行きつけの喫茶店…

紀之介

誰かいるの?

 如月さんは、行きつけの喫茶店に行きました。


 いつものカウンター席ではなく、テーブル席に座ります。


 店主は その様子を、不思議そうに目で追いました。


 何かを思いついた彼は、2人分の水とおしぼりを用意して、如月さんのテーブルまで持って行きます。


 テーブルの上に、2組の水とおしぼりを置く店主に、如月さんは呟きました。


「─ マスターって、見える人だったんだね。」


「…は?」


「だって、その水とおしぼり、この子の分なんでしょ?」


 微笑んで前の席を示す如月さんの言葉を聞いて、店主は顔色を変えました。


「─ え、だ…誰かいるの?」


 怯えた声の店主に、如月さんは訝しげに尋ねます。


「…見えない?」


 店主は、首を必死で振りながら否定しました。


 そこで如月さんは、我慢が出来なくなった様に吹き出します。


「…ぷ」


「?」


「マ、マスタ~、ヘ・タ・レ・す・ぎ」


「は?」


「自分から仕掛けたイタズラで、自分が怯えていたら 世話ないから。」


 笑って言う如月さんに、店主は目で訴えました。


「何?」


「い…いないんだよね?本当は?」


「─ いないから。だ・い・じょ・う・ぶ。」


「そ、そう、だよ…ね」


 注文を聞いた店主は、軽く如月さんの前の席に視線を送った後、テーブルから離れます。


 店主の背中を目で追いながら彼女は、前の席に向かって小声で囁きました。


「─ ごめん、いない事にしちゃて。この埋め合わせは…後でするから。。。」

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行きつけの喫茶店… 紀之介 @otnknsk

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