第15話 6vs48

 メデュラドの戦闘機部隊は、ルーニエスの一次防空ラインを既に突破していた。

 二次防空ラインも危うい状況で、国境上空の制空権はほぼメデュラドが確保したと言っても良い程緊迫した状況だ。


 そりゃそうだ。

 四八機の敵戦闘機を相手しているのは、一足先にスクランブル発進したアーネストリア空軍基地のヘロン四機と、地上の高射部隊だけなのだから。

 むしろまだヘロンが一機も撃墜されていないということが奇跡だろう。

 もう女の子のことだとか、街がどうとか言っている余裕はなかった。



『ルーキー、まだあの戦闘から一週間しか経ってない。編隊飛行訓練もウイングマン訓練もしてない。今回も私がお前のウイングマンになる。好きに飛べ!』

「りょ、了解! お願いします!」


 二機で飛ぶ場合、リーダーとその背中を守る僚機、すなわちウイングマンに分かれ、お互いをカバーし合いながら空を飛ぶ。

 ウイングマンはリーダーの飛行に付き添い、その命令を忠実に遂行し、また背中を守らなければならない。


 だけどそんな高度な飛行技術、俺が持っているはずもない。

 だから、今回もシャルロットさんが俺の飛行に合わせてくれるのだ。


 はやくその技術を手に入れられるよう決意を新たにしつつ、俺はマスターアームを点火。

 HUDの表示も空対空戦闘モードへと切り替える。


 表示を切り替えたところで、無線が受信を知らせるブザーを響かせた。

 無線を開いた途端、様々な会話がスピーカーからあふれ出してきた。恐らく、地上部隊からの通信も交じっている。

 後ろで小さく聞こえる破裂音は、きっと銃声だろう。怒号が飛び交い、戦況がかなり混乱していることが手に取るように分かった。


 その騒がしい会話の中でもわかる芯の通った声。

 まじめモードなアーネストリアコントロールの彼女のものだ。


『こちらアーネストリアコントロール。スパロウ各機、感明送れ』

『こちらスパロウワン、フェアリー。感明良好』

「スパロウツー、感明良好」

『こちらも良好。以後地上部隊含め全部隊との交信はこの周波数を使用する』

『了解、航空機のみの交信にはどの周波数を?』

『周波数コードチャーリーを使用せよ』

『了解、チャーリーでラジオチェック。感明送れ』

『感明良好。戦闘空域までのETAはどれほどか?』

『ETAは三分後。方位〇三〇から〇六〇へ回頭し、右回りに戦闘空域へ突入する』

『了解。AWACSが戦闘空域近辺に到着するまではこちらで戦闘管制を行う。AWACS、ホークアイ到着後はそちらの指示に従え。ETAは十分後。増援戦闘機部隊のETAは六分後』

『了解』


 AWACS、すなわち空中戦闘管制機もこちらに向かっているらしい。

 電子戦や情報分析、味方航空機へのタイムラグの無い指令を任務とし、後方からの間接的な支援を行ってくれる縁の下の力持ちだ。

 いるといないでは大違いで、本当に心強い空飛ぶ管制塔である。


『AWACSと飛ぶなんて、ほんとに久しぶりだ……』

「逆を言えば、それが出てくるほどシャレにならない状況だっていう事ですよね」

『まぁ四個飛行隊なんて飛ばされちゃあなぁ……』


 技術ではルーニエスに勝てないメデュラドだ。

 ならば質を圧倒する数で勝負に出るしかないということだろう。


 それしかメデュラドがルーニエスに確実に勝てる方法は無いのだから。

 だがそれも、根元からくじいてやる。

 決意新たにスロットルレバーを握りなおした俺に、シャルロットさんから通信が入った。


『おっと、そろそろ戦闘空域だ。ルーキー、あの時と同じだ。好きに飛べ。背中は私が絶対に守ってやる』

『サポートはお任せくださいマスター。一週間前の戦闘データを解析し、よりマスターにあった戦闘演算プログラムを組んでおきました』



 なんと頼もしいことか。俺には天使が二人もついているんだ。

 それに、俺とその天使たちを運ぶ『天使の翼』もコンディションは最高。負けるはずがない。

 戦場はこの大きな雲の向こう。さぁ、突っ込むぞ!


「行きます! スパロウツー、エンゲイジ!」

『スパロウワン、エンゲイジ!』


 ビーム機銃とミサイルの軌跡、そして翼端煙が立体的な絵画を書き上げる戦場の空に、俺はバーナーを吐き出したまま突入する。

 すると眼の前に、まさにゲームのような光景が広がった。



『うわっ、すげえぇ……! どこみても敵しかいねぇ……!』

「こんなに敵が見つけやすい空中戦は初めてかもしれないです……!」


 どこを見ても敵、敵、敵。

 センサートレースの緑色のボックスが、キャノピーの内側を覆いつくさんとするほどの数だ。


「こりゃミサイル出し惜しみせずにとにかく早く数を減らさねぇとどうしようもねぇな……!」

『賛成です。このままでは機銃攻撃など自殺行為です』


 この戦力差だ。機銃で攻撃するために敵の後ろについた途端、何機もの敵に逆にケツを取られて追い回されるハメになるだろう。

 実際ヘロンたちも敵の後ろを取ろうとすれば別の敵がケツにつき、逃げ惑う事しかできていないようだ。

 TT装甲のおかげで数十発くらいなら敵のビーム機銃に耐えられるし、最悪の場合被弾覚悟で機銃攻撃を敢行し、その後装甲が放熱するまで回避に専念。

 放熱しきったら再び被弾覚悟で機銃攻撃という戦法もありっちゃありだろう。


 だがこの状況では何機もの敵がケツにつくことになり、当然一斉にビーム機銃を乱射してくる。

 一気にTT装甲の耐熱限界までもっていかれ、撃墜されるという事態にもなりかねない。

 これは最後の手段にするべきだ。


 ならば、敵の後ろにつかずともオフボアサイト能力で攻撃が可能なエウリュアレーをこれでもかというほど撃ちまくり、少しでも敵の数を減らして機銃での攻撃チャンスを作り出すしかない。



『だがルーキー、五分後には増援も到着する。全部落としてやろうなんてことは考えるな! 制空権を敵に渡さなければそれでいいんだ!』

「わかってます! でもそれくらいの気持ちでいかなきゃ、たぶん一機も落とせませんよこの状況! アンジェ! 一番から一八番、全部のシーカー冷却開始! 一番近い敵から順にロックする!」

『了解、シーカー冷却開始。高脅威優先目標を九機設定。HUDに優先投影します』


 一機につき、最低でも二発撃ちこまなければ撃墜には至らない。

 俺とシャルロットさんで合わせて三六発のエウリュアレーを携行しているが、そのすべてが命中したとしても撃墜できるのは一八機のみだ。

 残りの三十機は、ビーム機銃で相手しなければならないことになる。


 だが、四十八機を一気に相手取るよりはるかに良いことに違いはない。

 そうこうしているうちに早速一機目の熱を、エウリュアレーの目が捉えた。

「スパロウツー、FOX2! FOX2!!」


 一番近くを飛んでいたグラスパーを、ミサイルが捉えた。

 機首に二発被弾した敵は、頭を捻りつぶされて爆発四散。真っ黒な煙を吐き出しながら雲の中へと消えていく。


 まずは一機。だが、残りは四七機。

 味方を一機撃墜され、俺たちを撃ち落とそうとやっきになった大量の無人戦闘機が群がってくる。

 一度に十数機が攻撃をしてくるなど、ゲームですら経験したことがない。


『ルーキー! 落ち着いて敵の射線を読め! 普段どおりでいい!』

「わかってます!」


 緑色の光の束が、まさに波のように襲い掛かってくる。右ロールをしながら高度を落とし、そのまま急旋回。

 敵にこちらの軌道を読ませないことが一番重要だ。


「シャルロットさん! 後ろ何機ついてますか!」

『七機! ヘロンがその後ろについてる! 撃ってくるぞ!』


 シャルロットさんの警告のすぐあと、真後ろから敵のビーム機銃。

 右旋回の途中だったが、ラダーを蹴りこんで急上昇へと移行する。息つく暇もなく、ミサイルアラート。十時の方向から四発!


「フレア! フレア!!」

 急上昇から左急旋回、フレアを吐き出しながらスロットルを絞る。

 これでミサイルに機首を向ける形となったが、戦闘機で一番温度が高いのは機体の一番後ろにあるエンジンノズルだ。

 考えるまでもない。そこからジェットエンジンの排気を吐き出し、その推力で前に進んでいるのだから。


 なるべくミサイルにケツを向けたくなかった。


 ミサイルがこちらに向かってくる様子がはっきりと見え、一気に恐怖が沸き起こる。

 四本の白い線はオレンジ色の炎を吐きだしながら、こちらめがけて急加速している。操縦桿を握る手が、勝手に震えだした。



 しばらくはこちらめがけて飛翔していたミサイルだが、やがて頭をあらぬ方向へ巡らせ飛び去って行く。

 どうやらフレアが効果を発揮してくれたらしい。


 だが攻撃を避けて終わりじゃない。

 俺はそのミサイルを放ったグラスパーをロックし、発射ボタンを押し込んだ。

「スパロウツー、FOX2! FOX2!!」


 軽い振動とともに、エウリュアレーが放たれる。

 既にかなりの至近距離まで近づいていたため、回避機動を取る暇もなく敵はミサイルの餌食となった。


 これでやっと二機。

 これは想像以上に厳しいかもしれない。


 



 ……その後もミサイルを撃ち続け、シャルロットさんもミサイルを撃ち尽くした。

 だが、撃墜できたのは最初の二機を合わせてたった十機。当然ミサイルで反撃もされるわけで、フレアの残りを示すデジタルカウンターもゼロを指示していた。


 武装の残りはビーム機銃だけ。フレアも無いのでミサイルを撃たれたら機動力のみで回避するしかないという絶望的な状況だ。

 それでも、味方の到着までしばらく時間がある。


『ルーキー! 六時の敵にロックされた! ブレイク! ブレイク!』

「こなくそお!」


 フレア発射ボタンを押しそうになりながら、急旋回。

 だが向かった先に敵の大軍。まさに泣きっ面に蜂。

 その視線の先の敵に機銃を発射しながら、回避機動を取り続ける。

 撃ったビームが命中したかなんて、確認している暇もない。


『マスター、攻撃回避されました』

「クソッたれめ! アンジェ! 増援の到着まであと何分だ!」

『増援到着ETAは三分後』

「まだ二分しか経ってねぇのかよ……!」


 もう三十分以上戦っている気がした。

 一瞬でも気を抜けば撃墜される。やまない攻撃に焦りは募る。


 だけどどうしようもない。一機一機落としていかなければ解決しないんだから。

 その決意をくじくように、アンジェが淡々と戦況を報告する。

『マスター、ヘロン一機撃墜されました。さらに、後方の攻撃機部隊が侵攻を開始。五分でルーニエス領空に侵入します』

「踏んだり蹴ったりだな……!」


 これでこちらの戦力は五機。

 五対三十六だ。ボーシット!!

 しかも敵は、もうすでに制空権は確保したと判断したんだろう。なめやがって!


 増援が来ても、この戦力差では攻撃機にまで手が回らないだろう。

 なんとか俺たちで敵戦闘機の数を減らし、攻撃機の侵攻に待ったをかけなければならない。

 そうしなければ、罪のない人たちが大勢死ぬことになる。




 どうする……!? どうすればいい……!?

 考えろ俺! ビーム機銃で敵を撃墜するには、後ろにつかなきゃ効率よく撃墜できない。

 だが後ろにつけば、その隙をついて後ろを取られてこっちが落とされる。


 なにか、一時的にでも敵の攻撃を凌ぐ術があれば……!



 後ろについた敵のさらに後ろに無人機をつかせても、それも撃墜される。圧倒的に敵の方が数が多いんだから。イタチごっこになってしまう。

 いや、待てよ? 無人機、そうだ! 無人機だ!


「隊長! ヘロンって撃墜されたら補充されるんですか!?」

『いきなりなんだ!? そりゃあアーネストリアは最前線基地だ。撃墜されなくても補充されるだろうよ!』

「じゃあ残りの三機、俺にください!」

『くださいってお前……!』


 だがそこで、ハッとしたようにシャルロットさんが息をのむ。

 そしてなにか悪戯を思いついた子供のような含みのある笑いを残し、

『好きにしな! どうせこのままでも全部落とされるんだ! 有効に使ってやった方がいいだろうよ!』

「ありがとうございます!」


 まるで背中を叩いてくれているかのような明るい声で、ゴーサインを出してくれた。

 何をするか伝えた訳ではない。だけど、無人機を落としてもいいかというトンチキな提案だ。大体の察しはついたのだろう。


 隊長の許可も下りた。あとはうまくいくことを祈るだけだ。


「アンジェ! お前、ドローンのコントロールできるか!?」

『愚問です。一度に七機まで遠隔操縦が可能です』

「さすが! 残ったすべての無人機のコントロール、お前が持て!」

『了解、ヘロン三機のコントロール。私が行います。アイハブコントロール』



「よしアンジェ、ドローン三機を全て隊長の後ろにつけろ! 彼女を撃たせるな!」

『了解。無人機全てにスパロウワンの軌道トレースを行わせます』


 無人戦闘機のメリットは、大きく分けて三つある。

 

 一つは、人件費の削減。


 二つ目に、人間を乗せないことで対G能力の限界を飛躍的に高めることができること。

 もっともこれは、有人機ですら二十G以上での機動が可能なこのブルスト世界の戦闘機では意味をなさないんだけど。


 そして三つ目、一つ目の理由にもかぶさってくるんだけど、撃墜されても人が死なないこと。

 これが一番大きなメリットだろう。


 この世界の有人戦闘機は頑丈過ぎてどうかわからないけど、俺のいた世界では戦闘機で撃墜されるという事はすなわち死を意味する。

 脱出装置もあるけれど、無事撃墜された機体から脱出できたとしてもその後の生存確率はかなり低い。


 だって降りた先が陸地とは限らないし、味方の領地とも限らないんだから。

 事故で脱出した米軍のパイロットが海に放り出され、そのまま帰らぬ人となった事件も記憶に新しい。


 でも無人機ならば、撃墜されても墜落しても人が死なないんだからどんな危険な任務へも投入することができる。


 ならば今回も……!



「すまないなヘロン! 俺たちの盾になってもらうぜ!」


 機銃攻撃をするために後ろを取れば攻撃される。

 ならば、無人機を盾にしてしまえばいい。確かエンジン出力をラジエーターに回して排熱効率を上げるモードもあったはずだ。


 ド派手な機動はできなくなるけど、機銃攻撃の盾にするんだからそんな機動を無人機に取らせる必要もない。


「アンジェ! 無人機のエンジン出力をラジエーターに回して耐久性を極限まで高めろ!」

『既にやっておきました。エンジン出力の六割をラジエーターに。TT装甲の耐熱率は一七〇パーセントまで上昇しています。ビーム機銃の射撃は不可能です』

「上等!」


 これなら、暫くの間攻撃に耐えてくれるだろう。

その隙に俺たちは――

「さっそくお出ましか! 行くぞアンジェ!」

『いつでもどうぞ、マスター』

 ――機銃攻撃に専念し、少しでも敵の数を減らす!



 眼の前を飛び回る一機をセンサーロック。追尾の姿勢を取った。

 敵もジンギング機動を繰り出し、こちらのガンサイトに捉われることが無いよう必死だ。

 無人機も有人機も、落とされたくはないんだから。



『マスター、六時方向敵機射撃開始しました。三番機被弾中』

「耐えろヘロン! まだ落ちてもらっちゃ困るんだ!」

 時間がないんだ。攻撃機が領空に入るまで!


 でも焦れば焦るほど、射撃の機会を取りこぼす。

 LCOSと敵の表示が重なった瞬間に、トリガーを引くことができない。


「くそっ! なんで当たらねぇんだ!」

『三番機TT装甲蓄熱率、危険域に突入。二番機とローテーションし放熱に専念します』


 焦る俺とは裏腹に、冷静なサポートを続けてくれているアンジェ。

 彼女の働きを無駄にするわけにはいかない。


 だけど、やっぱり世の中そううまくいくはずもなかった。

『三番機エンジンノズルに被弾、撃墜されました』

「くそっ! まだ一機も落としてねぇってのに! 当たれ! 当たれぇっ!」


 焦りが不安へと変わり、がむしゃらにトリガーを引き続ける。

 当然敵にあたるはずもなく、バレルが意味もなく加熱していくだけだ。


 あんなにかっこつけてこの作戦を提示しといて、これか……!

 早く、早く敵を落とさないと……!




『ルーキー、落ち着け。一度スロットルレバーから手を放して深呼吸しろ』

そんな俺をなだめるように、普段から想像もできない程柔らかいシャルロットさんの声が耳に響いた。


 いつの間にか肩でしていた息を、深呼吸して整える。

 どうやら本当に、良くないパターンに陥っていたようだ。


『しっかり狙え。一発で仕留めるつもりで、しっかり狙え』

「一発で……」


 そうだ、TT装甲の耐熱限界までビーム機銃を撃ち続けていたら、その間後ろの無人機も攻撃にさらされることになる。

 一撃で、一回のチャンスに全てを込めて。でも、どうすればいい……! TT装甲の戦闘機を一撃で撃墜するには……!


「そうだ、エンジン……!」

 先ほど、アンジェが報告した言葉。三番機、エンジンノズルに被弾。撃墜されました。


 エンジンノズルの奥は当然エンジンだ。そこにTT装甲は使われていない。

 最初の空戦でも、俺はエンジンノズルの奥を撃ちぬいて敵を撃墜したじゃないか!

 あの時はずいぶん余裕があった。それに、ただ純粋にドッグファイトを楽しんでいた。


 今はどうだ? 楽しめているか? この状況を。


 いや、違う。楽しむんだ、この状況を!


「隊長! エンジンノズルを狙います!」

『はぁ!? エンジンだと!? お前、針に糸を通すなんてもんじゃねぇぞ!? 敵は動いてるんだ! 一発で落とすつもりで行けとは言ったが、本当に一発でなんて……!』

「それでもやります! やって見せます!」


 エンジンノズルを狙うことにこだわりすぎて攻撃の機会を逃し、結果効率が悪くなってしまうかもしれない。

 まさに一か八かだ。


でもこれをやらなければ、攻撃機の侵攻を阻止することができないんだ!


「アンジェ! LCOSの表示を精密射撃に合わせてくれ! それとHUDの明度をもっと強く!」

『了解。グラスパー無人戦闘機のエンジンノズルを基準にガンサイトを再調整します』



 縦横無尽に飛び回る敵。

 かなり明るくなったガンサイトの表示をにらみ、操縦桿を微調整。

 一度目の射撃。光線はエンジンにも機体にも命中することなく、大空の彼方へと吸い込まれていく。


 集中だ、集中しろ俺……!


 もう一度深呼吸。

 二度目の射撃。今度は敵の垂直尾翼を捉える。

 だがTT装甲の破壊にも、もちろん撃墜にも至らない。

 

 次で決める!


「落ちろ蚊トンボ!!」

 三度目の射撃。なぜか、いや、気のせいかもしれない。

 だけどその瞬間だけ、周囲の時間がピタリと止まったような気がした。


 これなら、当てられる。


 まずビームは敵の主翼を捉えた。

 そのまま着弾点が後ろへと移動し、やがてエンジンノズルの奥へと、吸い込まれていった。



 当然、その敵機はアッという間に爆散。

 黒い煙を纏いながら重力に捉われ雲の中へと消えていく。

「スパロウツー、スプラッシュバンディット!!」


 一機落としただけだ。

 でも、この一機が反撃の狼煙になることは、間違いないはずだった。





一六話へ続く。




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