第27話 『六人の転生者』


 訪れた会議室では、エビルが奇妙な踊りを踊っていた。


「成せば! 成る! やれば! できる! やまない、雨は、どこにも、ないし、明けない、夜も、どこにも、ないっ!」


『成せば成る!』『成さねば成らぬさ』『何事も』と書かれた三本のハチマキを頭にぐるぐる巻きにして、ほとんど半狂乱になって謎の舞を披露していたエビルは――

 そこで突然ハチマキを全部かなぐり捨てて絶叫した。


「――やまない雨も明けない夜もその気になれば作れるんだよぉぉおおお……! 神様舐めてんじゃないよ……創ってやろうか常夜の世界……創ってやろうか常雨の世界ぃ……!!」

「エビル」

「あっ」


 でも、会議室のホワイトボードの前には二機のロボットが並んで座っていた。

 リンカネくんとミスフォーちゃん。すっかりきれいに修復された、傍目には完全に直ったとしか思えないロボットが。


「直ったんですか?」

「……直ってない」

「これでですか」

「直ってないよ」

「……本当に?」

「直ってるわけないんだよ!」


 気でも狂ったかと思ったが、叫ぶ瞬間の冷たい瞳を見て冷静であるとわかった。

 冷静だからこそ受け入れられないのだ。

 ブラックアウトしていたリンカネくんのディスプレイを強く叩き、言う。


「いいニュースと悪いニュースが……いや」



「意味がわからないニュースと意味がわからないニュースがある」



 黙って先を促すと、エビルは観念したように深々とため息を吐いた。

 大学を辞めたくてしょうがない理系の女子大生のような疲れ方をしていたが、

 しかし神が神をやめるわけにはいかない。


「……死んでないんだ」

「……というと」


「紅本都。あいつはまだ死んでない・・・・・・・・・・・


「……と、いう、と……」

「ミスフォーちゃんのデータ見る限りだとそうなる。……だから、直ったように見えるってだけで、直ったはずはないんだよ! そうでないと、おかしい……」


 ほとんと泣き出しそうな声色で絞り出すようにそう言って、エビルはその場にへたり込んだ。

 さっき叩いたリンカネくんのディスプレイに光がともっている。

 【転生ログ@リンカネくんver1.03】の画面が、表示されている。


「おかしいんだよ。こんな、こんな……」

「……もうひとつは」

「だって、これで直ったっていうなら……」

「……もうひとつのほうは、なんです?」


 静かに先を促す僕に、エビルは叱られた子供のような顔を見せた。




『おまえは、誰だ?』『何者だそいつは』

 六人の転生者のひとりであるスライムは、僕にそう言ったらしい。

『そいつに近寄るな』『そいつは危険だ』

 六人の転生者のひとりである魔法剣も、僕にそう言ったらしい。

 たぶん竜も同じようなことを言っていたのだろう。


 魔物から人間を守っていた竜が、僕にだけは敵意を剥き出した。

 素質のない人間には触れることすらできないという魔法剣は、それにしたって異常なほどの拒絶反応を僕に対して見せた。




「おかしいんだよ。だって、これが、このログが正しいんだとするなら、それ、おまえ……おまえは……」


 そこに何かとても恐ろしいことが書かれているかのように、

 エビルは震える手でリンカネくんのディスプレイを指さした。




 たぶんスライムだけじゃなくて、剣と竜も、同じことを考えていた。


『おまえは、誰だ?』

『おまえは、何者だ?』


 ずっと、その疑問を抱え続けていたはずだ。

 スライム、剣、竜――三人が三人とも、同じことを考えていた。



 なぜ、

 どうして、

 いったい、

 なぜ―――――





――――――――――――――――――――――――――――――

【転生ログ@リンカネくんver1.03】


   転生先   転生者名   転生時刻

1. スライム / 蓮川 創 2017/04/12 3:22:51

2. 魔法剣  / 蓮川 創 2017/04/12 3:22:51

3. ドラゴン / 蓮川 創 2017/04/12 3:22:51

4. 魔王   / 泥藤 省吾 2017/04/12 3:22:51

5. ---- / 蓮川 創 【ERROR】2017/04/12 3:22:51

6. ---- / 紅本 都 【ERROR】2017/04/12 3:22:51


――――――――――――――――――――――――――――――



 ――――『なぜ、僕がもうひとりいる・・・・・・・・・?』



「これが正しいとするなら! おまえは……四回死んでる・・・・・・計算になるんだぞ!」


 わめき崩れるエビルを足元に見下ろしながら、

 僕は、自分の頭痛が少しずつ引いていくのを感じていた。


『私、実は』


『私、実は――――』









「私、実は時間を巻き戻せるんだ、……って言ったら」






 ――――信じて、くれるかな?

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