第41話 報告

 ガレオスたちは院長が説明をしている間に馬車を見つけ、いつでも旅立てるように修道院前で待機していた。

「さて、どれだけついてくるかだな」

「あんた、言うだけ言ったけど、森でどう動くかとか考えてないでしょ。あの森、かなりのモンスターが出るのよ?」

 彼の性格から考えなしであろうことを察して呆れたようにリョウカがそう指摘する。

「わ、わかってるぞ。な、なんとかなるだろ。なあ、フラン」

 ガレオスは実際のところ彼女の言う通り何も考えておらず、全てをフランに丸投げするつもりだった。


「そうですね……どれくらいの人数が帯同するかわかりませんが、なるべく縦に伸びないようにしましょう。そして先頭にガレオス隊長、少し下がったところをサカエ隊長。ここに姫を配置しましょう。またその後方を私が、最後尾にバーデルさんが位置して、ところどころに修道騎士の方で怪我の少ない方にカバーに入ってもらいましょうか」

 そんなガレオスに慣れきっているフランは陣形をすでに考えていた。ガレオスが院長に提案した時点から情報を頭の中で整理していたのだ。

「そうね、それがいいわね。さすがフランだわ。それに引き換え……ガレオス、あなたもちゃんとこういうこと考えて発言しなさいよね」

 リョウカは頼もしいフランを称賛し、彼女に任せきりで何も考えていないガレオスにため息をついていた。


「い、いいんだよ。だからフランが副長にいるんだからな」

「ふふっ、そうですね。隊長はそのままでいいと思います、そのための私ですから」

 分が悪いとどもるガレオスの言葉にフランは満面の笑みで頷いていた。真っすぐに迷いなく進むガレオスを支えることが自分の使命だと思っているからだ。

「はあ、あなたたちはそうなんでしょうね。まあいいわ、修道院の人たちもそろそろ出て来たみたいだし、さっきの陣形でいきましょう」

 この二人はそういう関係であったと騎士隊時代のことを思い出しながら話すリョウカの言葉通り、修道院から続々と人が出て来ていた。


「みなさんお待たせしました。数名は残ることになりましたが、ほとんどが私と共に来ると選択しました」

 残る判断を下した者は全員高齢であり、長距離の移動についていくことが難しく、また修道院への思い入れが強い者たちだけだった。ついて行ってもみんなの足を引っ張るくらいならば、思い出のある地で果てたいという思いの結果だろう。

「……そうですか、わかりました。早速出発しましょう、一応我々四人が一定の距離で守りにつきますが、修道騎士の中からも戦力を出してもらえると助かります。南の森はモンスターが多いので、一人でも守りが多いほうが良いと思います」

「承知しました。怪我がない者や動ける者は守りにつかせますね」

 院長はフランに返事をすると、ためらうことなくすぐに修道騎士へと指示を出しに行く。騎士長がいないため、彼らに指示を出せるのは院長だけだった。今まで表立って指示するのはほとんど騎士長に任せていたが、彼の死を機に院長にも思うところがあるのだろう。


「さあ、ここからは私たちががんばる番ね。森の中でみんなを守り切るわよ」

 森を見上げたリョウカは亡くなった修道騎士たちに敬意を持っており、その彼らの分も戦おうと考えていた。

「まあなんとかなるだろうが……俺たちがここに来る時に倒した大王蛇クラスが出たら、少し本気を出さないとまずいぞ」

 気合の入っている彼女を見ながら、ガレオスは森を通った時のことを思い出していた。

「大王蛇!? あんたたちそんなの倒してきたの? というか、この森そんなのまでいるの?」

 魔物が多いと分かっていても、そこらのものとは格が違う魔物の名前が出たことでリョウカは訝しげな表情でフランに視線を移して質問をする。


「えぇ、なかなか強かったです。まああれほどのモンスターがそうそう何度も現れるとは思えませんが」

 そう彼らが話をしていると、指示を伝え終えたのであろう院長が戻ってくる。

「お待たせしました、あなたたちの指示で動くよう話してきたので、よろしくお願いします」

 以前の砦を攻め落とすという話の時の院長とは違う顔つきで頭を下げた彼の後ろには数人の騎士がついてきていた。

「よろしくお願いします!」

 びしっと敬礼する騎士たちの中にはガレオスたちの戦いぶりを見ていた者もいたため、この指示に反対する者は少なかった。


 森の中では途中、モンスターに襲われることもあったが、来る時のような強力なものはおらず、無事に一人も脱落者を出すことなく抜けることができた。

 街に辿りついた一行は、一旦外で待機してガレオスたちがイワオへと説明に向かった。




 職人ギルド ギルドマスタールーム


「うむうむ、お主らに任せて正解だったようじゃな。姫嬢ちゃんを無事連れて来てくれたようじゃし、戦力も増やしたようじゃな。しかも二人……そっちのお主は強そうじゃが、何者じゃ?」

 笑顔でガレオスたちを受け入れたイワオはそこで一息つくとすっと目を細めてバーデルを見ながら質問した。

「お、俺は」

 強き者がもつ独特の視線の鋭さになんと説明したものか考え、言葉が詰まったバーデルの言葉にガレオスが続いた。


「こいつはバーデル。元八大魔導だ、八位のな」

 それを聞いたイワオの眉根がピクリと動いた。八大魔導と聞けば武源騎士団の一番の敵であり、その人物を守るべき姫と一緒に目立った拘束もせずにつれてきたことに引っ掛かりを感じたのだ。

「……どういうことじゃ?」

 イワオはさらに眼光を強めて質問する。その質問を受けたバーデルは迫力に押されて一歩後ずさってしまう。

「いや、その」

 口ごもるバーデルのその肩に力強くガレオスが手を置いた。


「こいつは砦で俺と戦った。結果は俺の勝ちで氷漬けにして封印したんだが、俺たちに力を貸すことを条件に封印解除してやったんだ」

 きっぱりとガレオスは自分の判断で連れて来たことを包み隠さずイワオに説明する。

「念のため、私のほうで用意した首輪をつけてもらっています」

 口添えするようにフランが一歩前に出てガレオスの説明に付け加えた。

「ふむ、そうか……まあガレオスが大丈夫だと判断したのなら大丈夫じゃろ」

 二人の話しを聞いてイワオは納得したのか、鋭い眼差しをおさめて頷いた。誰もかれもがガレオスの判断を信じていることにバーデルは呆気に取られている。


「あ、あの、俺抜けましたけど元八大魔導なんですが、いいんですか?」

 この場の主導権を握っているらしいイワオに対してバーデルが恐る恐る質問した。自分たち八大魔導がしてきたことを知らないわけではないバーデルは恨み言を言われても仕方ないと思っていただけにすっかり拍子抜けしてしまっていた。

「ん? あぁ、こいつの人を見る目は確かじゃからな。お主も裏切る気はないじゃろ?」

「そ、それはもちろん!」

 イワオの返事を聞いてバーデルは即答した。力を身に着けて八大魔導と呼ばれても使い捨ての駒のようにされるくらいならば、自分を信じてくれたガレオスの為にこの力を使って戦いたいという気持ちが強くなっていたからだ。


「なら、ええよ。それよりもここからどう動いていくか話し合わんとじゃな」

「あっ、ちょっといいかしら。それを話し合う前に、お願いがあるんだけど」

 敵でないのならば構わないとイワオが戦術に対する話を進めようとするが、リョウカが発言したことでそちらに注意が集まる。

「街の外に修道院の院長さんと修道騎士、それと修道院にいた子たちが数十名が待機しているのよ。修道院が何度も魔法王国に攻められて耐えきれないと判断したの。こいつじゃない八大魔導まで戦力として出してきたわ」

 リョウカの説明を聞いてイワオは腕を組んで考え込む。


「ふーむ、また攻め込まれる危険があるということかの……それなら、修道院にとどまれないというのは正しい判断じゃが、さてどうしたものか」

 いくらギルドマスターのイワオであっても人数が多いため、安易に受け入れると即答できずにいた。上に立つものとして昔馴染みとはいえ、おいそれとなんでも受け入れるわけにはいかないということだろう。

「もう、何よ。あれくらいを受け入れることができなくて、国なんて取り戻せるわけないでしょ! もっと気概を見せなさい!」

 弱気な彼に我慢できなくなったのかリョウカがびしっと強く言ったため、そこまで言われては迷っていられないとイワオは観念したようだった。

「あー、わかったわかった。なんとかするから、その院長を連れてくるんじゃ。まずは外の者たちをなんとかしてから、戦争の話をしようかのう」

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