梓、限界を知る4

 学園祭当日・・・

「あの夜市、クオリティ高くね」

「女の子もかわいいし」

「衣装が超こってるじゃん、あんなのドンキじゃ売るってねーし」

 なんてちらほらお客の声が聞こえてきたあたりから、みんなはこの夜市の成功を確信し始めた。

「ふふふ、準備の甲斐があったわね」

 琴音のぶきみな笑い声が女子トイレから聞こえてくる。


 評判がよいと大変でも楽しくなるもので、売り込みにも力が入り、2日間、全てがいい方向にまわり続けた。

 おかげさまで、夜市はフル回転。

 結果、梓のクラスの出し物は大成功し、学年イチの売上をあげることができた。

 その額、二日間で150万円!

 ぶっちぎりで歴代1位の売り上げ記録である。やはり10店まわしたのが大きかった。

 後夜祭では、なんと生徒会から表彰までされしまい、琴音が代表して表彰状をもらい、檀上で大ジャンプをして勝ち名乗りを上げてきた。

「いえー!!」

「いやー大儲けね!」

「利益率が5%でも7万5千円の利益よっ!」

 琴音が女子を集めて声たからかに言った。

「ことねー、すごーい!」

 女子たちも、儲けて表彰されてキャーキャー大騒ぎだ。

 梓も友達とハイタッチで大歓びである。


 男子も喜んでいる。・・喜んでいるが正直おいしいところは全部、琴音に取られた気分であった。

 そりゃそうだ。

 屋台の準備などハード面は全部男子が面倒をみている。

 しかも後夜祭のあとに残された面倒な後片付けも、男子の仕事として割り振られていた。

 だが、表彰されて現金を掴んでいるのは琴音&女子なのである。気分がいいはずがない。

 梓はそれに気づき「ねー、琴音。男子が暗い顔でこっちを見てるよ」と袖を引っ張って教えてあげる。

「ん、しゃーねーなぁ。ちょっと慰労してやっか」

「よう、男子諸君、良く頑張った!きみ達のおかげで我々は勝利した」

「これは、ちょっとした謝礼だ。受け取ってくれたまえ」

 といって、1万円を手近にいた男子の掌にパンっとおいた。

 そして、「じゃっとまた」と女子の輪にもどってきて大騒ぎだ。

「よーし、じゃ打上げにいくぞー!」

「おー!!」

 ことねーが雄たけびに呼応して、街へ消えて行く女子達。

 ・

 ・

 ・

 しわしわの1万円を呆然と見つめる男子達。

「おのれ、松倉・・・」

 男の暗い友情を深め合うのだった。


 ・・・


 というわけで、テンション上がりまくりのクラスの女子が15名も集まり、その勢いのままにしゃぶしゃぶ3時間食べ放題の店に乱入する。

「うわー、しゃぶしゃぶのお店かと思ったら、なんでもある~」と梓が感嘆の声を上げると、琴音が

「だろ、私がみつけてくるんだから間違いないって。がんがん食ってくれ」と胸を叩いて大いに自慢した。

 店内をぐるっと回ると、しゃぶしゃぶ、焼肉、白米、チャーハン、デザートのケーキ類、おでんや枝豆、から揚げ、ビールやサワーなどの飲み物、お鍋も食べられるし、ラーメンやカレーもある。

「まじ、これ全部タダでたべられるの!?」

「おう、まぁタダじゃねーけどな。3時間なら食い放題だ!」

「ワー!!」

「キャー!」

「超、おいしそー」

「わたしケーキからたべていい」

「やっぱラーメンっしょ」

 各々奇声を上げながら、彼女らは席に荷物を置くのも惜しいと、てんでに自分の食べたいものを山盛りに持ってきた。


 テーブルには山盛りの料理と肉。まぁ女の子とはいえ15名もいればこうなる。

「おいしーっ」

「売上で食べるってのが最高よね」

「ことねースゴイよ、ちょっと商売できんじゃない」

「美咲ももっとたべなよ、ペース遅いよ!」

 なんて声が飛び交う中、お替りやバイキングコーナーに置かれてる新しい食べ物が、どんどんテーブルに運ばれてくる。

 15名も座るテーブルの上は隙間なし。まさに満漢全席の大宴会となった。


 食べたい放題!しゃべりたい放題!さわぎたい放題!

 とはいえ1時間も過ぎると、さすがに食べるペースが落ちてきた。

 食べ続けているのだから、当たり前である。

「はふー、もうお腹いっぱい」

「スカートちぎれる~」

「ひなちゃん、ホックあけてる?」

「うん、もう閉まらない・・」


「あと、一口でも食べると出る・・・」

 美咲が苦しそうにい言う。

「ちょっと、ここでゲロるなよ」

「ぜったい腹押さないでー!」


「みてこのハラ、胸より出てね」

「あはは、マジ出てるし」

「どれどれ、わたしも見る」

「ホントだ。だれがイチバン出てるか比べっこしない」

 みんながぞろぞろ集まってきた。

 みんな長椅子に横にならんで座り、お互いのお腹をさわって確かめ合う。

「一番出てるのだれ?」

「うーん、やっぱ梓かな」

「このこんもり、ふっくらが気持ちいいくらい」

「やめて、そんな押さないでよ」

 と梓はイヤイヤをした。

「まだ食べれるの」

「もう食べられないかも」

「だよねー、やっぱ、ギャル○○すげーわ!」

 明らかに食べ過ぎなみんなが同意した。


 そんな中でも、

「わたしも、もう少し頑張ってみよっかな」と、けいちゃんが箸をとり、しゃぶしゃぶをがぶっとすくってチャレンジするが、

「うっ!」

「大丈夫?」

「・・・」

 青い顔をしてなんとかゴクリと飲み込む。

「あ、あぶなかったよ」

「こっちがひやひやしたよ」

「へんなもん、見せんなよ」

「あはは」

 こんな大食いチャレンジに馬鹿ウケし、もうお腹一杯なんて言いながら、余裕がある子はデーザートのケーキをのんびりつまみつつ、勝利に酔いしれる女子15名は、またまだだべり続けるのであった。

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