第16話 まぁるいまさたか君
死者に宛てた手紙。切手もなきゃ住所もない、書かれているのは宛名だけ。ついでに言えば差出人の名前すらない。これは直接持ってきたって証拠だ。そしてさっきまでここに立っていた女の子。これはどう考えたってあの子がポストに放り込んでいったとしか思えない。
他にどう考えろってのさ?
なんかさ、すっげぇ嫌な予感がするんですけど。だってさ、あの子が親父になんの用があるっていうのさ? 普通はないだろ。でもあの子は親父に用があって、こうしてわざわざ手紙を書いて、直接家に持ってきた。どう考えたって嫌な予感しかしないだろう。
もちろん問題はこの手紙に何が書いてあるかってこと。まぁ何が書いてあるにせよ、母さんや
また喉仏、親指でグリグリされるんだよ
やばい、ヤバい、絶対ヤバい。絶対にそれだけは避けないと、命がいくつあっても足りねぇよ。いっそこの手紙、清隆宛だったらよかったのに。その方がどんだけ楽だったか、わかったもんじゃない。
神様だか仏様だか知らないけど、どんだけ意地悪なんだよ。俺、何かした? 何か悪いことしたっけ? お仕置きされるようなことなんてしてないよね? そりゃ信号無視はしたけど、その程度のことでこの仕打ちはないだろ? 神仏の倍返し……なんか鶴の恩返しっぽいな。恩返しなら何倍返しでもいいけどさ、罰の倍返しはいらねぇよ。
捨てる神あれば拾う神ありっていうけど、見捨ててくれる神様ばっかじゃねぇか。ほんと、世の中神も仏もあったもんじゃねぇ。世知辛い世の中って、きっとこういうことをいうんだな。
これも1つの社会勉強か……
なんかすっげぇ授業料が高そうなんですけど。なんでこんな受けたくもない授業受けて、たっかい授業料払わなきゃならないんだよ。
親父の野郎、死んで9年も経ってるのにいつまで俺たちに迷惑を掛けりゃいいんだよ。どんだけ尻ぬぐいさせりゃ気が済むんだよ。俺になんか恨みでもあんのか?
……ないと思うけど
いや、少なくとも俺には心当たりがない。あってたまるもんか。親父が清隆を連れてきた日だって、ちゃんと挨拶して……して……あれ? なんか記憶が飛んでるような気がする。なんであの日のことを思い出せないんだ? なんかあったっけ? それこそ記憶が飛んでしまうほど衝撃的なことが……。
俺が清隆に何かしたとか?
いや、少なくとも俺は何もしてない。絶対に俺はなにもしていない。なにしろ俺は、昔からご近所でも 「まぁるい雅孝君」 で有名だったんだから。したとしたら清隆だ。例えばあいつが暴れて、蹴り飛ばされるか吹っ飛ばされるかして俺はどこかで頭を打って、記憶……じゃなくて、意識が飛んだとか。まぁ結果として記憶も飛んだ、と……。
あり得るな
あいつ、昔っから乱暴者だったからな。とりあえず清隆が帰ってくるまでにこの手紙をなんとかしないと、喉仏グリグリじゃ済まないんじゃね? それこそ引導渡されそうじゃん。ほんと、命がいくつあっても足りねぇよ、あんな弟を持つと。
いや、別に嫌いじゃないけどさ
別に親父に義理立てとか、そんなんじゃないけど、そんなこと全く考えてないけど、あ、ほら、すぐに報告出来るようにと思って仏壇の前で封を切る。でも正確には切ってない。だって糊付けされてなかったからさ、普通に口がガバガバのパックリ。
お粗末だな
いくつか知らないけど、手紙の封は糊で閉じる、その程度のことは小学生でも知ってるだろ? しかもあの子、小学生どころか中学生ぐらいだったじゃないか。それこそ高校生だったらびっくりだぜ。あ、でも今時じゃ、なんでもメッセージ送って終わりだから手紙なんて出したことないのかも。
まぁその可能性もなきにしもあらずだけど、いずれにしたってこんなんじゃ書かれてることもたいしたものじゃないだろう……なんて思いながら便せんを取り出したら、これも可愛げの欠片もないでやんの。
ただの真っ白い紙
ほら、あれだよ、あれ、コピー紙だ。コピーだけじゃなくてて普通紙FAXとか、パソコンのプリンターとか、あれにも使う紙。サイズはB5判だ。そこにさ、直に黒マジックで文字が書かれていた。ほんと、色気も可愛げもないお手紙だ。
書かれていた文章といえば……
「親父、ぶっ飛ばされてぇか!」
もうさ、この瞬間だけは 「まぁるい雅孝君」 も吹っ飛びました。綺麗さっぱり吹っ飛んじゃいましたよ。あとで復元出来るかどうか、わかんないくらい粉々に吹っ飛びましたよ。
思わず手紙を仏壇に突きつけちゃいましたよ。いや、だって、もう信じられないことが書いてあったんだってば。
お母さんを殺したのは本当にお父さんですか
雪緒より
わかりやすい簡潔な文章です。本当に用件だけで、句読点すら付いてねぇ。ってか、何、これっ?! ……つづく
【後書き】
えーっと、これ、どういうこと?
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