風の花 しばし相見る 神の木を

shiba

第1話 あなたは柴犬?

今日は、空が青い。

白い雲が、細く途切れなく続いて、青のキャンパスに白の放物線を描いていく。


あの雲の上は、どうなってるんやろう。

本当に、黒い黒い宇宙なんかな?


青と白のキレイな青空やなぁ。



「・・・痛ぁぃっ!!」


と、広い青空を見ている間に、私は、何もないところでつまずいた。



私は、空を見るのがめっちゃスキ。

だって、澄み切っている空は、私の心を軽くする。

なんで、生まれてきたんか、分からん不安な気持ちも、空を見ればなんとなく和らいでく。


だから、この間も、電信柱にぶつかった傷が、まだおでこから消えてへんねん。

いつも傷がたえへん私・・・

でも、自転車には、乗らへんから、そんなに大きなケガにもならへん、と私は思ってる。


小さい傷が、あちらこちらにある。

でも、その痛みが、生きている実感やなぁ、って私は思ってる。


私の名前は、『廷上(ていじょう) 風花(ふうか)』

静山丘(しずやまがおか)高校の1年生。



「いたいわぁ~。あっ、ひざから血、出てるやん・・・」


今日も、私の勲章が右足のひざに刻まれてもうた。


私が座り込んで、ひざを見ていたとき、ふと視線を感じた。

視線の先を前を見ると、一匹の犬と私は目があった。


飼い犬なんかな?

それとも、野良犬なんかな??


私は、犬のことはよく分からへんけど、たぶん、柴犬ちゃうかな・・・??


柴犬は、と私は勝手に決めてんけど、少しずつ私に近づいてきた。

本当に、のろのろと歩いてくる。。

私は、片ひざをついたまま、柴犬が近づいてくるのを待った。


あ、そうそう。どうでもええ話なんやけど、「のんびりしてんなぁ~」と友達から言われんねん。

あくせくしても、なんか疲れるだけやし、なんとなく毎日を過ごしてるから、そう言われても当たり前やと思ってるけど。

毎日、退屈なだけやし・・・

やから、この柴犬も私みたいなんかな?、ってちょっと思ったん。


そんな私のどうでもええ考えをしている間に、柴犬が私の前までやって来た。

柴犬は、鼻を近づけて、私の顔を嗅ぎだした。


あんまり犬に慣れていない私は、反射的に目をつぶった。


「怖い??」


「えっ??」


今、私、声が聞こえた気する・・・

なんか、「怖い??」って。


私は、目を開けて、そのままの姿勢で周りを見渡した。



後ろを振り返っても、誰もいーひん。

左右を見ても、誰もいーひん。

前を見ると、柴犬しかおれへんやん。


えっ??

もしかして、柴犬がしゃべったん?


私はとうとうおかしなったんかと、額に手をあてて考えてみた。

犬が、言葉を話すわけないやん。


でも、確認したかったから、柴犬に人差し指をさして、問いかけてみた。


「今、あんたしゃべったやろ??」


・・・

やっぱり、全く返答は、無いわな。


柴犬は、お座りの姿勢で、舌を出してる。

なんか、馬鹿にされてる気分やわ・・・

ってか、私がおかしいんやろな・・・


「そんな訳ないよなぁ」


私は、腕を組んで、そう結論づけた。だって、犬が日本語をしゃべる訳ないもん。

「ワン」とは、ほえるけどな・・・


「そうやんな、そんな訳ないよな」と、もう一度、自分に言い聞かせて

立ち上がろうとした時、さきほど転んだ時の右足が痛んだ。


「痛っ」

と、言って、目をつぶった。


「右足、大丈夫?」


今、聞こえた!?

はっきりと、聞こえた!?

日本語やった!!


私は、ぱっと目を開けて、座り込んで、柴犬の目をのぞき込んだ。


「今な、絶対に、喋ったやろ??」


と、柴犬に顔を近づけた。


柴犬は、さっきと変わらず、ひょうきんな顔で、舌を出していた。



・・・うーん、やっぱり思い違いか。


その時、私のスマホが鳴った。

電話の着信は、友達の琴実からやった。


私は電話に出た。

「もしもし、ことみ。今なぁ、なんか変なことにあっちゃって」

「何言ってんねん、ふう。もう、テスト始まんで!今どこなん?」


え!?今日、テストやったっけ。

あ、たしか学年末テストやわ!?

今、何時??


・・・8時50分だ。

・・・ほんまに?


「もう最悪やわ。安部先生にはテスト出るって言っといて」と伝えて

私は走るのが苦手なんやけど、痛む右足を引きずりながら、駆け出した。


あ~あ、せっかくのんびり歩いていたのに・・・

あ、そういえば、柴犬はどこ行ったん?


走りながら、後ろを見たけれど

柴犬の姿はどこにも無かった。


なんやったんやろ?あの柴犬。


不思議に思いながらも、絶対に間に合わないテストに向かって、駆け出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る