?」


「時間になっら、化けて出るから!」


「─ えーとぉ」


「遠慮なんかしないでね? 井戸の近くまで寄って 見てくれていいんだよ?」


 言い終えた途端、お菊さんの姿は 忽然と消えました。


「…え、何?」


 突然 葉月さんは、真夏にも係わらず 背筋に寒気を感じます。


 ゆらゆらと井戸から現れる、着物姿の女性。


「…1枚…2枚…3枚…」


 囁く様なのに、何故か耳まで届く声で、手にした皿の枚数を数え始めます。


「…7枚…8枚…9枚…」


 数え終わり、無念そうに声を絞り出します。


「1枚足りない…」


 目を逸らす事が出来ず、一部始終を見届けた葉月さんは、その正体を理解しました。


「…さ、皿屋敷の……ゆ、幽霊………」


----------


「…また、来てくれたの?」


 翌日の夜中。


 公園に現れた葉月さんに、お菊さんは歓喜します。


「結局昨日…走って逃げて行っちゃったんで、もう会う事もないのかなって思ってた♪」


「し、心霊研究会員として あるまじき行動を取ってしまい、恥ずかしいと思っています」


 意味不明な謝罪をする葉月さん。


 お菊さんは、その背後に 同行者がいる事に気が付きます。


「…1人じゃ、ないの?」


「話をしたら…自分も是非とも見たいと言うので、連れて来たんですが…ご迷惑ですか?」


「そんな事ない!」


 興奮したお菊さんは、葉月さんの両手を握りました。


「見てくれる人が多い方が、出る張り合いがあるから、どちらかと言えば 大歓迎!!」


「幽霊さんは…みんな そんな感じなんですか?」


「さあ、どうなんだろう──」


「ところで…時間、ぼちぼちでは??」


「ホントだ…じゃあ、頑張って幽霊 してくるからね!」


「今日は、走って逃げたりしませんから。」


 ニコニコ顔で頷くお菊さん。


 その姿が、忽然と消えます。


 井戸に現れる、着物姿の幽霊。


「…1枚…2枚…3枚…」


 前日と同じように お皿を数え始めます。。。


----------


「葉月、また今日も、来てくれたんだ♡」


 翌日の夜中。


 大喜びのお菊さんに、葉月さんが謝罪します。


「昨日は 連れが、みっともなく逃げ出す姿を見せてしまって…」


「初見の時には、仕方ないって!」


「汚名返上したいと言う事で、本人も来ています」


 挨拶を促された人物の背後には、別に数人の人影がありました。


「昨日の子だけじゃ…ないんだ。」


「研究会のメンバーです」


 葉月さんは、一通り、同行者を紹介します。


「他にも見たがってる会員がいるんですけど…明日、連れて来ていいですか?」


 お菊さんは、困った様な表情を浮かべました。


「ごめん。明日だけはちょっと、まずいんだ」


「え?!」


「自分の命日は…化けて出ちゃいけないって 決まりがあって……」


「…明日が、そうなんですか?」


「うん。ごめんね」


 申し訳無さそうに俯かれて、葉月さんが慌てます。


「そんな! どうしても 明日じゃないと駄目だって訳でもないですし、気にしないで下さい!!」


----------


 丑三つ時。


 昨日と同じように、お菊さんが 幽霊の姿で井戸から現れます。


「…1枚…2枚…3枚…」


 いつもの様に、数えられる お皿。


「…7枚…8枚…9枚…」


 これで終わりだと思った時、予想外の事がおきました。


「…10枚…11枚…12枚…」


 皿の枚数が9枚を超えたのです。


「…16枚…17枚…18枚」


 数え終わったのを見計らった葉月さんは、お菊さんに駆け寄りました。


「あ、あの…」


「何?」


「お菊さんって…10枚の皿が 1枚足らないからって責任を問われて、それで殺された恨みで、化けて出てきているんですよね??」


「うん、そうだけど」


「い、今…数えたお皿の数……18枚でしたけど………」


「今日の分と明日の分、合わせて2日分数えたからねぇ」


「え?」


「─ 明日、私がお休みで 数えてあげられないから、その埋め合わせ♡」

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物好き… 紀之介 @otnknsk

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