大空への夢を、異世界でもう一度!

ふみ狐

Flight 1 ~掴み取った大空~

プロローグ

 昔から、空を飛ぶことに憧れていた。



 特に、戦闘機。




 蒼空を縦横無尽に駆け回るその鋼鉄の翼は、幼い俺に夢を与えた。

 自衛隊の航空祭で初めて目にしたF-15J イーグル。

 今まで聞いたこともないような爆音を轟かせながら目の前を飛び回るその機体の姿は、今でも鮮明に思い返すことができる。


 俺もいつかあの機体にのって、大空を飛び回るんだ!

 そう心に決め、必死に努力を重ねた。

 戦闘機パイロットが非常に狭き門であることくらい、理解していたから。



 小学校、中学校とトップクラスの成績を残し続け、体も鍛え続けた。

 高校を卒業したら防衛大学校に入って、ファイターパイロットになる! そうとだけ未来を見据え、努力し続けた。



 ……だけど、世の中そんなには甘くなかった。

 高校入学と同時に、視力がガタ落ちした。


 今まで裸眼で2.0あった両目の視力が、0.01にまで低下。

 メガネなしでは生活できないほどまでに落ち込んでしまったのだ。


 当然、視力が非常に大事とされる戦闘機パイロットへの道は潰える。

 矯正視力でも務まるヘリコプターパイロットや、民間パイロットという道もあるにはあった。

 だが幼い頃から夢見て必死に努力してきたのは、やはり戦闘機のパイロットになるためだったのだ。




 今まで積み重ねてきたものが、音を立てて崩れた瞬間だった。





 夢潰えた俺は、自堕落な高校生活を送ることになる。

 部活にもはいらず、校則も守らず、そのうち学校に行くのもめんどくさくなった。

 今まで欠かさず足を運んでいた自衛隊の航空祭にも、足を運ぶのを止めた。



 そして高校三年生になった俺こと橘涼介(たちばな りょうすけ)は――



『涼介、お前また学校サボったんだって?』

「うっせぇ黙ってろ! それよりほら! 敵落とせ敵!」


 目の前に広がる大空。宇宙を感じさせる深い青のキャンバスに線を描くのは、ミサイルが残す白い軌跡。

『マスター、六時方向敵機、シーカー冷却を確認。戦闘演算プログラムに則り、フレア射出します』

「いやいいアンジェ! こいつを落とせば終わる! このままいくぞ! 俺のカンはよく当たるんだ!」

かわいらしい、だがどこか無機質な女性の声の提案をはねのけ、ニヤリと笑う。


 アンジェ。フルネームだとアンジェリカ。

 この機体に搭載された、ゲームを始めた時から苦楽を共にしてきた人工知能は、俺の命令に従ってだんまりを決めた。


 そして右手の操縦桿、左手のスロットルレバーを慎重に操作し、減速しながらくるりとバレルロール。後ろに付いていた敵の戦闘機をオーバーシュートさせた。

 俺も始めた頃はよくやった。もう少しで勝てる状況になると、途端に集中力が切れて凡ミスをする。

 つまり、ミサイル発射に気を取られ、敵が速度を落とす素振りを見せていることにも気づかないという。


 マイク付きヘッドフォンからは、赤外線誘導短射程ミサイルの耳障りなシーカー音と低いエンジンの唸りが絶えず聞こえてくる。

「貰った! イカロスワン、FOX2! FOX2!!」

 軽い振動とともに、俺の機体を追い越した敵機めがけてミサイルが空を駆る。


 そして、

「イエエエイ! スプラッシュワーン!!」

 爆煙とともにその機体は弾け飛び、試合終了を示す表示が、画面いっぱいに表示された。


『よっしゃあああ涼介! 世界一だアアアア!!』

「っしゃあああオフ会しようぜオフ会!!」




――オンラインフライトシューティングゲーム廃人になっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る