第8話
小城を占領し、バッシュ帝国が再び領土を手にした。その城の住人がロザミアに忠誠を誓う謁見をしている間に、占領後、二日目がすぎた。
ロザミアは少数精鋭を主張し、今まで通り、五人で帝都に向け旅をすることになった。
旅の途中、巨大蜂に襲われ、おれとアイザとロザミアで退治した。
「神さまが倒した怪物の数はいまだにゼロと」
アイザが聞こえるように嫌味をいう。なんだか、神さまが可哀相になってくる。神さまだって、必死に戦っているのだ。
「ぢぐじょう、ぢぐじょう、今に見ておれ」
神さまが悔しくて泣き出した。どうしたものか。
だが、次の日、意外なことを神さまがいい出した。
「この中でいちばん剣術が巧いのは誰なのだ」
「うん? いちばん強いのはアイザだが」
ロザミアが答えると、
「ならば、アイザ殿。この我輩に、剣術の稽古をつけてくれないか」
と神さまがいい出した。ああ、あの人、神さまなのに。
「面白い。いいだろう。神さまとやら、このアイザが剣の極意を教えてやろう」
こうして、その日から、神さまの剣術の修行が始まった。
「えいっ、やあ、とお」
神さまが頑張って木剣を振っている。
それから、三日ほど、たった時だった。神さまは毎日、修行をしている。
旅の途中に、怪物がまた襲ってきた。それが、今までと雰囲気がちがった。怪物の体から瘴気が出ている。おそらく、魔族だ。
「マギトラがやられたというから見に来たが、魔族に逆らう愚か者たちは貴様らか」
身長三メートルほどの太った魔族が現れた。
その姿を見て、ロザミアとアイザが青ざめた。
「あれは、魔王だ」
ロザミアが震えている。
アイザも震える手で、剣をがたがた抜きながら、ロザミアの前に出た。
「どうしましょう。ロザミア様。逃げるしかありません」
あまりにも二人が怖がっているんで、おれがいってやった。
「安心しろよ。あいつが魔王だろうと、おれがやっつけてやるよ」
リーゼも同意する。
「そうです。救世主さまなら、魔王にも負けるわけありません」
それを聞いて、魔王がおれをギロと見た。
「ふん。雑魚に用はないわ。この魔王に勝てると思っているのか」
そこへ、ロザミアが勇気をふりしぼって、魔王に話しかけた。
「魔王、スニーク帝国には、貴様が手を貸しているのであろう」
「ふん。人間どもの事情など、この魔王には関係のないことだ。好きなようにさせてもらっている」
そして、おれたち五人を眺めまわした魔王が驚愕して叫んだ。
「おい、まさか、貴様、神か!」
神さまを見て驚いている。
「いかにも、我輩は神さまであるが」
「この魔王と戦うつもりか」
「我輩が逃げるとでも思っているのか。挑まれた勝負は拒まない」
魔王はがはははっと笑った。
「面白い。貴様らの中に神がいるなら、話は別だ。神よ、全力で相手してやろう。スニーク帝国の帝都で待っているぞ。がははははっ」
魔王はそういうと、立ち去っていった。
残されたおれたちはしばらく呆然としていた。周りから瘴気が消えるまで時間がかかった。
「神さま、魔王と戦っても勝てるわけがないです。神さま、死んじゃいますよ」
リーゼがいった。
「我輩は魔王を嫌いではない。だが、勝負を挑まれて、逃げる理由もない」
神さまは堂々と答えた。
「おい、リーゼ、神さまが死んだらどうなるんだ?」
おれが聞くと、
「めかけが思うに、救世主さまが生きていれば、神さまが死んでも、別にどうにもならないと思います」
それを聞いて、おれは安心したが、複雑な気分だった。
神さまが魔王と戦えば、まずまちがいなく、神さまは死ぬだろう。そうしたら、おれがこの世界の神さまをやらなければならないのだろうか。
リーゼといろいろ相談したが、
「救世主さまの好きなようにすればいいです。悪いのは、すべてのめかけなのです。悪いことが起きたら、すべての責任はめかけがとります」
といっていた。
それでいいのだろうか。責任をとるって、どうやってとるのだろうか。おれは深く悩んでしまった。
神さまは毎日の剣の修行は怠らなかった。
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