第15話 死者への手紙

 清隆きよたかに気があるのか、朝っぱらからコクりに来たのか知らないけど、俺には関係ないから。すっげぇ格好悪いとこ見られたけどさ。よりによって大あくびしてるところ。


 ま、いっか


 どうせあの子も清隆狙いだし。俺には関係ないし。どうせ俺はモテませんよ。だからなんだってんだ。放っておけよ。俺もあの子なんて放っておくし。


 うがーっ!


 いや、清隆みたいに、それこそ清隆蹴り飛ばしちゃえれば楽なんだろうけど、ほら、別に清隆が悪いわけじゃないし。清隆のせいじゃないし。


 全部親父のせいなんだよ


 それで清隆蹴るのはやっぱ理不尽じゃん。そりゃ清隆はいつも理不尽に俺のこと蹴り飛ばしたり、突き飛ばしたり、首絞めたり、喉仏ゴリゴリしたりするけどさ。ま、そのへんは我慢だよな、一応俺、兄貴だし。そうそう、これが俺たち流のコミュニケーションってことなんだよ、きっと。


 言っとくけど俺、Mマゾじゃないから


 虐められて喜ぶ性格じゃないから。全然嬉しくないから。少しも楽しくないから。我慢してるけど蹴られりゃ痛いんだよ。喉仏ゴリゴリされたら苦しいんだよ。俺の痛覚はちゃんと生きてるから、呼吸もしてるから。


 だから加減してくれない、清隆君


 門を出た俺の視線にやっと気付いたらしい女の子は、俺と眼が合うと慌てて逃げていく。はいはい、大丈夫。清隆にはなにも言わないから。でもコクるなら自分でしてくれよな。手はず整えるとか、俺の趣味じゃないから。俺、そういうの出来ないから。


 したくねぇよ、クソ!


 なんか清隆を僻んでるみたいに聞こえるけど、これは最初にも言ったけど、俺は清隆のことなんて僻んでないから。全然僻んでないから。僻んでないから学校行くわ。

 さすがに俺も学習して、今日は遅刻もしなかったし時間割も間違えなかった。ついでにいえば弁当も忘れなかったけれど、授業中にずっと居眠りをしてしまった。そしてもちろん先生たちに怒られまくった。


 さすがに2日連続はヤバかったかな……


 クラスの奴らにも不思議がられて、ノート借りようとしたら 「大丈夫か?」 とか 「何かあったのか?」 とか言われたよ。さすがに今日はちゃんと寝て、明日は起きておこう。ま、起きてても授業聞いてなきゃ意味ないけどさ。

 いや、聞く気はあるんだよ、ちゃんと。あるけど……意思はあるけど行動がついてこないんだよね。こういうのなんて言うんだっけ? あ、そうそう!


 言動の不一致


 今日は寄り道せずまっすぐ家へ。さすがに2日連続寄り道したら、清隆に問い詰められそうだし。今日は大人しくしておこうと思って真っ直ぐ家に帰ったんだけど、またいるよ。誰がって? ほら、朝の子だよ。朝、角に隠れてた女の子。門の前に突っ立ってるよ。

 やっぱ中学生かな? もう学校から帰って、しかも服も着替えてる。近くの中学校だったら俺や清隆の後輩ってことになるんだろうけど、どうなんだ? ま、後輩っていっても、俺も清隆も部活してないから下の学年に知り合いなんていないけどさ。

 とはいえ清隆の顔は知ってるかも。なにしろあいつ、中学の頃から目立ってたし。顔がいい奴はお得だよな、それだけで女子に人気があってさ。いや、別に僻んでるわけじゃないから。


 全っ然僻んでないから


 最初は気付かない振りをしてたんだけど、気付かないまま家に入るのは不可能だ。だってうちの門の真ん前に突っ立ってるんだぜ。絶対に無理だって。それこそ透明人間にでもなれりゃ別だけど、無理だから。なれないから。

 塀を乗り越える? うん、まぁそういう手もあるけど、なにが楽しくて自分の家に泥棒みたいに忍び込まなきゃならないんだよ? 後ろめたいことなんてなにもないし、正々堂々と正面から入ります。 ……ということで、どんどん近づいていったら向こうも俺に気がついた。

 当たり前だけどさ。そしたら朝みたいに慌てて逃げてった。ちょっと傷つくよな。なんかほら、俺の顔を見て逃げたって感じじゃない。違うけど、でもなんか、ちょっと傷ついたんですけど。


 何してたんだ?


 まさか清隆が帰ってくるのを待ってたってわけじゃないだろうし。もしそうだったら勇気あるよな、家の真ん前で待ってるなんて。その勇気、ちょっとは評価してもいいけど、あくまでちょっとだけだから。

 何気なく覗いた郵便ポストには、茶色い封筒が一枚。どうせ清隆宛のラブレターだろうと思って、ちょっと捨てたくなった。いや、捨てなかったけどさ。どうせさっきの子が入れていったんだろ。その証拠に、表には切手も貼ってないし、住所も書いてない。ラブレターにしてはかわいげのない封筒だなと思いながら、念のため宛名を確かめる。


 あくまで念のためだから


 俺宛じゃないかとか、そんな期待してないから。本当にしてないから。これっぽっちもしてないから。全くしてないから。ほら、案の定……


 穂川周平様


 ……なんだよ、これ。さすがに俺も頭にきた。なんで親父宛なわけ。なんで今更親父にラブレターが来るんだよ。いや、ラブレターじゃないかもしれないけど、なんで親父宛に手紙が来るんだよ。これ、本当にもう何度も言ってるけれど、親父はとっくの昔に死んでるんだよ。

 死者に手紙って……どんなホラー? いや、死者に手紙は出せるか。死者から手紙が来たらホラーだけど、死者に手紙は出せるか。うん! ……とまぁ納得したところで新たな問題が浮上した。


 この手紙、どうするっ?       ……つづく



【後書き】

 なんなの、この展開?

 どうするんだよ、この手紙。仏壇にでも供えておくか? いや、駄目だ。絶対も駄目だ。母さんや清隆に見られたらどうするんだよ。絶対見られるよ、そんなとこに置いたら。こ、このまま俺が隠匿しとく? この物語はフィクションだし、親父には内緒で……

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