第30話
帝都の城、門番は二体の鉄巨人だった。
アイザに向かって振り下ろされる鉄巨人の巨大な剣を、おれが叩き斬った。
「神さま、右のやつを頼む」
「わかったでござる」
おれが左の鉄巨人を一撃で倒した後、振り向くと、神さまは鉄巨人と何合も斬りあっていた。
「神さま、任せろ」
おれが右の鉄巨人も一撃で倒す。
もはや、アイザとロザミアは戦力にならない。
「敵兵だ。見ろ、ロザミア姫が殴りこんできたぞ」
敵兵が叫びだした。
やれやれ、雑兵など、相手にしている場合ではない。
「大世界旋風」
神さまが剣を旋回させて、雑兵を無双していく。アイザ、ロザミアもがんばって戦っている。
「おやおや、ロザミア姫の軍が勢いづいていると聞いたが、こんな凄腕がついていたか」
スニーク兵の中から、どっしりとした鎧に身をつつんだ男が堂々と真ん中を歩いてやってきた。
「誰だ、あれは?」
「あれは、名将シュナイク将軍だ」
アイザの声がかすれた。
「悪いが、ここは通すわけにはいかん」
シュナイク将軍が剣を抜きながら、大きく両手を広げた。
「ここは、わたしに任せて、ロザミア様たちは早く先へ」
アイザが名のり出た。
「わかった。アイザ、任せたぞ」
ロザミアは走り出す。シュナイク将軍のロザミアに振り下ろした剣をアイザが受け止めた。
「あなたの相手はわたしだ」
アイザがいう。
これは、おれが見るに、アイザの分が悪い。
「ロザミア、先に行ってろ。おれはアイザを見届けてから行く。おれが着くまで、無理はするな。手強い敵は神さまに任せろ」
「わかった、まこと」
ロザミアは城の奥へ走っていった。リーゼと神さまもついていく。
そういえば、この帝都のどこかに、魔王もいるんだっけ。何かあったら、生き返らせればいいけど、失敗する可能性があるから、あまりみんなに死んでもらいたくはないなあ。
「まこと、ここはわたしに任せて、おまえも行け」
「いや、そういうわけにはいかない」
「何者だ、貴様」
シュナイク将軍から声がかかった。
「立会人だよ」
おれは答えた。
アイザ対シュナイク将軍。
「ならば、相手をしよう、小娘」
シュナイク将軍が大きく剣を振った。
アイザが力に負けて、押しつぶされそうに剣を受ける。
この旅で、アイザも剣の腕をあげてきた。ロザミア女帝の近衛兵長として、その剣の腕は建前上、皇帝一でなければならない。
すなわち、アイザはシュナイク将軍に勝てなければならない。
「えいっ、やあっ、とおっ」
アイザがフェイントをまじえて、シュナイク将軍に斬りこむ。シュナイク将軍はフェイントに引っかかったようだ。だが、ぎりぎりで受けられる。
おれは二人の試合の邪魔になる敵兵を全部、倒しながら、じっくりと二人の戦いを見ていた。
「ただの女剣士ではないようだな」
「その通りだ。わたしはロザミア姫の懐刀、アイザだ」
「だが、その腕ではまだ、このシュナイクには適わんな」
「知れたこと。あなたのような名将と戦う機会が来ようとは思っていなかった」
「わたしを倒せなければ、ロザミア姫の戴冠はないぞ」
「なぜ、スニークについたシュナイク将軍。返答しだいでは許さない」
シュナイク将軍が顔をしかめた。
「魔族の女に惚れた。のだ」
アイザの剣が一瞬、止まった。そして、ちらっと、おれを見た気がした。
「剣士が色恋沙汰で道を違えるなど、愚かだとは思わないのか」
「本当に。心の底から、魔族の女に惚れたのだ。あれはいい女だ。我が剣を捧げるに足る」
「なるほど。面白い」
アイザが剣を振りながら、語る。
「この旅で、わたしも恋をしたぞ、シュナイク将軍」
「わははははっ、そうか、もう小娘ではなかったか」
「ふっ、その男はあなたより強い」
「見てみたいな、その男とやらを」
「あなたより数段強い」
アイザが身を捨てて、相討ち狙いで剣を突いた。
シュナイク将軍は、おそらく、わざと、剣を止めた。おれにはそう見えた。心が、アイザを認めたのだ。
すさっ、とアイザの剣がシュナイク将軍の胸に刺さる。
「ぐほっ、見事だ、女剣士よ」
シュナイク将軍は倒れた。
「敵将シュナイク将軍を討ち取ったり」
アイザが叫んだ。
うわあああ、とスニーク兵が逃げ始めた。
「わたしの恋した女魔族は、わたしに何か嘘をついているのだ」
「遺言を聞くぞ、シュナイク将軍」
「偽りの愛でも、愛していたと、我が妻へ」
「うむ」
アイザはシュナイク将軍から剣を抜いた。シュナイク将軍は倒れ伏した。
リーゼが戻ってきていった。
「ロザミア様は謁見の間へ突撃しました。神さまは地下の祭壇です。謁見の間には、スニーク皇帝が、地下の祭壇には魔王がいます」
「アイザはロザミアのところへ行ってくれ。おれは神さまを追う」
おれが叫ぶと、アイザとリーゼは走り出した。
さあ、いよいよ、魔王退治だ。
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