第32話 適材適所
砦の責任者である彼が執務室の扉を開け、息巻いて飛び出ると、そこにはリョウカとフランが待ち構えていた。
「お、お前たちは何者だ!」
兵士たちとは明らかに服装が違うため、侵入者であることはわかったが、それが女性二人であることに驚いていた。
「あなたこそ何者よ?」
「サカエ隊長、こちらはおそらくこの砦の責任者の方かと思われます」
質問に対して質問を返すリョウカに対して、小声でフランが囁く。
「ふーん、あなたがここの……だったら話が早いわね。死んでもらうわ」
その囁きに眉をピクリと反応させたリョウカはそう言って持っていた槍を構えた。
「く、曲者だ! 倒せ!」
男は周囲にいる兵士たちに命令した。命令された兵士たちは状況が掴めないため、戸惑いつつもリョウカに向かっていく。どうやら彼らは近接魔法の使い手のようだった。
「ふっ!」
だが槍を構えたリョウカがひと突きするだけで、兵士たちはあっという間に全員その場に崩れ落ちた。
実際には目に見えないほどの速さで人数分の突きを繰り出しており、それは同時に離れた兵士へと衝撃波を放っていた。その衝撃波は心臓を的確に狙っており、彼らは絶命していた。
「あとはあなただけみたいね、いくわよ!」
リョウカが踏み出して次の攻撃に移ろうとしたが、それはフランによって止められる。
「待って下さい……あなたがここの責任者であるのは間違いありませんね?」
フランの質問にはいつも意味がある。そう考えたリョウカは構えは解かずにいるが、攻撃自体は止めていた。
「そ、そうだ。私はこの砦を預かっている者だ!」
リョウカの強さを目の当たりにした男だったが、それでもまだ自分の魔法があれば何とかなると考えている。その魔力を練る時間稼ぎのためにフランの質問は願ったりかなったりだった。
「次の質問ですが、なぜあなた方は修道院を攻めていたのですか?」
フランはずっとそれを疑問に思っていた。姫がいると知っているのか、知っているのならばそれはどこから漏れたのか。
「ふん、そんなことを聞きたいのか。あそこの修道騎士が目障りだからに決まっておろうが! あそこは中立地帯などと言って我らの要請にも従わん! そんな場所は滅びて当然だ!!」
すぐに殺されずに済んだことで強気を取り戻したのか男の語気はどんどん強くなっていく。
「その要請、とは一体なんでしょうか?」
静かな声音でフランが続ける質問を聞いて男は鼻で笑った。
「はんっ、決まっているだろ。薄汚い武源騎士団の残党狩りの手伝いをすることだ! お前らのようなやつらのな! くらえ、怒りの雷撃!」
男の魔力は既に練られており、手をかざすと雷の魔法が放たれていく。砦を任されるだけのことはあり、彼の魔法は中位~上位に位置する魔法だった。本来この狭い通路で、二人の敵を相手にするのであれば、この魔法を選択した彼の判断に間違いはなかった。
通路全体を埋め尽くすような雷が降り注ぎ、フランとリョウカには逃げ場所がなかった。
「やるわね、でも!」
雷が降り注ぐ中、力強い眼差しで立つ彼女の手にする槍の銘は『夢幻』。
「いくわよ?」
そしてにやりと笑った彼女の突きは通路を埋め尽くすだけの数に増殖していた。
「なんだと!?」
彼が放った魔法は夢幻の突きによって全て打ち消されていた。
「私たちはあなたがたのように魔法を使うことはできません。ですが、あなたたちが魔法を使うように私たちには武源による武器があるんですよ」
自分の魔法に自信があった男はその声を聞いて背筋に悪寒が走った。それは声がすぐ後ろから聞こえたからだった。
「さようなら」
最後まで冷静なままフランは彼女の武器ユーリカを振り下ろし、肩口から男を一刀両断にした。
「手ごたえのない相手だったわね。私が陽動に回ったほうが楽しめたかしら?」
久しぶりの戦場とあって気持ちが高ぶっていたリョウカだったが、あっさりと砦の頭を倒してしまったため消化不良な気分だった。
「そう言わないで下さい。私たち二人だったからここまであっさりと来れたんですから」
フランは相変わらずだなと呆れたようにそう返す。
「まあ、そうなのよね。ガレオスだったらもっと目立ってたはずだもの、適材適所なのよね……」
そもそも今回の案を出したのは彼女であることをリョウカは忘れていた。
「それで、ガレオスのほうはどうなってるのかしら?」
「行ってみましょう、内側から扉をあけないと」
砦の頭を倒したことはまだ前線には知れ渡っていない。それを知らしめてこそ今回の任務完遂といえるため、彼女たちは急いで表へと向かった。
砦正面
「いいぞ、どんどんかかってこい!」
既にガレオスは戦場を支配していた。
自信のあった兵士たちは既にガレオスの二刀によって全て斬り伏せられている。
「く、くそっ! こんな化け物に勝てるわけがない!」
いまここに残っているのはガレオスと戦うことを諦めている者のほうが多く、皆、砦に逃げ戻ろうとしていた。
すると砦の入り口の前に一つ大きな雷が落ちた。それに巻き込まれて亡くなった兵士もいたが、それよりも注目すべきは雷の着地点の中心に現れた男だった。
「おいおいおいおい、なんだこりゃ! 怖くて逃げ回るのが魔法王国の兵士のやることか!!」
男は顔をあげるなり、周囲に怒声を振りまいた。その声には威圧に似た魔力が込められており、その場にいた兵士のうち既に心が折れている者は立っていることすら困難だった。
「あいつ、まさか」
ガレオスは目をこらして、突如現れたその男を見ていた。
「ああん? おい、そこのお前がこの惨状の原因か? たった一人でか? 調子乗りすぎじゃねえか?」
顔に青筋を立てている男はガレオスを睨みつけながら、ふわりと身に着けたマントをたなびかせて近寄ってくる。
「あぁ、俺一人だ。そういうお前はあれか、八大魔導か?」
魔法王国の最大実力者八人『八大魔導』と呼ばれる彼らは、共通したマントを着用していた。
「よく知ってるじゃねえか。だが、それを知っても顔色一つ変えないのは気に食わねーな!」
八大魔導の彼はこの悲惨な現状に苛立っていた。砦にやってきてみれば、戦闘中であり既に兵士たちは瓦解していた。おかしいと気付いて更に魔力を探ってみると、自分がここの砦の責任者に命じた男は既に死んでいるようだった。
「そうか、これでも驚いているんだがな……お前のようなやつは見たことがないものでな」
ガレオスの言葉は思ったことをただ口に出しただけだったが、彼の怒りのボルテージを上げるのには十分な役割を果たしていた。
「お前よう……死んだぞ!!」
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