バーストヘッド

極大射程

序章

見たことがある。見たと言ってもインターネットの画像検索でだ。

その程度だ。しかし脳裏に焼き付いている。

薬に手を出した人間の成れの果て。彼女はそんな姿をしている。


どんより落ちくぼんだ両眼の下は黒ずんでいるし、体中ニキビを無理やり潰したような傷だらけだ。

かろうじて椅子に腰掛けてはいるものの、両腕はだらしなく体の横に垂れているし、足も伸びきって今にも崩れ落ちそうだ。

テーブルに乗った頭がこちらを向いているが目の焦点は合っていない。きっと僕が誰なのかもわかっていないだろう。

魅力的とは到底言い難い。まだ若干22歳の女性。アビゲイル・シノサキ。


こんなことになった後で何だが、せめて綺麗だった頃の彼女を紹介したい。


外国人と日本人とのハーフの子供は、この町では珍しい。アビゲイル・シノサキがそうだ。

珍しいとは言っても、人口が少ない田舎町でのことだ。生まれた時からみんなに知られ、可愛がられて育った。

幼い頃から成績優秀で容姿端麗、慈愛に溢れ純粋無垢。

18歳になる頃には、まだまだ自信が足りないが、良い行いをしようと前向きな女の子だった。

高校卒業後は看護学校へ進学し、地元の病院で働くことを夢見ていた。町の人はみんな彼女をアビーと呼んだ。


アビーは普通の人生を歩むはずだった。刺激や冒険とは無縁だが安全で幸せな生活。

しかし、かわいそうなアビーはこの通り。今ではみんなが知らないふりをする。


今となっては、アビー本人にはどうだっていいことだろうが弁明したい。

彼女は違法なことは何一つしていないし関わってもいない。有害な薬を使ったこともない。

みんなにはそう見えているだけだ。


僕は知っている。

彼女の身に何が起きたのか。


極上の天使というのはおかしな例えだが、実際そんな風貌の、なんだかよくわからない不気味な存在の話だ。

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