第6話
帝都に向けて旅をしているおれたち四人の前に、ボロ服を着た男が現れた。
その男は、なんと、おれ、そっくりな顔をしていた。
「なんだあ? なんで、あなた、おれと同じ顔をしているんだ?」
おれが驚いていると、そのボロ服の男は、怒りを顔にあらわにした。
「何が同じ顔をしているだ。ある時、突然、異世界に飛ばされたと思ったら、若造のように扱われ、学校などというところに通わされ、試験ではバカのような低成績しかとれず、ひ弱な体にむちうち走りまわることになり、秘密結社を探し出して、なんとかこの世界への扉を開いて帰ってきたというのに。体は、元のぼんくら下等生物のままだ」
何かわけのわからないことを話しているが、この男の愚痴を聞いていると、どうやら、この男、おれの世界に飛ばされ、おれになっていたらしい。おれとして、学校生活を送り、信じられないことに、地球から、地球にあった秘密結社とやらを探し出して、異世界であるこの世界に戻ってきたらしい。
考えられない努力だ。すごいとしかいいようがない。
「おい、我輩と入れ替わった貴様、名前はなんというのだ!」
ボロ服の男は、怒鳴っておれに剣を向けた。
おれと入れ替わったというのは、どういうことだろう。わけがわからない。
「おれは、まことだけど」
「まことか。なるほど、我輩と入れ替わるだけあって、良い名をしておる。だが、貴様の愚行は許しても許しきれん。我輩と勝負しろ」
勝負って、また戦うのか。殺しちゃ、まずいだろうなあ。仕方ない。手を抜くか。
真剣を抜いて襲いかかって来たボロ服の男に、おれは鞘から剣を抜かずに、鞘当てで戦うことにした。
男の動きは当然、遅く、あまりにも貧弱であり、それはかつて、元の世界にいたおれのようだった。この世界のおれに適うはずもなく、振る真剣は何度も空を斬り、おれの渾身の一撃で腹に鞘当てされて、五メートルぐらいふっとばされた。
「痛い。痛いぞ。ちくしょう。なんてことだ。我輩は負けたのか。なんということだ。我輩はのっとられたのか」
なんだか、よくわからない。
ロザミアとアイザも、興味もなさそうに眺めている。
いったい、なんだというのだろう。困ってリーゼを見ると、つま先で立っていた。
「これは想定外なのです。ひょっとして、神さまがやってきたのでしょうか」
神さまだと?
この貧弱で、頭の悪そうな、おれの元いた世界でおれの代わりに学生をやっていた男が神さまだと?
「これはめかけの責任です。悪いのはめかけなのです。めかけが神さまと救世主さまを交換したのです」
リーゼがぺこぺこと謝っている。
「そうだ! 我輩は神さまだぞ!」
おれそっくりの男は怒った。
「でもさあ、神さま、今は何の力もないんだろ」
おれがたずねると、
「そうだ! 何の力もないわ!」
と怒鳴っていた。
「おれより弱いし」
「そうだ! 貴様には勝てそうにもないわ!」
おれは困ってしまった。
「おい、まこと、この神さまとやらは何なのだ」
ロザミアが聞いてきた。そりゃ、不思議にも思うだろう。おれにだって、わけがわからない。
「救世主さま、めかけの頭では解決できないのです。どうしましょう」
リーゼも悩んでいるようだ。
おれはひらめいた。
「こうしよう。神さまには、おれたちの仲間になってもらおう。神さまも、ロザミアに仕えて、バッシュ帝国を奪い返すんだ」
おれの大名言だった。この時のおれは天才だったかもしれない。
「まこと、この神さまという男、信用できるのか」
ロザミアが聞いてきた。
「信用できるんじゃないの。何せ、神さまだし。なあ、いいだろ、神さま。おれたちの仲間になれよ」
この時のおれは弁舌さわやかだった。素晴らしい提案の応酬である。
「神さま、めかけからもお願いです。神さまはめかけたちの仲間になってください」
リーゼの説得が効いたようだった。
神さまはしばらく考え込んだ後、答えを出した。
「よかろう。我輩は、貴様たちの仲間になろう」
神さまの大英断だった。
「仲間になるなら、ロザミア様に忠誠を誓え」
アイザがいった。
「ロザミアとは誰かな」
「わらわじゃ」
ロザミアが答えた。
「うむ。我輩、この世界の神さまは、ロザミアに忠誠を誓おう」
こうして、神さまが仲間になった。
「おかしな男が仲間になったものだな。まるで使えんのじゃないか」
アイザが愚痴っていた。
その日、ドラゴンベビーの群れが襲ってきた。
「リーゼを囲め。気をつけろ。炎を吐いてくるぞ」
ロザミアが指示を出した。
おれとアイザは素早く動く。神さまも命令どおりにリーゼを囲んだ。
四体のドラゴンベビーに襲われたのだが、おれ、アイザ、ロザミアは、目の前の一匹を倒し、神さまだけ、ドラゴンベビーに負けていた。
「熱い。熱い。痛いよう。誰か、助けてくれえ」
神さまが泣き叫んでいる。
「神さま、がんばってください。めかけが代わりに頑張ります」
「待て。リーゼは下がってろ。おれが仕留める」
口から吐いた炎で、神さまを燃やしていたドラゴンベビーを、おれが剣を振って、一撃で倒した。
「大丈夫か、リーゼ」
「ありがとうなのです、救世主さま。めかけは大丈夫なのです。それより、神さまの傷の手当てをしてあげてください」
おれは必死になって、神さまの火傷を水で冷やした。
「まったく、使えないやつが仲間になったな」
アイザが愚痴をこぼしていた。
「くそう、悔しい。我輩は神さまなのに」
いや、まったくもって、神さまには申し訳ない。おれの心の底から、神さまに謝る所存である。
「めかけも手伝うのです。すべてはめかけが悪いのです」
「気にするな、リーゼ。おれがなんとかする」
おれは頑張って、神さまの手当てをした。
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