第29話 3人の子供
昔、銭湯にいた 「
おっさんはこの3人を指して 「三平」 って言ってるのだろうか。つまり人の名前じゃないってことだな。グループ名って感じ? それともこの子たちの誰かが 「三平」 という名前なのか。親父が
見分けが付かないんだけど……
夏に撮った写真だろうか? 3人とも半ズボンにランニングシャツで、裸足にボロボロの草履を履いてて、帽子を被っていたり虫取り網を持っていたり。なんか、本当に昔の子供が写っている。たぶん昭和ってやつ。
きっとこの狭い集落を、この格好で毎日朝から晩まで走り回っていたんだろうな。そんな気がする。あくまでも俺の勝手なイメージだけど、この写真を見ているとそんな情景がこう……脳裏に浮かんでくる感じ?
「よく似てるだろ? 生まれた時から知ってる俺でも、黙ってりゃあ誰がどれだかわからんくらいだったからな」
写真を見て驚いている俺に、笑顔のおっさんは少し自慢げに話し出す。始まったよ、年寄りの昔話が……あ、いや、別にじいさんほど年寄りってわけじゃないけどさ。親父と同じくらいの歳だから、えっと四十代くらい? たぶん……。
おっさんは 「三平」 を一卵性の三つ子だっていうだけど、三つ子で? 双子なら聞いたことがあるけど、三つ子で一卵性というのはちょっと嘘っぽい。どれだけよく似ているかを強調したいだけなんじゃないかとか、ちょっと穿ったことを思ってしまう。
ちょっと胡散臭いんだけど、でもそこはいま問題じゃないし。今さら言っても仕方がないし、そもそもそこを問題にすると俺の頭の程度っていうの? 偏差値とかバレそうだし、ここは聞き流しておく。俺ももう高校生だし、そんな子供じゃないんだから聞き分けないとな。
三つ子を見分けられたのは親ぐらいっておっさんはいうけれど、でもやっぱり性格が違うから、しゃべったりするとすぐ見分けが付いたらしい。あと遊び方とか。
それが三つ子の名前で、3人ともに 「平」 の字が使われているからまとめて 「三平」 って呼んでたそうだ。つまりあだ名みたいなもんだったわけだ、3人共通の。でもそう考えるとグループ名でも合っているのかもしれない。
三つ子だから一緒に生まれたわけだけど、一応周平、つまり親父が長男で、3人の中じゃ1番しっかりしていたらしい。次男の庸平は一番大人しくて、いつも2人のあとをついて行く感じだったって。で、三男の航平は一番わがままで乱暴者だったそうだ。
ま、こんだけ性格が違ってりゃ確かにすぐ見分けられるよな、動けば。結局三つ子だから、喋ることもなければ動くこともない写真だと全然わからない。こればっかりはどうしようもなくて、おっさんでもこの写真の三人は見分けがつかないらしい。
そんな三つ子の親は事故で亡くなった。それはあまりにも突然のことで、普段は静かなこの集落も騒然となったらしい。
「とりあえず葬式なんかは村のみんなでやったらしいけど、見ての通り、今だってそんな余裕のある村じゃない。当時はもっと貧しくてさ、結局3人はどこかの施設に預けられてたって話だ」
おっさんは親父たちと同い年の同級生。当然当時はまだ子供で、近くに佐々木の親戚とかがいたかどうかは知らない。けれど少なくともこの集落には、兄弟の身内はいなかったそうだ。
「3人とも同じ施設に引き取られたんですか?」
「そのはずだよ。そんな施設、そこら中にないだろ? だったら同じところが引き取るしかないだろう?」
言われてみりゃ確かにそうだ。そうなんだけど……でも、どういうことだ? じいさんは施設で親父と会った時、確かに1人だったと言ってた。
やっぱ耄碌したか?
当時、まだ小学生だったこのおっさんは、当然のように親父たち兄弟を引き取った施設を知らない。調べようにも30年も前のことじゃ、記録とか残っているかどうかも怪しいもんだ。潰れて施設そのものが残っていないかもしれないし。ほら、一時期統廃合って流行ったじゃん。あれで色んな施設がなくなったっていうもんな。
もし親父たち兄弟が引き取られた施設がわかったとしても、記録が残っていたとしても、簡単には見せてくれないと思う。物凄いデリケートな個人情報だし、誰でも見られるものじゃないよな。っていうか、誰であっても簡単に見せてもらえるものじゃないと思う。
ここはやっぱ身分証明っていうか、親父の息子ってわかるように生徒手帳を持ってくるべきだったかな? 突然行ってそんな記録見せてくれなんて言ったら、俺、ただの変な高校生じゃん。
どうする? ……つづく
【後書き】
ちょっと行き詰まった感じなんですけど。
問題点がわかったのはいいんですけど、この先どうするよ、俺?
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