第20話 手紙の行方
本能っていうの?
なんかさ、見ただけで危険を感じるんだよ。その固そうな素材というか、踵の高さというか……いや、サンダルのフォルム? たぶん同じ男ならわかると思う。ついでに言えば、この雪緒からも俺は危険を感じる。身の危険をヒシヒシと感じるんだよ。ジュースなんてもうどうでもいいから、家に帰りてぇ。
ダッシュで帰ってやろうかな?
そのサンダルなら絶対走れないだろうし。ってか俺、そんなに足に自信ないけど、さすがに中学生の女の子には負ける気はしないし。負けたら恥ずかしいし。
負けたくないし……
「弟さんと似てるから、間違えちゃった」
恥ずかしそうに笑ってるけどね雪緒ちゃん、俺と清隆は似てません。そりゃ顔はちょっとは似てるかもしれないけど、性格とかね、全然似てないの。俺はあいつみたいに凶暴じゃないし、破壊的でもないし、きっつくもないの。
一緒にされたくねぇよ
「あの、このあいだあたしと会ったの、お兄さんの方ですよね?」
確かに雪緒ちゃんがうちのポストにわけのわからん手紙を届けに来た時、うちの前で会ったのは俺です。
だから何?
つまりさ、俺はこの時になってようやく手紙のことを思い出したわけ。清隆が訊いてきた手紙が、この子がうちのポストに入れてった手紙のことだってのも、この時になってやっとわかったってわけだ。
別に嘘ついたわけじゃないから。正真正銘、綺麗さっぱり忘れてただけだから。なんてここで清隆に言い訳したって仕方がないよな。いないんだから。いや、もちろん家に帰ってからも謝るつもりはないけどさ。
バックレ決定!
清隆にはバックレ決定でいいんだけど、雪緒ちゃんにはどうすりゃいいわけ? やっぱここは正直に言っとく? それともやっぱバックレる?
どうする、俺?
だってさ、返すにしても俺、あの手紙丸めちゃったよ。親父への怒りを込めて思いっ切り丸めちゃって、もうシワシワのくちゃくちゃ。どう考えたってあの手紙、返すわけにはいかないでしょ。やっぱバックレか。
「ほんと、よく似てますよね。弟さんの方がちょっと背が高いんですか?」
「いや、俺の方が高いけど……」
まぁ2㎝の差なんて見た目じゃわからないよな。でもいつも 「同じくらい」 じゃなくて 「ちょっと弟さんの方が高い」 って訊かれるんだよな。やっぱあいつの方が体格がいいからかな?
この子さ、いま話してる感じだと、別に清隆のこと怖がってる感じじゃないし。朝もそうだったけど、夕方も揉めてる感じだったのにあいつのこと怖くないんだ。さすがに血は争えないっていうか。
だってほら、雪緒の父親が親父なら俺たちは異母兄弟ってことになるわけで、俺とも清隆とも血は繋がってるってわけだ。……なんか清隆が知ったら仏壇ぶっ壊して、墓石蹴倒しそうだな。あいつならやりそうだ。ってか絶対やる。んで、母さんに怒られるわけだ。もちろん俺も一緒に。
勘弁して……
「お兄さんの方が細いから、弟さんの方が大きく見えるんですか」
「そうなのかな? 考えたことないけど」
「あの時の手紙、もうお父さんに渡しちゃいました? 弟さんはそんな手紙知らないって言ってるんですけど、あの中身見てお父さんに渡さなかったとか?
だったら返して欲しいんです」
それで清隆が手紙を探してたわけだ。納得、納得。だからって玄関で待ち伏せすんなよ。学校で追っかけ回すなよ。
あのアホ
清隆が手紙を探してた理由とか、あいつが俺をトイレに閉じ込めて詰問した理由なんかはこれでわかった。あいつ自身が何か勘づいたわけじゃないことに正直俺はほっとしたんだけど、これはこれで手放しで喜べる状況じゃないんだよなぁ。
本人が手紙返せって来ただけならまだしも、俺、あの手紙丸めちゃったし。あんな手紙返せるわけないだろ。一目見ただけで、俺があの手紙をどうしたかわかっちゃうじゃん。そりゃさ、あんなことになってなけりゃ素直に返してあげてもいいんだけど、あれじゃねぇ……。
「あのさ、こんなこと訊くのもなんだけど、えっと雪緒ちゃんだっけ? 君のお父さんって、本当にうちの親父?」
どうやら同じことを、あるいは似たようなことを清隆にも訊かれたらしい雪緒は、本当に口をタコみたいに尖らせやがる。悪いけど、そんな顔するとぶっさいくなんだけど。いや、元は悪くないから普通にしてた方がいいってことで、決してブスって言ってるわけじゃないから、そこんとこ勘違いしないでよね。
「お父さんの名前は
ありゃ……隠し子決定だよ。いま、決定的瞬間を迎えましたよ、親父。この始末はどうつけるんだよ、おい。
ちょっと墓から出てこいや! ……つづく
【後書き】
というわけで紹介します、妹の雪緒です!
……じゃねぇよ、あのクソ親父。結局どういうわけ? 9年前に死んでる親父には、雪緒の父親になることは出来ても、数日前に雪緒の母親は殺せない。この物語はフィクションなんだけど、この先どうなるわけ?
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