第8話

 そんなわけで、サントロはトチガミを殺したあと、ジェスタたち三人のもとまでやってきた。途中でビーキンの死体を見たので、少しびびっていた。

「ちょっと、また来たの、新しいのが」

 ジナがいった。あからさまな敵意だ。

「わざわざ、わたしに殺されに来たのね。同情するよお。なんていたって、人類で二番目に強いかもしれないわたしが相手なんだから。わたしのブラックホールに勝てるの? あきらめて、降参しなよ」

「ブラックホール? まあ、いい。降参する。降参するために来たんだ。おれも、あんたらの仲間に入れてくれ。おれもジェスタにつく」

 サントロがいった。

「わあ、本当に? やったあ。これでトチガミの代わりができたね。大歓迎だよ。ただし、あんたがいちばん格下だからね。ここでいちばん偉いのは、ジェスタ。二番目がわたし。三番目がミタノア。あんたは四番目よ。絶対にそれを守ってよね」

「四番目かあ。ううん、ちょっと待ってくれよ。四番目ね。ううん、そうだな、ああ、それでいいよ。おれは四番目でもいい。だから仲間に入れてくれよ。いいだろ」

 サントロは多少の不安を考えながらも、なめらかに答えた。それは何の不自然さもないような、なめらかさだったと思えた。実に自然にいえた。ちょっとの躊躇も、息詰まりもなかったはずだった。サントロはおおむね成功だろうと考えていた。四番目だろうと、仲間に入ってしまえば、こっちのものだ。

「本当に? やったあ。これで四人にまた増えたね。このまま、リザやミヤウラも、もう一度誘えば、こっちにつくんじゃないの。仲間は多いほうがいいしね。どう、サントロ。リザやミヤウラは誘ったら、こっちにつきそう?」

 ジナが聞いてきた。厄介な質問だ。他の二人に迷惑をかけるわけにはいかない。この場合、どっちで答えたら、二人が楽になるのだろうか。うっかり、ひどく長いこと考えてしまった。あの二人は何がしたいのだろう。あの二人が何をしたいのか、サントロにはとんと思い当たる節がなかった。サントロがジェスタの人類支配にあまり興味がないように、あの二人も、あまりジェスタの人類支配に興味がないようだった。だったら、関わらせない方があの二人にとってはよいだろうか。そう、サントロは思ったのだった。

 だが、口では別のことをしゃべっていた。

「ああ、もちろんだ。二人とも、本音では仲間になりたがってたなあ。おれからも、ぜひ、推薦する。二人を誘ってやればいいんじゃないかなあ。あの二人もそれを待ってると思うんだがなあ。だって、そうだろ。仲間別れになる理由なんて特にないんだからなあ」

 そういったサントロの内容に、ジナはたいへん、満足そうだった。

「やったあ。だったら、六人組結成ね。最初からそうすればよかったんだよ。ねえ、ジェスタ」

 声をかけられたジェスタはたいへん不機嫌だった。

「もういい。嘘だよ、ジナ。こいつが仲間になろうなんていってるのは本心からなんかじゃない。心にもない嘘だ。そうだろ、サントロ。あんたは、おれの様子を監視に来ただけであって、おれが人類を支配し、暴走する機械群と戦うのに、これっぽっちも賛成じゃないんだ。そんなのは見え透いてるぞ」

 ジェスタがいった。

「ちっ」

 と、サントロが舌打ちした。ジェスタは勘のいい野郎だ。ずばり、当たってやがる。ジェスタが人類を支配する? はっ、くだらなくって、鼻で笑ってしまう。そんなことを見逃すわけがない。絶対に阻止してしまう。

「おれを仲間にしないんだな、ジェスタ」

「そうだ」

「なら、おまえを殺す、ジェスタ」

 サントロがとうとう本音を吐き出した。

「ジナ」

 ジェスタがいった。

「はいはい、また、わたしの出番なわけねえ。人類で二番目に強いといわれるわたしを倒さなければ、ジェスタには手を出せないんだよお。わたしのブラックホールをかわせるかなあ」

 余裕しゃくしゃくのジナだ。ビーキンを倒して以後、自分の戦闘力に絶大な自信をもっていた。十二個の極小ブラックホールは常にジナの周囲に浮き、ジナに何ものも触れられないように重力を捻じ曲げていた。十二個の極小ブラックホールがジナを完全に守っているのだ。ジナの意思が許したときでなければ、その極小ブラックホールの重力の防御を越えることはできない。

 ジナはビーキンの時と同じように、一個の極小ブラックホールを投げるだけで、簡単にサントロの頭がふっとぶと思っていた。

 ジナ対サントロ。戦う前から勝ち誇っているのはジナだ。だが。

「ブラックホールかあ。なあ、ジェスタ。『失格者』に認定された八人のなかで、ブラックホールにも勝てないやつが何人いたと思う。そんなやつはほとんどいなかったんじゃないのか。ブラックホールなんてちゃちなものが、本当におれたち八人のなかで二番目に強いとでも思っているのか。思っているとしたら、相当なお間抜けさんだなあ」

 サントロがいった。

 それを聞いて、ちょっと焦るジナ。ちらっと、ジェスタの方を振り向いた。

「ああ、確かに。例えば、おれの天体反動銃はブラックホールの回転する力も吸収して、ブラックホールの回転を止めることができる。その回転するはずだったブラックホールの力を使って、ブラックホールを消滅させることはできるよ。少なくとも、おれはブラックホールに勝てる」

 ジェスタがいった。

「あら、わたしもよ」

 ミタノアがいった。

「ジナは勝手に二番目とかいってるけど、わたしだって、ブラックホールぐらいには負けたりしないけど。というより、わたしより強い人なんて、まったく思いつかないわあ」

 そのミタノアの発言にジナはびっくりしてしまった。

 ひょっとして、ミヤウラもリザも、ブラックホールより強いのだろうか。

「だったら、試しにかかってきなさいよ、あんたたち。絶対にあんたたちなんかには負けないんだから」

 ジナが怒った。

 まず、ジェスタが天体反動銃を使って、ジナの極小ブラックホールのうちの一個の自転を止めた。そして、その回転するはずだったエネルギーでそのブラックホールを消してしまった。ジェスタは自分がジナより強いことを確かに証明して見せたのだった。

「次はわたしね」

 ミタノアは手に持っていた道具で、ジナの極小ブラックホールそっくりのブラックホールを作り出した。そして、ジナの極小ブラックホールにその極小ブラックホールを衝突させて、お互いに消滅させてしまった。

 ジナの極小ブラックホールがまた一個消えた。びっくりするジナ。

「わたしの武器はコピー機なの。相手の武器をコピーして戦えば、絶対にだれとでも互角の戦いができると思うわあ」

 ミタノアがちょっとおどけて自分の武器を紹介してみせた。

「バカだな」

 最後に、サントロが凍りついた一点を投げた。凍りついた一点は、宇宙になるはずだったゼロ次元の特異点だ。重力は持たないが、質量はゼロにして無限だった。ジナの極小ブラックホールを吸収するようにかき消して飛び、そのまま、ジナの頭に命中して、ジナを死に至らしめた。ジナも消し飛んで消えてしまったのだ。

 サントロ対ジナ。勝ったのは、サントロだ。

 これで、四対四の殺し合いは、二対三となり、サントロ側がやや有利だった。

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