世界は変わったのなんてなんて、これっぽっちも言えないのかもしれない


女、いや、少女は鉄格子の内側でへたりこんで、力尽きたように力無く座っていた。囚人のような鉄格子のようだが、これはこれで意味合いが違う。この鉄格子は白くない、黒いのだ。少女はまさにここで生まれてきましたとのように言っているかのようだ。然し、少女は記憶があまり鮮明ではない、嫌な思い出があったのか、或いは抹消したのか、しかし自分が誰だかは分かっている、本能的に自分の美しく艶のある白い髪に触れる。1メートル近くある長い髪はサラサラでまるでシルクの様な肌触りの良い髪。そして蛇口を少し捻り、顔を洗って歯を磨いた後に自分を鏡で映し出してみる。

整った顔立ち、否、それ以上か?そして紅く潤っていて綺麗な瞳。そして自分の容姿もみてみる、ーーあまり期待はしていないのだけれど、しかし見てみると予想外、ウエストが引き締まっていて、ボロボロのドレスに少しはみ出ている豊満な胸、そしてお尻。嗚呼ーー私は、私は、アノトキワタシハナニヲシテイタンダッケ?

ーー思い出せない

ーー思い出したくない、脳がNOと言っているようだ。もし思い出したらなにか嫌なことがわかるような気がしてならなかった。でも私は覚えている部分もある。今黒い鉄格子の中にいること、何故か知らないが外の威勢のよく、五月蝿気味な声は全く聞こえない。何故だろうかと私は思ってみる。しかし鉄格子の外には出ようと気は全くと言っていいほどに進まなかった。これは必然か、偶然なのか誰にもわかるはずもない。

小鳥の囀りが私の耳をくすぐっている、いい声だなと不意に思ってみる。それにしても静か過ぎる、もしかしたらかっこうがいい声を上げて鳴くような静寂に包まれていて少し不信感を抱いているのを覚えていた。鉄格子の窓越しに光が見えているのが見えて。覗いてみる。

そこには.......

目を見開いた、目を見開かずにはいられなかったのが自分の本心であった。なんと街が血で溢れかえっているからだ。それなら静寂な理由が納得出来るであろう、しかし悲劇はこれだけじゃない。記憶が戻ってきそうな気がした。ーー戻ってこないで!心からそう願ってしまった。やがて心の声は自分の耳に残響を残し消えていった。少女の美貌に引かれ集団強姦された事実も、少女はまだ知らない。その少女“チャイミー・エクレエイラ”は目を閉じて祈るのみだった。

本当は自分で殺しているのに記憶が抹消しているためか覚えていないようだ。

チャイミーは一つため息をついて、指を鳴らした。

「完全消去(オールデリート)」

瞬く間に死体が消えていく、しかし吹き上がった血飛沫には効果がないようでこびり付いたままであった。ーーそれでもいい。日が登る太陽にチャイミーは手を伸ばした。

「私は.....化け物...?」

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