【本編】お疲れ様、いただきます【完結】
山西音桜
―first season―
「お兄さん、吸血鬼ってやつですか?」
「お疲れ様ですー」
アルバイトが終わり、深夜三時を過ぎたころ。
家に帰るため、私は少し暗い商店街の中を歩いていく。
飲み屋さんなんかが多く、酔っぱらって倒れてる人がたまにちらほらいたりする街。
変なおじさんに声をかけられるのも面倒なので、イヤホンでアニメのエンディングテーマを聞きながら、たまに口ずさみながら家へ帰る。
いつも通りの週末。
けどこの日は少しだけ違っていた。
黒のパーカーのフードまできっちりかぶった人が倒れている。
フードからこぼれる、とてもきれいな長い金髪から私は女の人なのだと思った。
「あの、大丈夫ですか?」
そのフードの人が、にやりと笑ったのを私は見逃さなかった。
ああ、しまった。声をかけちゃいけないタイプの人だったか。
母親から倒れている人は、できるだけ放っておくようにと言われていた。苦しくて倒れている人ばかりではないから、そのまま襲われることだってあるのだから、と。でも私はいつも放っておけなくてこんな風に声をかける。
痛い目にあったことは今までなかったから大丈夫だと思っていたら、この人がそれだったらしい。
「ありがとう、お嬢さん」
低い声。男性のものだ。俗にいうイケメンボイスという奴。
お嬢さん、現代社会でそんなことをいう人がいるとは。
「大丈夫です」
殴られたりするのかなー、レイプ系かなー。
などと考えている間に、男性が起き上がる。
フードに隠れていた顔がはっきりと見えた。
少しだけ幼い顔立ちをしているけれど、どうしてだか私は彼が「年上だ」と確信を持ってしまう。
金髪に赤い瞳が見えて、見えたころには私の首元に彼の顔は接近していた。
あ、レイプ系か。え、ここで?
だと思ったら、かぷりとかまれる感触がして……、しただけだった。
「え?」
「かった!!!」
男性は叫ぶ。
噛まれたところに、手を当てると少しへこんでいるだけでなんともなかった。
多分長く吸われてもないから、内出血もしてない。
金髪、赤い目、フード。
首の近くに噛みつくという行動。
ある一つの答えに行くまでに、そんなに時間はかからなかった。
「お兄さん、吸血鬼ってやつですか?」
「え」
「とりあえず、お兄さん。うちに来ませんか?」
「は?」
「血、飲ませてあげます」
私はおそらく血迷っていたんだと思う。
でも、まぁ。結局面白い結果にはなるのでこの時の判断を私は後悔はしてないし、これからもきっとしない。
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