第13話 親父の免許

 はぁ~やっぱり警察なんか行くんじゃなかった。余計にこじらせちゃったじゃん。俺は状況を整理したかっただけなのにさ、おなしなことてんこ盛り。あり得ねぇてんこ盛りじゃん。


 こんな大盛りいらねぇよ!


 盛りすぎて食えねぇし。消化不良でトイレの住人になったらどうしてくれる。ってか、絶対トイレの住人になるって。食いたくねぇよ、こんな大盛り。


 絶対変な物、入ってるって!


 いや、食わず嫌いってよくないか。物は試しっていうもんな……いや、やっぱ食わねぇよ、こんなまずそうなてんこ盛り。同じてんこ盛りでも俺はちゃんとした晩飯が食いてぇ。だから家に帰ったらちゃんとした晩飯が食えると思ったのに、なんでか俺を出迎える清隆きよたか。しかもなんでか玄関で待ってやんの、こいつ。

 うちの玄関広くないんだから、でっかい図体で塞いでんじゃねぇよ、もう。しかもさぁ、玄関を開けた瞬間、ほんと、次の瞬間目が合ってむっちゃ睨まれました。どんだけ不機嫌? 俺、なんか悪いことしたっけ? ねぇ清隆君、俺、何かした?


「遅かったな」

「お帰りじゃないわけ?」


 普通そうでしょ? 家族が帰ってきたらお帰りじゃない。なんで 「遅かったな」 が先なわけ。しかも喧嘩腰だし。あぐら掻いて玄関塞いでたと思ったらさ、上目遣いに睨んできて。これがもう、すっげぇ怖いんだよ。


「どこ行ってたんだよ」


 なんですか、藪から棒に。俺の話、聞いてますか、清隆君。お兄ちゃん、いま帰ってきたところです。だから 「お帰りなさい」 って言って欲しいんです。で、お兄ちゃんは 「ただいま」 を言いたいんですけど。


 なんで敬語?


 しかも鳥肌立ったよ。また自分でお兄ちゃんとか言っちゃったよ。でもお兄ちゃんなんだよな、俺。だから清隆や母さんには余計な心配掛けたくないんだよ。だから学校帰りに警察に寄ってきたことも、そこで聞いた話も全部が全部内緒。絶対教えてやらね。


「ちょっとクラスの奴と寄り道」


 玄関を入った俺は清隆をまたいで上がると、そのまま階段を上がろうとした。そうしたら清隆もゆっくり立ち上がる。


「晩飯、何食う?」


 それがどういう意味なのか、俺にもすぐわかった。


「母さんは?」

「なんか今日、遅くなるってさ」


 それで俺と清隆には出前とって先に晩飯食ってろと、家の電話にメッセージが入ってたらしい。2人それぞれの携帯電話に連絡するのが面倒臭くて、家電に入れておいたってわけだ。

 その母さんが帰ってきたのは8時を過ぎた頃。どこ寄ってきたんだよ、こんな時間まで。


「母さん、免許持ってたっけ?」


 ちゃっかり自分の分だけコンビニ弁当を調達してきた母さんが、化粧も落とさず、仕事着のまま食い始めたところで訊いてみる。いや、急に親父の話を持ち出したら不審がられるじゃん。だから、とりあえず無難に母さんから訊いてみる。いわゆる前振りだよ、前振り。


「何よ、藪から棒に」


 せっかくの前振りだったけど、前振りになってない感じ。空振りっぽいんですけど。しかも清隆が睨んできた。お前、誰彼かまわず睨むのはよせ。俺はまだ何もしていない。いや、これからするわけでもないから。


「マサ、免許取るのか?」


 なるほど、その手で誤魔化せばよかったか。俺ってば気付くのが遅くて、気付いた時には 「いや、ま、その」 なんて明らかに挙動不審になっちゃっていた。これはもう完全に手遅れ。全く誤魔化せてない。


「あんた17なんだから、まだ取れないでしょ?」

「なんで? 原付なら16で取れるだろ」


 俺を無視して2人で話してやんの。ちなみに俺は4月生まれの17歳だけど、3月生まれの清隆はまだ16歳。だから2人とも、まだ原付免許しか取れないわけ。


「何言ってんのよ。18で車の免許取ったら原付も乗れるんだから、わざわざ原付取りに行くなんて無駄でしょ」


 さすが母さん。時間とお金と手間の 「無駄3拍子」 を省きますか。お見事です。いや、別に俺は免許なんて取りに行きたいわけじゃないからいいけど、ひょっとして清隆は取りたいわけ?


「あんたたち、別に取ってもいいけど事故には気をつけなさいよ。

 それと、自分でバイトしてお金貯めなさい」


 さすが母さん、しっかりしてます。ほんと、財布の紐堅いんだから。いや、別に小遣い上げろとか、そんなことは思ってませんから。ほんと、全く思ってませんから、はい。

 ちなみに話が逸れまくり。ってか逸れすぎでしょ。こっからどうやって進路変更するんだよ。二車線くらい変更しなきゃ戻れないじゃん。二車線ってさ、一気に変更して大丈夫だっけ? 一車線ずつしか出来ないとか。あーでも追突とかされそうだよな、さすがに二車線一気に変更したら。追突されて、車道からはじき出されそうだよな。


「父さんも持ってなかったっけ、免許」


 色々考えたんだけど、結局回り道をし過ぎてストレートに二車線変更しちゃった。だってさ、面倒でつい……。


「あんた、さっきからなんなの?」


 ちょっと追突されたっぽい母さんの返事。おかげで俺、ちょっと弾き出されたっぽい感じになってる。


「いや、ちょっと思ってさ。ほら、うち、車ないし」

「持ってなかったわよ、運転免許なんて」


 だよなぁ、やっぱ。俺の記憶に間違いなかったじゃん。いや、記憶に間違いなくて当然だろ。俺はまだ高校生だし、記憶力衰えるには早すぎるだろ? そりゃさ、公式とか綴りとかは全然覚えられないけどさ。だってさ、大人しくすわって先生の話聞いてると、どうしても眠くなってきちゃうんだよな。あの念仏みたいな授業、なんとかならねぇ?


 刑事の話じゃ、親父の名前で発行された運転免許証は今も健在で、もちろん有効。つまりどこかの誰かが所持してて、使ってることになってるらしい。有効期限が来るたびにちゃんと更新もされていた。当然のことだけど、親父以外の誰かが 「穂川周平ほがわしゅうへい」 を名乗って使ってるわけだ。


 ちょっと気になってネットで調べてみたんだけど、運転免許の更新って住民票とか要らないらしい。必要なら親父、つまり 「穂川周平」 は死んでるから更新出来ずとっくに失効してるはずなんだけど、必要ないから免許証は更新され、今も有効に使われてるってわけだ。


 ついでにもう1つ調べてみた。指紋についてだ。聞いた話じゃ、人のDNAは一卵性の双子だと同じになるらしい。だからひょっとしたら指紋も同じになるんじゃないかと思って。つまり親父に双子の兄弟でもいたんじゃないかって思ったわけなんだけど、残念ながらこれも空振り。

 今日はほんと空振りばっかり。ホームランはないにしても、ヒットどころかバットにかすりもしない打率不振。ったく、変化球とか隠し球とか、やめろよな。直球で勝負しろっての。男なら正々堂々と来いや。いや、ちょっと待って。俺、別に野球部じゃないから。速球なんて打てないから。


 ああ、かすりもしない理由はこれか


 指紋っていうのは本当にバラバラで、同じ指紋を持っている人間なんていないと言ってもいいらしい。それこそ一卵性双生児でも、似た指紋になることはあっても、やっぱり別物に出来上がるらしい。


 よって双子説はボツ    ……つづく



【後書き】

 結局俺、今日も寝不足なんですけど。

 しかも今回、ちょっと長めだったし、疲れたぁ……この物語はフィクションです。言うこと言ったから、じゃ、おやすみ。

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