第16話 二人の邂逅

 故郷の『竜』と挨拶を交わすための音とはまた違う笛が鳴った音が聞こえた。

 リュウモは、手にしていた木杓子を置いて、鍋の火を消し、短刀と〈龍赦笛〉を持って外へ出た。すでに、戦いが始まってしまっていた。

 何十人もの槍を持った戦士たちが、『竜』相手に大立ち回りを演じている。彼らの誰もが、未熟なリュウモから見ても一流の凄腕だとわかった。

 現に、『竜』を相手取っていても、怪我人も死傷者もまだ出ていない。しかも『竜』を殺さず、追い払うように戦っている。


「イツキ、クウロ! 数人連れて、村人を避難させろ! 他は応戦!」


 特に、陣頭で槍を振るい続けている男性は、もう意味がわからない強さだった。

 腕がぶれたかと思えば、『竜』が二、三匹、吹っ飛ばされて地面を転がっている。

 喉笛に噛みつかれたように見えたが、それは残像で、敵の頭を打って昏倒させた。


(竜の、骨の、槍?)


 外で初めて見た、『竜』の体を素材として作り出された武具。槍の驚異的な耐久度と切れ味は、同じく驚異的な技量を持つ男性の力を存分に引き出していた。まるで、『竜』が赤子の手を捻るように退けられていく。だが――。


(駄目だ……。狂った『竜』は、相手を、人を殺すまで絶対に止まらない)


 つい数日前に、経験した。『竜』の青く美しい目は、赤く、血みどろ色に変っている。

 狂騒に駆り立てられた、殺戮者の眼だ。リュウモが知っている『竜』は、どこか静けさと知性を感じさせる光がある。しかし、それはもうどこにもなかった。


(また、あの時と同じ、ことが……)


 駄目だ、それだけは絶対に駄目だ。もう、あんな光景、見たくない。

 リュウモは、首から下げられている〈龍赦笛〉を握り締める。


「え……これって――」


 握り締めて、びっくりした。〈龍赦笛〉が熱を持ってきていたのだ。じんわりと、最初は暖かかった熱が、次第に高熱に変わっていく。

 吹け――と、顔も知らない誰かから、言われた気がした。


「――――」


 リュウモは、迷った。ずっと族長から言われ続けてきたことが、再生されたからだ。


『お前は、選ばれし子なのだろう。だが、その笛を使う時は、リュウモよ。覚悟せねばならん。それは、我らが赦しを請うために創られた物。私利私欲で使っていいものでも、まして――人を助けることにも、本来は使ってはまずい代物なのだ』


 厳しい目をした老人が、強い口調で言った言葉を思い出す。リュウモの手が、笛から離れかけた。――迷いを塗り潰すように、村人と槍士の悲鳴が木霊する。


「見逃せない……! 黙ってられるかっ」


 赦しを得ても、誰もいなくなったら意味がない。人は、死ねば終わってしまうのだから。

 よくわからない誰かに導かれるまま、笛の熱に示された道に、リュウモは足を進める。

 笛に、口をつけた。




 ガジンが、『竜』を槍で打ちのめしていた時だった。笛の音が聞こえた。

 甲高い、警笛に近い調べだ。親鳥が子を叱るような調子で、一定の間隔で鳴り渡る。雷鳴には程遠く、だが雨声よりもはっきりとしている。

 弱くはないが、強くもなく、『竜』の尖り声には敵うべくもない――その音が、ぴたりと『竜』達の動きを止めた。


「な、何だァ? 止まりやがった……」


 『竜』達が恐れて首を垂れている。殺気は霧散し、皇国の帝に頭を下げる臣民のようだ。

 神ノ御遣いたる『竜』が、笛の音に従っている。


「りゅ、〈竜奴ノ業〉だ……」


 勇猛な槍士の誰かが、『竜』を操る業に怖じ気立ち、いつ操られた『竜』に襲われるかびくついていた。最後にひと際高い音が鳴ると、『竜』達は全てが振り返ることなく走り去って行く。

 ガジンは、遠くに佇む少年に目を向けた。自然と、足が少年へ向く。

 少年はなにも言わず、動きもしない。それは他の者たちも同じだ。

 草土を踏む音が晴れた空の下、よく聞こえた。ガジンは、彼の前で止まる。


「君は――〈竜守ノ民〉……だな?」


 ようやく、手の中に事件解決の鍵が入った。ガジンは、ほんのすこしだけ不安が払拭されて胸をなでおろす。けれども、伝説が目の前にあらわれたことに、驚きと興奮――わずかな恐怖を抱かずにはいられなかった。



 ――君は――〈竜守ノ民〉……だな?

 目の前の男に言われて、リュウモは自分が誰なのか、丹念に思い出させられた気がした。心の中でぼやけていた『使命』への輪郭が鮮明になっていく。

 槍を持つ男が、なんの目的をもって接触してきたのかはわからない。ただ、はっきりとしているのは、もうここでの生活に別れを告げなければいけないことだった。短く、心地よいだけではなかったが、それでも静かで故郷を思い起こさせるところだったのだ。

 リュウモは名残惜しく思いながら、男の眼を見て言った。


「はい。――おれは〈竜守ノ民〉です」


 それだけを言うと、男は黙った。じっと、リュウモの両目を見つめると、それからやっと口を開いた。


「私の名は、ガジン。タルカ皇国、〈八竜槍〉に名を連ねる者のひとり。少年、名は?」

「リュウモ、です」


 知らない言葉が出て来て、リュウモは混乱しかけたが、疑問は隅に追いやって名乗り返した。ガジンと名乗った男は、白い槍を手にしている。それがなんの素材で出来ているのか。〈竜ノ墓〉で元となった物をよく目にしていたリュウモにとって、察するのは簡単だった。


「――竜の、骨の槍……」


 ぽつっと言葉をこぼすと、ガジンは濃い眉を動かして驚いた。だが、すぐに得心がいったような顔になった。


「そうか。君たちは〈竜域〉の外については疎いのだな」


 図星をつかれて、リュウモは黙った。なにせ、数日前までは自らが『外』に出るなど夢にも思わなかったくらいである。外界の常識など、多少教わった程度でしかない。


(偉い人、なのかな……)


 ぼんやりと、知恵熱でも出したかのようにかすみがかかっている頭で、リュウモはそう考えた。体調が〈龍赦笛〉を吹いてからおかしい。体が異様にだるい。症状は、高熱を出した時に生じる気怠さに似ている。だが、倒れるわけにもいかなかった。


「君を、探していた。〈竜守ノ民〉の血を引く、君を」

「どうして、おれを、おれたちを探していたんですか?」

「説明すれば、長くなる。私たちと供に、皇都まで来てもらいたい」

「皇、都って……」

「帝がおられる、タルカ皇国の最も栄えている都だ」


 一体、どんな用があってこの人は自分に用があるのか。事態がよく飲み込めない。

 リュウモは、穴だらけの絵画を見ているような気がした。


「その、おれは、みんなのために、北へ、行かないと、いけなくて」

「北……〈竜峰〉へ行く気か?」


 目的地の名を言われて、肩がびくっとあがった。どうして、この人は〈竜峰〉について知っているのだろう。リュウモは、誰ともわからない人物から、すこしだけ後ずさった。

 日が暮れ、夕焼けが濃い影を落とし、二人を隔てた。噛み合わない歯車の、不快な音が、ギ、ギ、ギ、と聞こえるようだった。


「聞かせて欲しい。どうして、〈竜峰〉へ行く? そこへ行けば、『竜』は鎮まるのか?」


 ガジンは真剣そのもので、懸命になって自分を探し回っていたの。リュウモは、彼の態度から、彼の必死さと、誠実さがひしひしと伝わってくるようだった。

 悪い人ではない。身を屈めて、目線を落とし、ぶっきらぼうながらも、声には優しさがあった。鍛冶のおじさんがこういう人だったな、とリュウモは思い出した。

 首を横に振る。郷愁に囚われて判断を誤らないよう、自分に警鐘を鳴らした。


「貴方たちには、関係のないことです」


 これは自分に課せられた『使命』だ。身内でもない人間に、易々と頼っていいものではない。もし、すべてを他人に委ねれば、その時点で天は人を赦さなくなるだろう。

 そうなってしまえば、待っているのは地獄である。リュウモは、簡単に彼らに頼るわけにはいかないのだ。


「いや、おおアリだ」


 拒絶を否定する、強い口調だった。ぶっきらぼうな声に、苦々しい悲しみがあった。


「とある場所で、『竜』が暴れ回り、その場にいた全員が虐殺された。中には……私の親友がいた。私は皇国の〈八竜槍〉として、なにより亡くなった友のためにも、この騒動を終わらせなければならない、義務があり、『使命』でもある」


 驚くほど、恐ろしいぐらい強い意志が、ガジンの裡で燃え滾っていた。その炎に呑まれかけ、喉がごくりと鳴った。だが、リュウモとて引くわけにはいかない。精一杯の反抗に、ガジンの目を見据えて、言った。


「貴方に義務と使命があるなら、おれもです――お願いだから、行かせてください」


 ガジンは、一瞬、驚いたように眉をあげたあと、首を横に振った。


「君ひとりでは、とてもではないが北の〈竜域〉まで辿り着けるとは思えん。たとえ着けたとしても、かなりの時間がかかるだろう。もう、悠長に待っていられんのだ」


 ガジンのもっともな言い分に、リュウモは黙るしかなかった。『竜』による被害が出ているのなら、手早く片をつけなければならないのは必定。時が経てば経つほど、故郷の光景がどこかでまた繰り返されるかもしれない。

 ――この人を説得するには、ちゃんと根拠がないと、駄目だ。〈竜峰〉に辿り着けるっていう、根拠、確信がないと……。

 それは、今のリュウモに最も無い代物だった。唯一、確かなことは方角だけで、北の〈竜域〉のどこに〈竜峰〉があるかもわからない。そもそも辿り着けるかもわからない。わからない尽くしの状態なのだ。これでは、退いてくれと頼んでも、聞いてくれるわけがない。

 なにも言い返せず、唇を噛むリュウモに、ガジンは辺りを見回して、怪訝な顔をする。


「……本当に、ひとりなのだな。未だに信じられん。君の両親は? 他の〈竜守ノ民〉の方々はどうした? まさか、君のような子供を、たったひとりで送り出したのか?」

「本当は、おれを護衛する人が、八人いたんです……でも、『竜』に襲われて」


 喉が引っ付いたように、動かなくなった。

 自分以外、全員死んだのだ。そう言ってしまえば、現実も確実にそうなってしまいそうで、リュウモは怖かった。でも、リュウモには予感があった。だから、言うしかなかった。


「みんな、死にました……おれ、が、最後の〈竜守ノ民〉です」


 目に見えない暖かい繋がり。いつも、背を押してくれていた温もりが、消えた。縁が途絶えたのだと、リュウモは感じ取ったのだ。両親が死んだ時と、同じように。


「死んだ? そうか『竜』に…………すまぬ、人目につかぬところで話したい。決して、悪い様にはしない。君のことを、聞かせてくれないか」


 騒ぎが収まったからか、人が家から顔をのぞかせて、こちらを見ていた。

 村の周りには、槍士たちが包囲網をしいている。リュウモは、うなずくしかなかった。


「ありがとう。――クウロ! 被害は!」


 鼓膜だけでなく、骨の芯まで揺らされるかのような、どこまでも通る大声が響いた。

 すこし遠くに控えていた、禿頭の大男が走って来た。体躯に似合わず、機敏な動きだった。


「死傷者はなし、負傷者が三人。いずれも軽傷です、大将」


 クウロは、報告も慣れたものだと、すらすらと言葉が口から流れ出ていた。

 素早い対応の応酬に、リュウモは呆気にとられながら聞いていた。故郷のゆっくりとした話し方とは違って、次から次へと豪雨がごとく言葉が交わされる。

 まったく同じ言葉を話しているのに、完全に聞き取れない。彼らが異質に映った。


(いや、違う。おれが異質なんだ)


 本当に今更になって、実感できた。ここにいる人たちは『竜』について知識がない。自分に、彼らの知識がないように。


「リュウモ、大丈夫か?!」


 思考に沈んでいた意識が、ジョウハの声ではっと我に返らされた。彼は、心配でたまらないと必死になって走って来てくれていた。

 ジョウハはガジンに一礼すると、リュウモの前に屈んだ。


「怪我はないか」

「大丈夫です。ご心配をおかけしました」


 ジョウハは、二、三度、リュウモの体を確かめた。怪我が無いとわかると、ほうっと一息ついた。心配で青ざめていた顔にも、色が戻ってきている。


「ジョウハさん、ごめんさない。家をすこしの間、借りられませんか。この人と、話をしたいんです」

「そ、それは、かまわないが……」


 ジョウハは、なにかを言おうとしたが、唇を何度か動かすだけで、声にはならなかった。


「ガジンさん、こっちです。それと、怪我した人を連れて来てもらえませんか」



 幸い、後遺症が残るような怪我人はひとりもいなかった。全員が精々かすり傷ぐらいのもので、腕や脛あたりを切られた人が大半だった。現在治療を施している、ゼツという青年が一番負傷箇所が多かったが、これは『竜』に押し倒され、地面に押しつけられたせいだった。

 相手は初見で、それも彼らが畏怖し、恐れる初見の『竜』相手だ。それを知識も無しにたったこれだけの被害しか出ていない。リュウモを驚かせるには、十分な事実だった。


(すごい。健、太い血管、傷つけられたら危ない個所の近くに、傷がひとつも無い)


 薬を傷口に塗り、包帯を巻きながら、思わず口に出してしまいそうだった。

 ――おれに褒められても、全然、嬉しくないだろうけど。

 治療を受けている青年、ゼツは、今にも逃げ出したそうであった。証拠に腰が引けている。

 檻の中にいる猛獣に、素手で肉をやっていては、いつ腕を食い千切られるかわかったものではない。早く終わってくれ。切実な感情が、ゼツの表情と態度から強く感じられた。

 彼の望み通り、手早く処置を終わらせた。「もう大丈夫です」――リュウモが言うと、頭を下げて礼を言い、そそくさと家の外へ出て行った。

 拍手してしまいそうになるほど、見事な身のこなしだった。


「すまん。部下は君を、恐れている。だが、決して悪気があるわけではない。許してやってほしい」

「いえ、別に。外の人たちが伝えている伝承の通りなら、おれたちは大罪人でしょうから」


 苦笑したガジンを、突き放すようにリュウモは言い放った。


「なぜ、おれたちを探していたんですか?」


 確信に迫るように端的に問う。


「順を追って話そう。――数日前、皇国北方の砦で虐殺が起きた」


 ガジンの手に力が入ったのを、リュウモは見逃さなかった。


「砦で生き残った者は、ひとりだけだった。君と同じ色の瞳をした男だ」

(おれと、同じ……?)


 〈竜域〉の外側には、〈竜守ノ民〉はいないはずだ。


「どうして、彼だけが生き残ったのか。わからなかったが、これを落とした」


 ガジンは懐から白い警笛のような小さな筒を、床に置いた。

 これがなんなのか。リュウモにはすぐに理解できたが、具体的なことは避けた。


「おれたちの業で作られた物だと思います」


 ――でも、これじゃあ……。

 大型の『竜』には効果は薄いはずだ。この形状、使われている『竜』の骨は、せいぜい中型の『竜』の物。小型程度ならば追い返せるだけの代物だ。


「これを、どうして男が持っていたか、わかるかね?」

「そんなの、わかりません。外におれと同じ人がいたなんて、聞いたこともないです。それに、本人に聞けばいいんじゃ」


 ガジンは首を振った。


「精神が死んでしまっていた。治療を受けているが、治る見込みは低いそうだ。砦の同僚がすべて殺され、焼かれ、悲鳴を上げて死んでいくのに、心が耐え切れなかったらしい」


 精神が、心が、壊れた……。惨劇、炎、悲鳴――。

 どくっと、心臓が蹴り上げられたかのように、ひと際大きく跳ねる。

 それは、自分と同じ――。


「お、おいおい、大丈夫か、坊主。顔が真っ青だぜェ」

「は、い……」


 なんとか返事をし、心を落ち着かせるために、リュウモは息を吸った。


「すまない、言葉がすぎた」


 ガジンは軽く頭を下げた。


「いえ、大丈夫、です」

「――わかった、続けよう。虐殺から『竜』による人への被害が多発している。中には〈竜域〉から相当離れた場所で襲われた一団もあった。国中で、『竜』が暴れているのだ。我々は、『竜』が猛り、人を襲っている原因を調べ、解決するために動いている。そのために、君たち〈竜守ノ民〉を探していた」

「協力は、できません」


 結論が出される前に、リュウモは断った。


「貴方と供に皇都へ行ってしまうと、なんだかよくわからない、とても大きな、大きな、うねりの中に、入って行ってしまう気が、するんです」


 自分を――〈竜守ノ民〉を血眼になって探していた、皇国有数の槍士。〈青眼〉を恐れず、過去について知っている者たち。『竜』による国に住む人々への被害。ここまで知られれば、リュウモとて、事態を飲み込むことができた。

 〈竜守ノ民〉のあずかり知らないどこかで、想像もつかない巨大な出来事が起き、それの渦中にいるのは、生き残りである自分なのだと。


「それに、おれたちの業は、外の貴方たちには決して教えてはならないもの。協力すれば、業が広まってしまうかもしれない。それだけは、絶対にしてはいけない」


 リュウモ個人の問題ではない。これは〈竜守ノ民〉の一族すべてにかかわる。

 外には間違っても業を流出させてはならない。聞かれても答えてはならない。

 生まれてから耳にたこができるぐらい、何度も何度も言い聞かされてきた。

 村にとっての絶対。破ろうとする者がどうなるか。恐ろしい実例を出されて説明されている。肉にも骨にも染み渡るほど、逆らってはいけない掟なのだ。

 破るつもりなど、更々なかった。


「…………協力してもらわねばならん。絶対に」

「協力はできません、絶対に」


 間が、軋んだ。


「よォしよしよし、わかったわかった!」


 クウロが、急に大声を出した。二人の視線が彼に向く。


「坊主に譲れないもんがあるってェのも理解した。その歳で大した覚悟だ、立派だぜ」


 たんたんっと、クウロは手を叩いた。


「だがな、こちらもそれじゃあ、はいそーですかとはいかねェ。大将がさっき言ったが、人が死んでる。それも親友、親しい奴がだ。そいつは坊主も、同じなんじゃあないのか」


 リュウモは、唇を噛み締め、下を向いた。


「オレたちは、別に坊主が言う業を教えて欲しいわけじゃねェ。広める気もないし、広めちゃあいかんもんだ、でしょう大将」


 ガジンはうなずく。


「だから、教えてくれねェならそれでいい。坊主が〈竜峰〉とやらに行けば事態が収まるなら、オレたちは余計な口出しはしない」

「…………」

「もっと簡単に言うぜ。なにか手伝えることはないか? オレらが手を貸すことで坊主が〈竜峰〉に早く辿り着いてくれりゃ、万々歳よ」

「――――」

「だから……おい、坊主? 大丈夫か、おい?」


 反応が無くなったリュウモを訝しく思ったクウロが何度も声をかけた。

 リュウモは俯いたまま、倒れた。


「坊主、おい?!」

「少年!?」


 二人の声は次第に遠くなり、リュウモの意識はそこでぷっつりと途切れた。

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