第3話 やっぱり公務執行妨害は怖い
三日坊主って言葉があるよな。三度目の正直って言葉もあるし。これで3回目だし、終わるよな? ってか終わってくれよ。
だいたいさ、なんで今更親父のことを訊かれるわけ? もう死んでるんだよ。親父のことで揉めるのはもううんざりだ。せっかく
いや、いるんだけどさ……
今、俺の目の前で階段駆け上がっていったんだけどさ。お巡りさんって、市民の安全を守るためにいるんだろ? そのお巡りさんの暴挙はどうやって止めたらいいんだよ?
目には目を、歯には歯を
ってことは、お巡りさんを止めるのはお巡りさんか! いや、あいつら身内に甘いっていうし。下手に通報なんてしたら俺が捕まるんじゃないのか? こんなこと言ってるだけでもヤバくね?
冤罪!
なんか俺、むっちゃ頭冴えまくりなんだけど。こんな時に冴えても意味ないんだけど。今日の数学の時間にこのくらい冴えてりゃよかったのに! ってか、朝からこんだけ冴えてりゃ寝坊しなかったんだよ!
俺ってば、使えねぇ……
ひょっとして俺が勘違いしているだけで、実は正義の味方はお巡りさんで、刑事は別物とか? 奴らは正義の味方じゃなくて、実は悪の秘密結社の捜査員だったりして……。
絶対下っ端だな
俺の無意識の行動を誤解した刑事たちは、俺を押しのけて家の中に上がり込んだと思ったら、2階への階段を駆け上がるから俺も慌てて追いかける。条件反射みたいなもんだな。
奴らが真っ先に入ったのは俺の部屋だ。別の清隆の部屋に比べて、俺の部屋が胡散臭かったからってわけじゃないだろう。廊下からそんなことがわかるはずないし。
あ、ドア開けっ放しだった……
仕方ないだろ、朝は2時間目に間に合わせようと思って慌ててたんだから。でもおかげでドアは壊されなかったわけだけど。
ほら、よくTVドラマであるじゃん。刑事が犯人の隠れ家を捜索する時、ドアを勢いよく蹴破るの。あれやられたらさすがにたまらないもんな。
奴らは踏み込んだ早々、俺の部屋をざっと見回す。どうせ狭い部屋だ。2人の目で見なくても、誰もいないことはすぐにわかる。だからもう1人は清隆の部屋に行けばいいのに、2人揃って俺に部屋に入りやがった。
だから狭いんだって!
慌てて追いかけて部屋に入った俺だが、おかげで出入り口までしか入れない。なのに奴らときたら部屋の主をそっちのけで、まずは窓を開ける。
臭いのか?
いや、そんなはずはない。案の定、奴らは空気を入れ換えたんじゃなくて、親父が窓から逃げたんじゃないかと疑ったらしい。ちょっと押せば落ちるんじゃないかってくらい身を乗り出して、外を見てやがる。
これ、押してもいいやつ?
ほら、あるじゃん。有名な人気芸人さんの持ち芸に、押すなよ押すなよってやつ。これはあのパターンとか? いや、もちろん押さないけどさ。俺、意外なくらい小心者だし……じゃなくて立派な良識人だから。
なんか刑事ドラマみたいだよな
でもあの親父に、2階の窓から飛び降りられるほどの運動神経があったかどうか。なかったように思う。よく覚えてないけどさ。とりあえず親父の印象を悪くするため、運動音痴ってことにしておこうかな?
いや、嘘は駄目だ
やっぱり 「公務執行妨害」 は怖い。誰だって怖いよな? 俺だけじゃないよな? だから嘘はやめておく。本当に怖いのは 「公務執行妨害」 じゃなくて 「逮捕」 だってことに俺が気づくのはもっと後のことなんだけど、そんな俺には目もくれず、2人の刑事は俺の部屋を漁り始めた。
まずクローゼットの中
まぁ普通だな。いわゆる捜索のセオリーってやつ。くれてやってもせいぜい及第点だ。俺が優しい市民でよかったな、お前ら。これが清隆だったら、奴は辛口だから絶対赤点くれてるぞ。昔っからご近所じゃ 「まぁるいまさたか君と、きっついきよたか君」 で有名だったんだよ、俺たち兄弟は。
奴らが次に狙ったのはチェストだ。勢いよく引き出しを引き始めたぞ。
って、おい、ちょっと待て!
お前ら、そんなところに人間が入れると思ってるのか? こいつら、本気でそんなこと思ってるのか? お前ら、本当に刑事か? ここはやっぱ警察呼んだ方がいい? ひょっとして俺、人生の分岐点ですっげぇ重要な選択間違えた?
リセットボタン、ないの?
とりあえず、引き出しに人間なんて入れねぇーよ。しかも開けた引き出しを閉めねぇときた。閉めずに次の段を開けられるよう下の段から引く、それって泥ボーの常套手段というか基礎知識的なやつじゃね?
ひょっとしてこいつら、泥ボー?
警察名乗って上がり込む、新手の泥ボー? なんかありそうな手口じゃん。ちょっとヤバくね? やっぱ警察呼ばなきゃ駄目じゃん。
いや、こいつら警察だし……
引き出し開けるのはいいけど……いや、よくないけど、中に入ってる服まで引っ張り出すのはやめてくれ。なんで全部出すわけ? あとで畳み直す俺の身にもなれよ! ああ、しかもパンツを1枚1枚見てるし。なんかやってること、ストーカーっぽいんですけど? ひょっとしてこいつら、警察でも泥ボーでもなく、真の姿はただのストーカー?
ここはやっぱ110番?
言っとくけどそのパンツ、俺の趣味じゃないから。母さんが勝手に買ってくるんだから。それしかないから、仕方なく穿いてるだけだから……なんて俺の本音は母さんには内緒でお願いします。
絶対に言わないでくれ!
あんたらね、俺が体育の時、学校でどんだけ恥ずかしい思いしてるか知ってる? そのパンツのせいで。最近は学校の奴らも見慣れてきて見て見ぬ振りしてくれるからいいけど、もし! もしもだよ! 俺に彼女とか出来たらどうするわけ、そのパンツ!
いや、ひょっとして、俺に彼女を作らせまいという母さんの陰謀か?
……あり得ないな
もちろん俺がモテないとか、そういうことじゃないから! 清隆も母さん趣味のパンツ穿いてるけど、ちゃんと彼女いるし。
それってやっぱ、俺がモテないってことじゃん
もうパンツはいいから仕舞えよ、お前ら。なんでパンツだけ1枚1枚見てるわけ? 変態だよ、変態! あんたら刑事じゃなくて、ただの変態だ!
ひょっとして親父のパンツを探してる?
ないから。俺の部屋に親父のパンツなんてないから。あるとしたら母さんの部屋だから。
いや、本当にあったらちょっと嫌だな。だって親父が死んでもう何年も経ってるんだぜ。それなのに親父の形見にパンツを後生大事にしまい込んでるなんて……
母さん、ごめん
ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ母さんの趣味を疑ってしまった。こんなことが母さんに知られたら、晩飯抜きじゃ済まないな。1週間くらい飯抜かれそう。言っておくけどな、うちの母さんはそのくらい平気でやるから。本気でやるから怖いんだよ。だから今のは無かったことで。
まだパンツ見てるよ、こいつら……
だから死体はパンツなんて穿かないから。いや、死体は穿いてるかも。そうだよな、死体は穿いてるよな。うん。ごめん、俺が悪かった。素直に謝ります。俺、自分の非はちゃんと認められるタイプです。だから謝っておく。
でも親父はもう死体じゃないから。骨しかないからさすがに骨はパンツ穿かないと思う。いや、絶対に穿かないというか、もう穿けない。
いっそ骨壺にでも穿かせておくか?
ってかさ、あんたらパンツはもういいから。欲しいなら、1枚くらいあげるから。俺が穿いたやつだけど、それでよけりゃ……よくないよな。絶対よくない。全然よくないからパンツあげる発言は撤回させてください。
それよりさ、俺は今、凄く重要というか、重大な問題に気がついた。
ひょっしてあんたら、うちに来た目的忘れてない? ……つづく
【後書き】
もういいけどさ、こうなったら白黒はっきりつけなきゃならないだろうから、続いていいよ。
でもさ、これ、ちょっとヤバくね? だってさ、ラストに 「この物語はフィクションです」 って書いてないじゃん。あれ? ノンフィクションだっけ? どっちでもいいけど……いや、よくないからちゃんと調べて書けよ。 って俺が調べるのかよっ? なんで俺がっ? 面倒臭ぇ~!
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