第23話

 それからも、神さまの連日の剣術の訓練はつづいた。

「振りが遅い。気を抜くな」

 アイザの叱責が飛ぶ。

「はあ、はあ、はあ」

 神さまはへとへとに疲れるまで剣を振っている。

「がんばるなあ、神さまは」

 おれがリーゼにいうと、

「そうですね。神さまの根性は、めかけの計算外なのです」

「前にもいってたけど、神さまの成長がリーゼの危機ってどういうこと?」

 リーゼは悲しそうな声で答えた。

「神さまは、力を奪っためかけを恨んでいるかもしれません。もし、神さまがめかけを恨んでいるのなら、めかけはあの根性でそのうち殺されるのです」

「そっかあ。リーゼも複雑だねえ」

「めかけの計算では、めかけの寿命が終わるまで、神さまが強くなることなどないはずなのです」

「うーん、おれにはよくわからないなあ。リーゼが神さまに殺されると、おれも力を失うのかな」

 リーゼは軽く笑って答えた。

「それは大丈夫です。めかけに何かあっても、救世主さまは救世主さまのままです」

 それは、安心だな。

 リーゼが死んでも、おれの力で生き返らせられるだろう。おそらく。

「戦闘だ! 怪物が襲ってきたぞ」

 ロザミアが号令を発した。

 慌てて、アイザと神さまは剣術の訓練をやめて、怪物に備える。おれとリーゼも、戦闘態勢に入る。

 襲ってきた怪物は、スライムだった。八匹いる。ゼリー状のねばねばした巨大な怪物だ。おれたちを包みこんで、消化しようとする。

 おれは、一撃でスライムを一匹倒した。世界が変わる。おれの攻撃は、このゼリー状の怪物にも効く。

「斬りにくいな、この敵」

 アイザが苦戦している。

 ふとみると、神さまがスライムをやっつけていた。

「おおおお!」

 おれは喜んだ。

「何だ? 何があった?」

 スライムを倒したアイザが聞いてくる。

「神さまが倒した怪物二匹目」

 アイザも破顔した。

「本当か。めでたいな、それは」

 苦戦するロザミア、リーゼの加勢に入って、スライムを次々と倒していく。

 神さまは二匹目のスライムも倒した。

「やるじゃないか、神さま」

「もう立派な戦力だな」

 ロザミアがいった。

 しばらくすると、森の奥からキングスライムが現れた。

「何? あれ?」

 おれが聞くと、

「やつらの親玉じゃ。気をつけろ。何倍も強いぞ」

 とロザミアがいう。

「だったら、神さま、戦ってみるか?」

 おれが提案すると、

「我輩、挑まれた勝負は断らないでござる」

 と受けてたった。

「おい、神さまじゃ、いくらなんでも、、無理だろ」

 アイザがいうが、リーゼは怯えていた。

「神さまは神さまなのです。あまく見ない方がいいのです」

「そうだ、神さまは神さまだぞ」

 おれがいった。

「なんじゃ? いったい、どういう意味じゃ?」

 ロザミアが聞いてくるので、おれは正直に答えた。

「神さまは本当にこの世界を造った神さまなんだよ。今は魔法の力で力を奪われているだけなんだ」

「ふっ」

 ロザミアは一笑にふした。

「わらわは、神を騙る聖人君子には、宮殿で山ほど会っておるわ。その中に一人でも本物の神がおったなどとは思っておらん」

 ロザミアには信じてもらえなかった。

「おおお、神さま、すごいぞ」

 アイザが喜んでいる。

 神さまが一人でキングスライムを倒したのだった。

「我輩の勝利でござる」

 神さまが高々と剣を掲げた。

「おめでとう、神さま」

「めかけも祝福します、神さま」

「うむ、久しぶりに勝利の気分を味わったな。苦難を超えての勝利も、また、世の中にあってしかるべき面白き娯楽じゃよ」

 神さまは何やら深淵なことをふまえながら答えたようだった。

「ふふふふっ、これでわわらの直属軍も、より一層、磨きがかかったことになるのう」

 ロザミアが喜んでいた。

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