旧 佐伯ちゃんの日常
まっしろけっけ
プロローグ
第0話 [二年前]
ザーッ…
俺は傘をさしながら道を歩いていた。
「あーマジ最悪!!」
今日雨降る予定じゃなかったじゃん。妹に傘持たされてなかったらずぶ濡れだった…。
「…まるで俺の心のようだな…」
俺はついさっき彼女にプレゼントを渡そうとした所、拒否されてしまった。せっかくあいつに似合いそうな花のピン買ってあげたのに…。
「これ、どうしようかな…」
俺は歩きながら考える。また明日しつこく渡すか…いやいやこれはダメだ。嫌われるに決まってる。じゃあ友達にあげるか…。って、男がこんなのつけるわけねぇだろ!じゃあ妹に?でもあいつもこんなのつけないしなぁ…。あ。あそこのベンチに座ってる女の子に渡す?
………!!!?
こんな雨の中、傘もささずに座ってる!?いやいや風邪引くでしょ!?
「あの~濡れちゃいますよ…?大丈夫ですか…?」
「…!」
俺が話しかけると女の子が振り返る。フードとマスクで顔が隠れてあまり見えないが可愛い感じだ。でも包帯や湿布が多い。…もしかして…
「どうしたんですか…?こんな所に傘もささずに1人で…」
女の子の肩に触れようとした時…
「触らないで!!!」
雨の音をかき消すような声で女の子はそう言った。
「あ…えっと…」
女の子は戸惑っている様子だった。怒鳴る気はなかったのだろう。
「…… 分かった。触らない。だけど、はい。」
俺は女の子に自分が持っていた傘を渡した。お気に入りだったけどそんな事気にしていられない。
「濡れちゃうでしょ?女の子が風邪ひいたら大変だよ。」
「……でも…」
「いいから!俺の愛がこもった傘受け取って!」
「…分かった……」
傘を女の子に渡したせいで少し寒い。今は秋だ。雨に濡れたら寒いに決まってる。ふと、ポケットに手を入れると何かに触った。
「あーそうだ。ついでにこれもあげる。」
俺はさっきの花のピンを出す。あげる人いないし記念にあげようと思ったんだ。
「…可愛いから貰う。」
女の子は手に乗っていたピンを取る。
今度は遠慮しないのか。ていうかちょっと笑った気がする。やっぱり顔はいい。
「って、やば!妹に買い出し頼まれてたんだ!じゃあね!花子ちゃん!」
俺は妹に言われたことを思い出し、商店街へ走る。
さっきのベンチから結構離れて気付く。
あの子なんて名前なんだろう。
*
「花子って誰だし…」
私は変な男に貰った傘をさして家に帰る。
「あの人も妹いるんだ…」
私にも妹がいるのでちょっと親近感が湧いてしまった。ていうかあの男ちょっと頭おかしいんじゃないかな…初対面の人にここまでする?いつも通り顔目当て?でも顔は隠していたはずだ。余計不思議に思ってしまう。
「そういえば、あの人名前なんていうんだろう。」
優しくしてもらったのに名前も聞きそびれてしまった。
傘に名前が書いてあるかもしれないと思い、ネームプレートを見る。
「あ。書いてある。」
私はその名前を読み上げる。
「えっと…やました…けい?」
山下景。こう書いてあった。
「他の男の名前とか久しぶりに言った…。」
家に帰るときっとあの人がいる。また体が痛くなる。
「でも今日はちょっと楽しかったかな…」
私は花のピンを握りしめてゆっくりとした足取りで家へと向かっていった。
__ここから、なにかが始まる気がした
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