―second season―

「その等価交換おかしくない?」

「あ、人吉ちゃーん、給料明細持って帰って」


 そう有村さんに言われて、「そういえばもう一か月終わりか」なんてことを考える。学生のころからそうだが、日付感覚というものがない。

 曜日感覚はかろうじてある。週刊の漫画雑誌の関係であるけれど。季節感覚も「あ、今期のアニメ終わるから、もう次の季節か」ってなる人間だ。まぁ、その感覚で困ったことはあまりないので、直す気も特にないんだけど。

 

「はい、今月もお疲れ様でした」


 そう言いながら渡してくれるのは、毎月のこと。

 有村さんはアルバイト全員にこうして渡してくれる。有村さんより前の人は貴重品の入っているボックスの鍵だけあけて、「勝手に持って帰って」っていうスタイルの人だった。


 いつもと同じように入ってたので、今月も給料は二十万弱だ。

 服やら何やらにはお金は書けないし、一人の時は有り余っていたけれど、二人になってからはちょうどいい感じになっている。それだけの金額を私一人が稼いでることに、アーサー君は申し訳なく思っているみたいだけど。


「今月はー、買う物何かあったっけなぁ」


 更衣室でパーカーを羽織って、スマホでツイッタ―を確認する。何か新刊情報がないかを確認するためだ。


 あ、『宵闇』の新刊でるんだ、買わなきゃー。あ、『ミュージカル』。コミック出るんだそれも買わなきゃ。でもアニメが最高だしなぁ、あの作品は曲があってこそだもんなぁ。迷うなぁ。


「人吉さーん」


 そんなことを考えていたら、國橋君から声をかけられた。


「んー、何ー?」

「これ、アーサーに渡しておいて」


 そういって渡されたのは、デジカメだった。


「なにこれ」

「カメラだってわかんない?」

「それはわかる」

「アーサーがさ、欲しがってたから。その代りに今度買い物に付き合ってもらうってことで交渉成立した」

「その等価交換おかしくない?」


 アーサー君の方が得をしている気がするのは気のせいだろうか。


「大丈夫。買い物付き合ってもらう先はコミケだから」

「あ、そう」


 それならまぁ。大丈夫、何だろうか。私はコミケに行かない人間だからよくわからないけど。


「ちなみに夕夏ちゃんとコミケデートしないの?」

「しねえよ」


 彼女と一緒にエロ本買いに行くバカがどこにいるんだよ。と彼は言うが、そもそも夕夏ちゃんと彼は付き合ってもない。アーサー君がせっついているようだが、せっついただけでくっつくなら、國橋君も苦労はしないだろう。


「お姉さんも応援してるからね。頑張ってね」

「うるせえ、さっさと帰れ」


 國橋君は普通の話をしているときはそうでもないのだけど、夕夏ちゃんの話を振ると口が悪くなる。照れ隠しだろうか。その設定いいな。おいしいな。推しの妄想に使えそう。

 さっさと帰れと言われたので、帰ることにする。お疲れ様です、とフロントにいる有村さんに言って、階段を下りて行った。





 家に帰ると、なぜか靴が四つあった。

 一つはアーサー君の物だ。私は仕事に行くときに履く靴以外は靴箱の中にしまっているので、アーサー君以外の靴が私の部屋の玄関に並ぶことは基本ないはずなのに。


「アーサー君?」


 リビングに向けてアーサー君に声を書ける。

 アーサー君以外の靴は、二つは男性ものらしいスニーカー。デザインは一緒で、片方は黄色、片方は青色。もう一つは小さい可愛らしいピンクの靴。


 靴自体に見覚えはない。けど、アーサー君以外で、この部屋の鍵を持っていて男物の靴が二つで、女の子の靴が並ぶような人物達と言えば。

 一つの結論にたどり着いたところで、リビングからどたどたという喧しい足音が聞こえてくる。二人分だ。


 いつもはアーサー君が「おかえり」と言ってくれる場所から、アーサー君ではない人物が今日は迎えてくれる。


「「姉ちゃん!!!」」


 ダブルサウンドで迎えてくれたのは、弟二人だった。

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