歌うわ語らい。踊れや冒険者
いつみきとてか
第1話 ユーリ・ペデットの生態
「・・・しまった」っと思ったことが口に出たのがことの発端だったのかもしれない。
僕はユーリ・ペデット。記者だ。首都という大きな海を目指し井戸の中から出てきた蛙であり、苦節十年、十五歳という村の中では最年少記録を叩き出しつ、村一番の子供や神童といわれ続け高慢ちきな鼻を拵えながら首都という大海には到達したが、如何せん。井戸は一つではなく無数に存在し、蛙もまた大勢いた。
そして、僕はどうやら神童ではなかった。他所の村には僕を越える神童もまた沢山いた。
高慢ちきな鼻は社会人として社会という底なしで薄暗い海峡へと飛び込む前には消え失せ。
純粋な心も体もなにもかもなくし清らかで落ち着いた社会人として社会海峡へと飛び込んだ。
ーー失敗だった。
社会は単純な構造をせず業界と呼ばれる蜂の巣のような無数の囲いがあった。
僕の場合は出版業界。新聞や本。魔道書を主に取り扱っている業界だがこの業界は経済、政治、組合(以降はギルドとする)に精通している。
たとえばギルドでは、クエストボードに張り出される依頼書の作成や、前日に死んだ冒険者や解散したクラン、パーティー募集など三つの柱の一本でこの仕事量だ。
金には困らないし近年では紙が非常に安価で生産できていることも踏まえて利益は相当なものだ。
故に、出版社に入社できたものは勝ち組。
だから僕は必死で他者を蹴落とし謀り、この業界に入った。
故に、金と銀の硬貨に囲まれている明るい有能記者生活が存在する。
ーーはずだった。
はずだった!
「おい。ユーリ! てめぇ、今月分の家賃払ってねーだろ!」
「家賃よりこっちが先だよ。ユーリ! 今までつけてきた食事代を耳そろえて返してもらう!」
「おい! 割り込むなよ。こっちが先だ。ユーリ!」
・・・など、など。
今僕は、勝ち組とは無縁の生活と現場に居る。
「・・・どうしてこうなったのか」
それが僕にはわからない。
勝ち組に僕はなっているはずだが金がない。
浪費癖かーー違う。僕は倹約家だ。無駄な財など費やしたことはない。
謀られたーーこれも違う。僕はそもそも一人ぼっちだ。
ーーーどうして。
ーーーーどうして。
ーーーーーどうしてーーーこうなったーーーー。
歌うわ語らい。踊れや冒険者 いつみきとてか @Itumiki_toteka
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