第20話 bombs away



『こちらジュリエット・スリー。リマ・エイト、教会のある集落でグリーンのスモークを焚く。そこが私たちの場所だ。間違えて爆弾落とすなよ?』

『了解。聞いたなルーキー! グリーンスモークは敵!』

『おいちょっと待て! ふざけんな! 今そういうふざけとかいらねぇから! まじめにやれ!』

「り、了解!」

 その交信の後すぐ、地上の一角から緑色の煙が立ち上り始めた。あの下に海兵隊がいるのか。空から見るとホントに人間ってちっぽけなんだなあ……。


 感傷に浸る俺を、海兵隊の隊長の声が引き戻す。

『お? つかルーキーだと? そういやお前ら二機で結構な戦果を挙げたって噂には聞いたけど、そいつが例の新入りか?』

「は、はじめまして。スパロウツーです。よろしくお願いします」

『ほう? 声だけ聴くとなかなかの色男じゃねぇか。私はっとそうだ今は作戦中だったな。帰ったら詳しく自己紹介としゃれこもうじゃねぇか!』

「了解!」


 気を取り直し、戦況を確認する。

 海兵隊が立てこもっている集落は、平原でひときわ高い丘の上に位置している。

 あそこからならば、後方に位置する対空兵器へもレーザー照射が可能だろう。

 実際、すぐにコンソールへレーザー誘導信号が表示された。

『こちらジュリエット・スリー、チョークフォー。敵SAMサイトへレーザー照射中。リマ・エイト。いつでもどうぞ』

『ラージャ、ボクサー射出する。ミサイルランチ!』


 シャルロットさんの機体から、ボクサーが撃ちだされた。

 真っ赤な炎と真っ白な煙を残しながら、ミサイルはレーザーの誘導に従って徐々に高度を下げていく。


 そして一分ほど経ったころだろうか。平原の一角でド派手な火柱が上がった。

『イェェェェェイ!! ざまーみろメデュラドのクソ野郎ども! おうちに帰っててママのおっぱいでも吸ってな!』

『ヒューッ! ケツにキスしろ!!』

 同時に、海兵隊員たちのお下品な歓声。どうやらこっちの世界でも、海兵隊の口は非常に悪いらしい。


『この調子でいくぞ! 次もレーザー照射!』

 今度は俺の番だ! まずはミサイルを起動、誘導モードをレーザーに設定。

 次に送られてきたレーザー誘導信号と位置情報をリンクさせ、四発搭載されているボクサーのうち一発に情報を書き込んでいく。

「アンジェ、アタックモードはダイレクトでいいかな?」

『一応トップアタックにしておいた方が賢明かと』

「だな、じゃあ確認するぞ。二番ハードポイント、一番ボクサー。レーザーナビゲーション、トップアタック」

『確認しました。射出どうぞ』

「スパロウツー、ボクサー発射します!」


 そして、ミサイル発射ボタンを押し込む。

 エウリュアレーより一回り以上大柄な体躯を持つボクサーは、その分発射の際の衝撃が大きかった。

 ガコン! と機体が揺れ、次いで凄まじい噴射音。エウリュアレーの比ではなかった。


 俺の機体を離れたボクサーは、先ほどと同じく順調に高度を下げていく。そして同じく1分ほどのち、 さっきの火柱からそう離れていないところで二つ目の火柱を天高く舞い上がらせた。

 そして恒例、海兵隊員たちの歓喜の声。

『イエエエエエエッ! ファッ〇キュー!!』

『おうちに帰りたいかぁ!? 残念だったなぁ! ここがテメーらの墓場だぜぇ!!』

 ホントに賑やかな人たちだ……。


『ジュリエット・スリーよりリマ・エイト。今のでSAMサイトは全て破壊した。次からAAガンへ標的を切り替える』

『いや、AAガンならこっちのロック範囲の方が大きいから大丈夫だ。それが終わったらあとはお前らがブッ壊してほしいメデュラドのお友達をレーザー指示しろ!』

『了解した。こちらで確認しているAAガンの位置を転送する。ぶちかませ!』


 SAMサイト、つまりSAMを敵航空機に誘導するための目をつぶしてしまったから、もうこれでSAMは怖くない。

 次は近づくと花火をちまちま打ち上げてくる対空機銃、AAガンをブッつぶして完全に敵の対空能力を奪いに行く。


 他にも歩兵が携帯するポータブルSAMとかもあるかもしれないけど、こっちはあんまり脅威じゃない。

 歩兵が携帯できるってことはそれだけ小型ってことで、TT装甲に致命傷を与えるだけのダメージは期待できないからだ。


「隊長、西側に三機配置されているAAガンを叩きます」

『任せる! 私は北の二機をぶっ潰す!』

 本当はツーマンセルでカバーしあいながら攻撃を行うんだけど、俺たちは二機しかいない。手っ取り早く片すために個別攻撃をとることにしたのだ。



 海兵隊から送られてきた位置情報でおおまかな敵AAガンの位置を確認。ひろーくうすーく配備されているようで、数もそう多くない。全部で五機だ。

 俺たち二機でボクサーの残りは六発だから、どうとでもなる。まずは俺が全部のボクサーを撃ちきって、海兵隊に一番近いAAガン部隊を無力化。

 残りの二機を隊長が吹っ飛ばし、完全に対空戦力は無力化されるはずだ。そのあとは弱い者いじめよろしく、空から一方的に攻撃を加えて海兵隊の撤退支援だ。


 大きく旋回し、一度グリーンスモークの上をフライパスする。

 アサルトライフルを掲げ、重そうな装備を体中にまとった海兵隊員たちが笑顔で大きく手を振ってきているのが見えた。

 俺は機体を左右に振ってそれに答えてから、AAガンをボクサーの射程に捉えるべく再び機首を巡らせる。


「アンジェ、一発一発撃ってちゃめんどくさい。マルチロックで一気につぶすぞ」

『了解しました。ボクサー二番から四番に諸元入力します。今回もトップアタックモードで射撃を行いますがよろしいですか?』

「それで頼む! あとエンジン出力をラジエーターから推力に回してくれ。射撃後すぐに急上昇してAAガンの射程から離れたい」

『了解。エンジン出力の七十パーセントを推力に回します』


 十秒しないうちに、ボクサーが敵AAガンを射程に捉えた。

 ロックオンしたことを知らせるビープ音とともに、HUDに表示された四角いマーカーが三つ、赤に染まる。ためらうことなく、三回ボタンを押し込んだ。


 また、あの重い振動が体を襲う。

 機体から伸びる三つの煙は、フラフラと頼りない奇跡を描きながらもしっかりAAガンへと向かい、そして捉えた。

 大きな火柱がほぼ同時に三つ。


「スパロウツー、敵AAガン三機を無力化しました」

 念のためフレアを数発放出しながら急上昇。

 携帯対空ミサイルに狙われることが無いように十分な高度を取る。


『こちらスパロウワン、私もAAガン二機を無力化。よし、狩りの時間だルーキー! 攻め込んできたことを連中に後悔させてやれ!』

「了解!」

 

 気が抜けるほどの容易さで、俺たちは敵の対空戦力を無力化することに成功したのだった。


 残りはろくな対空装備ももたない地上部隊だけ。

 さぁ、狩りの時間だ!




二十一話へ続く。

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