第10話
二人になったジェスタとミタノアは、輸送船で移動しようとしたが、暴走する機械群によって輸送船への乗船が拒否された。それで、同じ搭乗口に止めてあった人類の手製の船に乗って、最寄りの展望台まで行くことにした。
展望台につくと、当初の計画通り、ジェスタの天体反動銃を無尽蔵に際限なく使ってしまうことにした。その過程で、多くの人類が生存の危機に陥ることは、特に気にしないことにした。ジェスタは天の川銀河系の星の自転と公転をすべて止めてしまうことにしたのだ。
星の自転が止まった。昼と夜をくりかえしていた惑星たちには、昼しかなくなり、あるいは夜しかなくなった。一日後には、昼の半球は暑くなりすぎて燃えあがり、熱中症で倒れるものが続出するだろう。夜の半球で暮らすものは、寒さで凍えだすものが続出するだろう。
星の公転が止まった。夏と冬をくりかえしていた惑星たちには、夏しかなくなり、あるいは夜しかなくなった。一年後には、夏しかなくなった惑星は永遠につづく暑さに絶望し、冬しかなくなった惑星は永遠につづく寒さに絶望するだろう。
星たちが時刻と季節を失ってしまった。
うずまき状を描いていた天の川銀河はうずまきを巻かなくなり、散在状に広がるように配置が変わり始めていた。
太陽の自転が止まっていた。地球の自転が止まっていた。月の自転が止まっていた。太陽の公転が止まっていた。地球の公転が止まっていた。月の公転が止まっていた。
「ははははっ、見ろ。このエネルギーの量を。これだけあれば暴走する機械群とだって戦える。その気になれば、観測されたすべての星の回転を止めることができるんだ。そのエネルギーたるや、想像することすらできないくらい巨大なものだ。おれはしばらく、できるだけ多くの星の回転を止める作業に入る。暴走する機械群におれは勝ってやる」
ジェスタがいった。
「そう、わたしは少し用事ができたから、しばらくこの場を離れることにする。二日以内には戻ってくる。それまでよろしくね」
ミタノアはそういい残して、どこかへ行ってしまった。
おいおい、本当かよ、とジェスタは思った。気がついたら、ひとりぼっちだ。急に寂しくなってしまった。少し、自信もなくなる。ミタノアは本当に二日たったら、帰ってくるのだろうか。人類を滅ぼしかねないエネルギーを溜めこみながら、ジェスタはひとり呆然としてしまった。
こんなことなら、サントロのやつをスパイだとわかっていても、置いといてやればよかった。そうすれば、もう少し、気もまぎれただろう。ジナはなんで死んじゃったんだろう。ジナを殺したサントロのやつが憎い。今回の事態は、八人に平等に降りかかった不幸なのだ。みんなで仲良くやれればよかった。八人のなかに意見の相違が生まれたことは非常に不幸なことだ。みんな、おれについてこればよかったのに。そうすれば、八人みんなを守ってやれた。なぜ、四対四なんかに別れてしまったのだろう。残念でならない。意見の相違が生まれ、殺し合いに発展した。しかたのないことだったのだろうか。
しかし、今さら踏みとどまることはできない。何が起ころうと、天体反動銃の機能を最大値に設定し、来るべき脅威に備えなければならない。ひょっとしたら、星の回転が止まったことに怒った人類が軍隊を組織して襲ってくるかもしれない。暴走する機械群は何を考えているのかわからない。一縷の隙も見せるわけにはいかないのだ。
ジェスタはそのまま、展望台で眠った。暴走する機械群の中にいるのだ。居心地はよかった。
次の日、目が覚めてみると、星の回転が止まったことによって寒さによる死者が、一日目でもう出ているのだと報道されていた。一ヶ月もたてば、犠牲者は千倍にふくれあがる予定らしかった。
ジェスタには寂しさしかなかった。世界を滅ぼす力を得ていながら、たった一人でいることが寂しかった。今の自分にできることといったら、ひたすら、回転を止める星の数を増やすことだけだった。一日中、その作業に没頭していた。ジェスタの位置から見れば、太陽は二時下がりの位置で止まっていた。このまま、どんどん暑くなるだろう。そのうち、ここにはいられなくなる。快適な気温を求めて移動しなければならない。
近くの銀河団の回転も止めていた。回転を止める領域をどんどん増やしていった。天体反動銃に溜まったエネルギーは相当にすごいものだ。このまま、宇宙にあるすべての天体の回転を止めてしまってもいいと考えていた。
作業を進めるジェスタのもとに、意外な訪問者が一人訪れた。トチガミだ。
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