第5話 決定的!
かなりって言うからには、普通じゃないんだろうな。そのくらいの違いは俺にもわかる。でもさ 「かなり重要な参考人」 って何? 普通に重要な参考人とは違うってこと?
そもそも参考人って何?
容疑者とか犯人とは違うってこと? なんか不親切な奴らだよな。相手が高校生だってわかってて、小難しい言葉使うなんて。
それとも何か? わざと小難しい言葉を使って、どうせわからないだろうなんて心の中で俺のことを馬鹿にしてるとか? この可能性が一番高そうだな。うん、きっとそうだ。
わかった
そっちがそのつもりなら、俺にも考えがある。どうするかと言えば、もちろん知ったかぶる。これしかないだろう。わかった振りをして、対等な立場を維持するのだ。
知ってる振り
そう、わかってる振りをしてやるのだ。これで立場は対等だ。こんな変態たちに足下を見られたら、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
それこそ足を踏まれそうだ
あ、踏まれたら踏み返せばいいのか。いや、踏み返したらきっと 「公務執行妨害」 だな。逮捕されるぞ。それはちょっと怖いな。じゃ、仕方ないから踏まれても我慢してやるか。
ま、知ってる振りをしておけば足を踏まれることもないから問題ないな。
いや、問題はそこじゃない。根本的な問題が別にあるじゃないか。
「親父の指紋って、どういうことですか?」
だってあり得ないだろ。もう何度も言ってるけど、親父は死んでるんだ。もう骨だけなんだよ。死体には指紋もあるだろうけど、皮、焼けちゃってないから。肉と一緒に焼けちゃったから今は骨だけ。
骨に指紋なんて無いだろっ?
「倒れていた被害者のそばに、穂川周平さんの指紋がついたグラスが落ちていたんです」
決定的証拠じゃん!
いや、親父の決定的犯行証明じゃなくて、親父がその殺害現場って場所にいた間違いない証拠。ほとんど聞き流していたけど、確かその殺害現場ってどこかのスナックだっけ。じゃ、何? 親父、酒飲みにその店に行ったってこと?
だってスナックっていうからには酒飲む場所だろ? 確かカラオケとかも出来るらしいけど、俺は未成年だし、行ったことないし、まだ行けないからよくわからないけど、綺麗なお姉ちゃんとかがいて接客してくれるような場所じゃなかったっけ?
なんか不健全な感じ?
いや、それは結構高級な店だな。あの親父の小遣いで行けるような店なんて、こう、寂れたっていうか、くたびれた感じの薄暗い店だ。そうに決まってる。で、やたら化粧の濃いおばちゃんママが、たばこをふかしながら酔っ払いを適当にあしらってるんだ。たばこの煙をプカーと吐き出したりしてさ。
きっと親父もあしらわれたに違いない。で、顔に煙を吹きかけられてゴホゴホむせ返ってるんだ。そんな親父の姿を想像したらなんか情けねぇ~って思うんだけど、親父らしいとも思う。ちょっとというか、かなりのお人好しだったからな。
まさか……
酔っ払ってパンツ脱いだりしてないだろうな? せいぜいおばちゃんママとカラオケデュエットで我慢してくれ。頼むから、これ以上母さんを怒らせるようなことはしないでくれ。もうさ、俺は自分の部屋を片付けるだけで手一杯だから、夫婦喧嘩の仲裁にまで手がまわらないから。
親父も人生のリセットボタン、要る?
ま、そんなわけだから、母さんに殺されない程度にボコられてくれ。
ここ、肝心
親父はもう死んでいる。まずはここを基本に考えてくれ。そう、親父はもう死んでるってことを不動の事実として考えると、その殺害現場の、場末のスナックに親父は行っていない。行けるはずがない。足はあるけど骨だけだしな。しかももうバラッバラだし。
でも変態刑事2人は親父がその場にいたと言う。証拠は、殺された人のそばに親父の指紋がついたグラスが落ちていたってこと。
どういうこと?
不動の事実はテコでも動かないから、親父が死んでいることは間違いない。金だって持ってないんだから、酒だって飲みに行けるはずがない。だいたい足だって骨しかないんだ、1人でふらふら歩けるはずがないんだ。骨壺からだって出てこられねぇよ。上に重い墓石だって乗ってるし。
墓荒らしにでも手伝ってもらえば別だけど、うちの墓は狙われるほど立派なものじゃない。てなわけで、墓荒らしの手伝いは期待出来ないから、親父は墓から出てこられない。
だいたい指紋がないんだよ。もし、もしもだよ、あくまで仮定だけど、親父が犯人だったとして、足跡は残るだろうけど指紋は絶対に残らない。皮がないんだから。
これはひょっとして証拠の捏造ってやつ? 死人に口無しを利用して、親父に罪を着せようとしてるってこと?
誰がなんのために? ……つづく
【後書き】
なんか俺、今回まともなこと言ってね? ちょっと頭良さそうだよな。でも雲行きがすっげぇ怪しくなってきてるんだけど……どうなるわけ? あれ? ひょっとして俺がまともなこと言ったから、怪しくなってきたとかっ? え? 俺の責任なのっ?
あ、そうそう。この物語はフィクションだから。
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